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しおりを挟むそうこうしているうちに三度目になる王子との茶会が再び始まった。
今度は王妃サブリナも参加していて不安げだったアレシアも「ホッ」としたものだ。いくらなんでも”婚約者下げ"を母親の前ではしないと思った。
「ねぇ、アレシア貴女のピアノを披露してくださらない?とても素晴らしいと聞いているわ」
「まぁ、勿体ないお言葉です。サブリナ王妃様」
彼女は散々とこき下ろされてきたので汚名返上をしたいと張り切った。サロンに置かれたグランドピアノに向かい深呼吸する。
「では、参りますわ。題目は湖上の歌姫です」
するりと優雅に始まった楽曲は素晴らしいものだった、歌うように軽やかにそして風雅に鍵盤を踊る指はどこまでも美しい音を奏でるのだ。
「まぁ!素晴らしい事!宮殿のお抱えピアニストに負けていないわ!」
「あ、ありがとうございます。お耳汚しでした」
「んま、そんな事はないわ!自信を持って頂戴な、ねぇキアラもそう思うでしょう?」
傍らでブスくれていたキアラ王子は「はん」と鼻で笑い、「どうせミアに比べれば凡庸なことよ」と言った。空気の読めない王子の発言にピクリと反応する王妃だ。途端に凍り付くその場にアレシアはどうしたものかと頭を悩ます。
「あらそう、ならばそのミアとか言うメイドに演奏して貰おうじゃないの?いまの素晴らしい音を超えるのでしょう?」
「はい、もちろんですとも!ミア、演奏してくれるよね?」
「え……お、王子……あの」
話をふられたミアは青褪めて「申し訳ございません、指を痛めていて」と言い訳を述べてポロポロと泣き出してしまう。彼女は最初からピアノなど弾けないのだが、悲劇の主人公のようにさめざめと泣き真似をするのだ。
「あぁ!泣かないでミア!俺が悪かった、指は大丈夫か?……アレシア!お前も謝れ!そんなどうでも良い演奏などをして彼女を困らせるな!」
「な……!」
あまりの言いようにアレシアは愕然とした、ただピアノを演奏しただけでそこまで言われるとは思ってもみない。
「これ!キアラ、なんて言い草ですか!謝るべきはお前のほうです、ミアとかいうメイドを庇って普段からアレシアを下げているらしいじゃないの!許しがたいことだわ!」
「い、いやそれは……その」
あまりの王妃の剣幕にタジタジになるキアラは「しまった」という顔をする、つい、いつもの調子でアレシアを悪く言ってしまったのだ。
実はキアラ王子はアレシアを溺愛しているのだが、いまいち伝え方がわからず。照れ隠しでメイドと見比べて『お前は何もできないクズ』と言ってしまうのだ。
そんな事情など知る由もないアレシアは傷ついている。
「キアラ!謝りなさい!」
「い、嫌だ、どうして俺が謝るんだよ!その女が悪いんじゃないか!」
逆上したキアラはあくまでアレシアが悪いのだと言ってしまう、本当は素晴らしい演奏に聞き惚れていたのに。素直になれない14歳の捩じれた感情なのだ。
「キアラ、お前には失望しました。しばらく頭を冷やしなさい、衛兵、この者を北の塔へ幽閉しなさい。期限は無期限でよろしい」
「そんなお母様!酷いです、俺はただ……」
「だまらっしゃい!出来損ないの分際でアレシア嬢を貶した罪は重いわよ!」
こうしてバカなキアラは北の寒い塔に禁固されることになった。
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