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白皙の神聖巫女
しおりを挟む「あの、私は巫女と言われましても……」
王太子に婚約破棄されて見限られてきた彼女の胸中は複雑だ、いまさらに祀り上げられても迷惑というものだ。
「ああ、気にすることはない。ただの啓示ですから」
「ええ?それはどういう」
困惑する彼女に教皇は微笑んで言う。
「すべては貴女様の赴くままに、ということですな。この地を捨てて出ていくのならばそれも由、私達は貴女に付いて行くまで」
「はあ?」
教皇は神聖巫女たる彼女に跪いてそう述べた、それに倣うように司教たちも頭を垂れるのだ。
神聖巫女の信仰は全土にわたり知られている、いま時点で総本山とされているのがサンボニッチ王国というだけで、彼らは土地に頓着しないらしい。
それを聞いた彼女は「だったら余所に行きたい」と言った。婚約破棄され辛酸をなめ続けてきたアデリナ・トレンティは他の土地に行きたいと強く願う。
「そうよ、どうせならば違う土地に移りたいわ。私の家族も婚約破棄を受けてから私に冷たいのよ。こんな国など捨てましょう」
「はい、仰せのままに」
教皇は優しく微笑んで同意したのだ、ならば一刻もこの国から出たいと彼女は言うのであった。
「ああ、まだ見ぬ新天地……どのような所かしら?」
彼女はうっとりと呟く。
***
「なんだと!アデリナが選ばれたと言うのか!?」
選定式に潜り込んでいた従者から報告を受けたトレンティ卿は信じられないと愕然とした。カルミネ・サンボニッチ王太子との婚約破棄をしてからというもの、ずっと虐げて来た娘が選ばれたと聞いたのだから無理はない。
「これは拙い、拙いぞ……」
神聖巫女といえば王族より尊く、高い地位を持つのだ。さらには猊下に寵愛を受けると言われており、その地位は死ぬまで揺るぐことはない。
たかが公爵など比較になりはしない。
「こうしてはおれん!早くアデリナを迎えに行かなくては!家令、仕度をせい!我が家の一大事ぞ!娘の部屋も一番上等なところに移せ!」
「は、はい!今すぐに」
ハチの巣を突いたような大騒ぎをするトレンティ家は、自分達が受けるであろう恩恵にあやかろうと必死のようだ。都合の良い考えをしているトレンティ卿は愚かとしかいいようがない。
そして、それは王家とて同じことだった。
カルミネ王太子は早速とブリジッタ・ビンテル侯爵令嬢との婚約を破棄した。破棄を言い渡された令嬢はあまりの事に卒倒した。こうもコロコロと手の平返しをする王太子に貴族連中は呆れた。
「あまりにも軽率ではないか?のう財務の」
「ほんとうだな、軍部の」
二大勢力の各大臣らがこそこそと噂をしていた、この国の幹部たちまでもカルミネ王太子の態度に疑念を抱き始めた。
現王は頭を抱えて廃嫡もあるだろうとカルミネを糾弾した。こうも易く婚約者を変えては外聞が悪すぎた。王妃とて匙を投げて「第二王子に王太子を」と言い出す始末だ。
一気に立場が悪くなったカルミネだったが、「自分を愛しているアデリナが心変わりをするわけがない」と意味不明な根拠のない自信を持っていた。
「待っていろアデリナ!紆余曲折あったがお前を王太子妃に任命してやろう!ワハハハッ」
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