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憎悪

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巫女選定式で大恥をかかされたブリジッタ・ビンテル侯爵令嬢はしばらく床に付いていたが、がばりと急に起き上がると憤怒の形相で「あの女のせいよ!」と怒鳴った。

「この私の顔に泥を……どうしてくれようかしら」
神聖巫女がどんな影響力を持っているかなど彼女には関係なかった。この屈辱をどう晴らすかだけを兎に角考えた。結果、秘密裡に刺客を放つことにした。



とある夜。
新月で真っ暗闇の中、彼女はひとり地下通路を歩いていた。胸を潰し髪を散切りに切り落とし、男のフリをして向かう先は闇ギルドだ。彼女は金さえ積めばなんでもやるという連中を雇うべくそこに立ち入ったのだ。

「ほうほう、巫女を亡き者にね。思い切ったことをいうじゃないか」
闇ギルドは丁寧なカウンター受付などいやしない、壁越しに問答するのだ。粗末な穴が一つ空いていてそこで依頼をするのだ。

「で、報酬は?半端な額では動かんぜ」
「……手付金が白金貨10枚、成功報酬はその2倍だ。失敗したら半分だ」
彼女は声を潰す魔法で男のフリを通す、フードを被りマスクをしていた。多少の華奢な線は誤魔化している。それでもドキドキと胸を鳴らして相手の出方を待つ。

「ふぅむ、手付金はいいが、報酬が足りねぇな。3倍でどうだ?それだけ手子摺る相手だからな」
「く、わかったそれで良い」
「毎度、これが血の契約書だ。真名じゃなくても良いぞ、血を一滴落として名前をかけ」
「わかった」

羊皮紙の契約書に血を落とすと白く光った、どちらかが契約を反故にすると命を奪われる。これは己の命を張った契約なのだ。
「良しこれで成立した、契約期間は半年だ。何か質問は?」
「ない、良い報告を期待する」



そして、彼女は地下から這い出るとやっと一息ついた。
その瞳は爛々としていて復讐に燃えていた、逆恨み甚だしいが彼女にとっても重大なことだ。

「やっと手に入れたこの魔力……無駄になってしまったわ」
選定間際に起きたブリジッタ・ビンテルの魔力の増大、それすらも金で買ったものだった。彼女は己の欲に忠実で真っ直くなのだ。例えそれが非合法なものであっても。

彼女の父、ヒンデル卿は野心家で自分の娘すら道具と見ている、彼女が巫女に選ばれるのならと法外な金を出して魔力強化に協力した。だが、それは叶わなかった。

落胆した彼は娘を邪険にした、選定後はいない者として扱ったのは言うまでもない。そして、カルミネ王子に至ってはあれほど愛を語った口で婚約破棄をした。何もかもが彼女の敵になったのだ。

「お父様……貴方のことは許さないわ、カルミネ王子、貴方もね」
どこで買ったのか剣がひと振り彼女の腰にあった、佩いたその剣は仇討ちのために鈍く光る。
彼女の目は昏く闇に落ちていた。




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