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「どうしてアレシアから返事が来ないんだ!可笑しいだろう!」
彼女から一向に手紙が届かないことに苛立つキアラ第二王子は焦れて水差しや家財道具にあたり散らす。おかげでメイドのミアの仕事は増える一方だ。

「キアラ様ぁ落ち付いてください、私の仕事が増えるじゃないですかぁ。グスン」
「はあ!?名を呼ぶ許可を与えたつもりはないぞ!それに好き勝手に暴れて何が悪い俺は王子だ!逆らうなよ!」
「そ、そんなぁ」



溺愛されているのはミア自身と信じていたのにあんまりな所業だと不満を漏らす。それを見ていた侍女たちは「良い気味だ」と嘲笑う。

「バカね、自分は愛されてると勘違いしちゃってさ」
「ほんとよ、ビスカルディ侯爵令嬢に敵うと思っていたのかしら?」
「下々の者は夢見がちよねぇ、キャハハハ」

目の前でバカにされたミアは「なんですって!」と反撃する、だが彼女らは怯まない。
「貴女、私達が高位貴族だと忘れたのかしら?」
「そうよ、襤褸雑巾のように働かなきゃならないアンタとは違うのよ」
「汚れ仕事は貴女の役目、そうでしょ?」
「な!」

確かにお仕着せからして違っていた、侍女は立派な絹製でふんわりとしたドレスである。対してミアなどのメイドは木綿でパニエなどは使われていない。
「くっ!何よ私が可愛がられてるからと嫉妬して」
「嫉妬?何に対してかしら、貴女気づてないようだけど、ただの噛ませ犬なのよ」
「え、なんですって」

「頭鈍いわね、アレシア嬢を貶めているようで引き立て役なの!どうしてわからないのかしら」
「そうよ、侯爵令嬢と平民同然の準男爵じゃ話にならないわ。私たちに対してもそうよ、本来口も利けないというのに」
「ぐ……」

ミア・レンティは反論できなかった、身分差はどうしようもなく彼女の前に立ち塞がる。そのまま逃げるようにして階段を駆け下りて行く。
厭らしい侍女たちの笑い声が耳にへばりつく。



「身分が何よ!私の方がずっと見目は良いんだからね!いつか王子を誑かして妃になってやる、そしたら私の方が身分は上よ!」
叶えそうにない夢を描いてミアは不敵に笑う。

「さぁ、今一度王子のご機嫌取りをしなくっちゃ!彼の大好きなクッキーを焼いて持っていくの」
鼻歌を歌い階下の奉公人用の厨房へと急ぐのだった。




「あぁ、アレシア……本当は大好きなのに、どうして俺はいつも反対の事をしてしまうんだ」
キアラは届かない手紙を必死で認めた、”いままで済まなかった””大好きなんだ”と今更なことばかり書いた。いまでは婚約者がクラウディオ第一王子に変更されているなど露程も知らず。

「会いたいよアレシア……いまならば素直に愛していると伝えられる気がするよ」










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