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長旅
しおりを挟む旅に出て半年が過ぎた、何事もなくララはルデルバリの王都へ辿り着きギルドで依頼を熟していた。ルデルバリは思いのほか大きくて長居してしまったのだ。
「ここまでに五つの町を行ったわ、移動したいけど追手も来ないしノンビリ過ごすのも悪くないわね」
平穏を勝ち取ったララは大欠伸をする、そしてギルドの依頼ボードを眺めていた。
「ララ、私は少しばかり留守にするよ、加護はつけているから大事ないと思う」
「そう?気を付けて……というのは可笑しいわね。いってらっしゃい」
彼女はヒラヒラと手を振りしばしの別れをいう、それを見たシェイドは「もっと他にないの?」と臍を曲げる。”行かないで”とか”私も行く”などとしおらしい事を期待したらしい。
「まあ!私にそれを期待するのは間違っているわ」
「だよね~わかってた……ション」
余りに悄気るものだからララは「プスッ」っと笑ってしまった。それから彼女は背伸びをして頬にキスをした、それは触れるか触れないかの微かなものだ。家族にするようなものだ。
「ララが私にキスをしたあああああ!おお、なんということだ!」
「大袈裟ねぇ、ただの挨拶だわ」
ここはギルド内だ悪目立ちが過ぎるとララは呆れた、相変わらず美しい容姿のシェイドに注目する女冒険者たちは気に入らない顔をする。
「ごほん、わかっていると思うが、私がいない間にララに害成そうするなら容赦はしない」
闇の神らしく威厳を発揮すれば周囲にいた者は恐れをなし「ひぃ!」と後退った。加護もつけていることだし、滅多なことは出来ないだろう。
いまや彼の事は”神”として周知されていた、余程のマヌケでない限りちょっかいは出さないだろう、牽制は上手く行った。
「私なら平気だわ、加護なんて必要ないもの」
全属性持ちのララは力瘤を造ってそういった、またも周囲からどよめきが聞こえた。力を込めた拍子に氷魔法が噴き出してしまった。彼女は慌ててそれを消す。
「そうはいかない!絶対だ!」
「もう……わかったわ、さっさと行って」
***
空を駆けるシェイドは尋常ではないスピードで移動する、ララを乗せている時は大分加減していたようだ。その証拠に瞬く間にオルフォード国へ着いてしまったのだから。
「お待ちしてマシタ、我が主」
「うむ」
クロイモノは膝を付いて恭しく礼を取る、半壊した城の玉座に腰を落としたシェイドは片足を上げて座る。そして、パチリと指を跳ねさせるとあっという間に荘厳な玉座に仕立て上げた。罅が割れていた壁も元通りになった、青と黒で仕立てたそれは見事としか言えない。
「素晴らしい出来でゴザイマス、主」
「ふん、これくらいどうという事はない。貴様が誕生したという事は愚王どもは腹の中か」
するとクロイモノは恍惚とした顔で言う。
「なかなかな味でゴザイマシタ、あやつらは腹黒くドウシヨウモナク陰険で捻じ曲がっていたノデス」
彼は美少年顔でそう言うとジュルリと舌なめずりをする。
「そうか、そうでなくては面白みがない。ところで貴様に名付けをしようと思う」
「おお!それは有難き幸せに存じます!」
美少年は顔を煌かせてウットリしている、ネームドにして貰える幸運に打ち震えていた。頭を垂れてじっとその瞬間を待つ。
「うむ、お前の名はミロマドゥだ。良いな」
「ハイ、私の名はミロマドゥ……」
そう彼が名乗りを上げるとドクンと身体を跳ねさせた、そして眩く光ると若干だが大きくなった。
「私の名はミロマドゥ、あぁなんという響き」
その後、流暢に会話する彼の姿があった。
「よいかミロマドゥよ、この地の統治は任せる」
「御意、お任せください、ですがたまには食べてもよろしいですか?」
「……ふん、ほどほどにな、邪悪なものは食って良い」
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