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ミロマドゥ
しおりを挟む「誰が口を開いて良いと言った?愚か者め」
美少年はそう冷たく言うとバッタでもって食い殺した。恐怖政治の始まりだった。だが、しおらしい者には恐ろしく優しい王である。
「あぁどうか盲しいた目を治してください……」
幼い少女が助けを請う、なんと畏れ多いと人々は畏怖した、しかし、若き王は「あいわかった」と言ってそれを聞き入れる。
町に降りて来た新王は公園の前に佇み願いを叶えてやった。
「ああ、光が!なんという事でしょう、見えます!有難いことです!」
「なに、大事ない。お前の魂はとても清い、そのままで生きて行け」
「ありがとうございます!」
このように魂が美しいものには大抵優しいのだ、恐れる者は腹黒い連中だけである。
「聞け!良いか、私は城を自由に行き来できるように解放した。願いがあるものは来るが良い、だが私利私欲で助けを請う物には容赦しないぞ」
それを聞いた者達は一斉に平伏した、だがそれでも良くない者は後を絶たない。なんとか誤魔化して欲をだそうとする。
「ふん、お前が嘘をついていることはわかるぞ、痴れ者が」
「そ、そんな!私には病気で苦しむ妻が……」
ミロマドゥはニィと笑うと「貴様が独身なことは知っている」と言った。嘘をついた男は虫に姿を変えられてグシャリと潰された。
「さあ、願いを言えどんなことでも叶えてやる」
***
「あ、あのボクは死んだ母さんを蘇らせたいのです」
貧しい身形の少年がポツリと言った、それは叶えれそうもないと周囲は落胆する。
「ぼうや、それは無理ってものだよ」
近くにいた老人が声を掛けて来た、いくらなんでも死んだら終いなのだという。
「で、でも……」
泣きそうな顔をする少年にミロマドゥは大変驚いた、死んだ者を蘇らせたいと申し出たことにショックを隠せない。
「すまんな少年よ、そればかりは叶えられない。代わりに一日一枚金貨が湧く壺を与える」
「……はい、ありがとうございます」
寂しそうに笑う少年はトボトボと帰って行った。
「なんでも願いを叶えるというのは傲慢だった、あぁ主様、人とは難しいものですね」
ミロマドゥは悲しいという感情を初めて知った。それは衝撃的なことだった。
例え金貨を与えても彼の心は晴れないのだと知ったのだ。
彼は少年のことが気になり、身を隠して暫く様子を伺った。
金貨が一枚づつ増える壺は家の中に放置されていた。やはり役にたっていない。そのうちに金貨があふれ出るようになった。
すると少年はその零れた金貨を掴み何処かへ走って行く。どうしたことだろうと後を追った。
そこには一層貧しい家がありそこに寄付していた、所謂孤児院というところだった。
「どうぞ、皆さんの役に立てるのであれば」
「まぁありがとうございます、貴方に良きことがありますように」
少年はほんの少しだけ微笑んだ、彼の魂が救われたのを知る。
「ああ、主様。人間とは愚かな生き物と思っておりましたが、とても尊いのだと私は知りました」
ミロマドゥは心に温かさが宿った、優しさというものを理解したのだ。
「私はこの国を豊かにしたい、それが望みです」
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