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今更です旦那様
しおりを挟む「どのような御用向きでしょう、旦那様。私如きに会いに来るなど一年ぶりの事です」
「いっ、一年だと!?そんなまさか……」
それを聞いた彼は改めて目の前にいる妻、シャルドリ―ヌを頭の天辺から足の先まで見据えた、そして、背丈が変わっていた事に漸く気づいた。
これはウッカリしたとは言えないレベルだ、どれほど妻に興味が無かったか知れようというもの。たった数週間と思っていたのに一年間も気が付いていなかった。
今の妻はたった一年の間にメリハリのある身体付きになり、仄かに色香まであった。マナーや知識を得た彼女は所作は優雅になり貧乏をしていた頃とは雲泥の差だ。それらは全てオーギュスタンが指示し学ばせたことだ。
「す、すまない……あまりに無頓着が過ぎたようだ」
無関心が過ぎた事を慌てて詫びるオーギュスタンだったが、シャルドリ―ヌは何でもない事のように笑って済ませようとする。
「いいえ、旦那様。貴方が私に関心を示さなかったように、私も貴方に対して興味をそそられなかったのですわ。これはお互い様です、ですから何も問題ありません。お忘れください」
にっこりと微笑み残酷なことをサラっと言う妻は「それでは御機嫌よう」と頭を下げてその場を辞した。
***
「何という事か……私はとんだ愚か者だ!」
デスクを激しく叩いて家令や執事たちビクリとさせた、一体主はどうしたのだろうと首を竦める。あと数年で家督を譲られるというオーギュスタンは学ぶことが山積みで、日々胃が開きそうなほど苦労をしている。
言い訳がましいが愛人であるバネッサ・アレオンの事も忙しさにかまけて放置してきた。そのツケがこうやっていろろいろと皺寄せてきた。
「あぁ……シャルドリ―ヌ、あんなに美しく変貌するだなんて、誰が想像できただろうか」
その手は忙しなく仕事を熟しているが、彼の頭の中は彼女の事で一杯だ。どんな事が好きだろう、どんな色が好ましいのだろうとそんな事で頭が占められていた。
「え?どんな色が好きかって?その質問にはどんな意味があるのでしょう?」
珍しく家令に声を掛けられたシャルドリ―ヌは頭に疑問符を浮かべた。洗練されたロマンスグレーの家令は明らかに引き攣った作り笑いをしている。
急に猫撫で声で「何色がお好みでしょう」などと言われたシャルドリ―ヌは警戒して数歩下がる。今まで愛人バネッサを敬ってきた彼が、そのように態度を翻してくれば無理もない。
「どうかお願いします、奥様。若旦那様からの要請なのでございます」
「ひぃ!?」
そして、胡麻をする家令に対して、シャルドリ―ヌから返ってきた言葉は「気持ち悪い」だけだった。
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