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どうしようもない男
しおりを挟むボワッと炎を短剣に纏わせララは臨戦態勢になった。
ムカデの化物と化したトマスは「クソがぁ!」と激高している、どのような事情で化物になったのか知らないが放置すべきではないとララは思う。
「虫ならば火に弱いわよね、ファイアボール!」
詠唱と同時に火の玉が発動した、ボールなどと言ったがとてもそんな可愛い代物ではない。ブワリと3mほどの炎が剣から噴き出してトマスのムカデ足に纏わりついた。
「がああああ!熱い!なんてことを!」
「あれ?どうして反撃してこないの?おかしいわ」
ブスブスと焦げ臭い匂い放ち、ムカデの足が白く変色した。黒くないのは燃え尽きた証である。
「お、俺は人間だといっただろうが!あああ!痛い!痛いぞ」
「う~ん、どうもやり難いわ。回復薬をかけてあげる」
「え?」
所謂ポーションらしい水をかけてやった、焼け落ちたはずのムカデの足がニョキニョキと生えてきたではないか。
「あああ、やはり呪いは解けないか……ムカデのままだ」
がっかりとしたトマスは回復したはずの足を恨めしそうに睨む。ジャララと音を立てて悔しそうだ。
「貴方、どうしてムカデになったの?経緯を聞きたいわ」
「……それはシェイドの呪いだ、あやつめクラーラを放逐したことに怒り狂い見境なく我らのことを」
それを聞いたララは「助けるんじゃなかった」と呆れる。
それを聞き逃さなかったトマスは「どういうことだ!」と訝しむ。
「まだ気づかないの、教える義理もないけど」
「え?……まさか、まさかクラーラなのか?ほんとうに?」
目の前の娘は出るところは出ている肢体をしていた、いわゆるボンキュボンというところだ。約一年とちょっとの間に大分育っていたのだ。顔立ちも幼さが抜けていて大人っぽくなっていた。
「はは……ハハハハハッ!なんということだ!ハハハハハッ」
「なに、怖いんだけど」
「良く聞けクラーラ!俺は良く熟れた果実が好きだ、大人に成長したのならばお前を嫁に娶っても良いぞ。ああ、なんという幸運か!ダンゴムシになったベリンダなんぞ捨ててやる!」
「はあ?なにを言っているの気持ちが悪い!」
再び火を纏うと攻撃態勢になった、今度は容赦しないと覚悟を決める。人を殺めるのは初めてだ、うまくいけるだろうかと固唾を飲む。
「俺を殺す気なのかクラーラ、果たして上手くいくかな?先ほどは油断したが抗わせて貰うぞ」
彼は王族特有の光魔法を出してきて応戦する構えだ。
「くっ……化物、相手は化け物なのよ、しっかりしなさい!」
己を叱咤して炎を噴出させる、迷いがあればそこを衝かれてしまう。
「どうしたクラーラ、俺を殺すのだろう、それとも諦めて嫁になるか?クハハハハッ」
「気色悪いのよ!このムカデが!」
「ムカデと言うな!」
怒った彼は光魔法を最大にして攻撃してきた、雷撃というものだ。だが、ララはなんなく往なす、力でいうならば彼女の方が上手だ。
「いまのは何?雷撃のつもりだったのかしら。ほんとうの雷撃を見せてあげる」
「んなあ!?」
彼女は光魔法を駆使して雷撃を放つ準備をした、バリバリと雷特有の音を立て始める。ここで初めて彼女の本気を見たトマスは「やめろ!」と言い出した。
「やめろ!やめてくれぇ!」
「いまさら命乞いのつもり?容赦しないわ」
「ぎひいぃ!」
雷撃が一層と膨らんだ時だ、「待て」と声がした。
「ララ、キミが手を汚す必要はないよ。ここは任せてくれないか」
「シェイド……あなた」
シュパンと雷魔法が彼の手の中で消えた、さすが神だ、やることが尋常ではないとララは安堵した。
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