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しおりを挟む「それは真か!おのれぇ……」
ポルデの町で無駄足をしていたトマス・オルフォードは地団駄を踏みたかった、だがギチギチと居並ぶムカデの足ではそれもままならない。悔しそうに唇を噛み「いますぐに移動だ」と命令する。
騎士団の動きを探らせていたトマスだが、とうに彼らはポートリックを目指し船に乗ってホシルタへ向かったというではないか。クラーラはてっきり国内に留まり、細々と暮らしていると思っていた彼は苦虫を噛んだ顔をする。
「思っていたより行動範囲が広かった……クソゥ!」
今の彼女は万能ともいえる能力を有しているなど想像もしていない、たかが少女だと侮り過ぎていた。実際に対峙していたらトマスらなど瞬殺されていることだろう。
その幸運を未だ知らないトマスはただひたすらに彼女の行方を追うのだ。
「待っているが良いクラーラよ!捨てゴマなりに役に立つが良い」
精霊神シェイドの嫁を捨てゴマなどと言い放つトマスに若干呆れる腹心たちだ。本当にこの王子に着いて行って良いものかと疑問視した。どうにも勘違いしているとしか思えない。
「私は降りるぞ、殿は何か思い違いしておられる」
「やはりそうか、そうだよな……」
見た目の恐ろしさから追従してきたが、ここらで縁を切るべきと考えた。この日、腹心二名を失ったトマスはどう生きるのか。
***
一方で船旅を楽しんでいたララたちは順調そのものだ。
さして大きなトラブルもなく過ごしていた、ホシルタまでの日数は20日間だ。あと8日ほどで到着する。
「ふんふんふ~ん、牛のふん~」
「……ちょっと何よその下品な歌は」
呑気そうに歌を唄うシェイドに突っ込みを入れるララは嫌そうに身を捩る、ちょっとした冗談だと笑い飛ばす彼はうっかり素がでそうでヒヤヒヤした。
「もう、止めてよね、いまの貴方は女子なのよ!下品禁止!」
「はいはい、ごめんよ。ついだよ、つい」
相変わらず女装したままのシェイドは大欠伸で答える、女装というよりは身体までも変化していて女性そのものだ。豊かそうな胸をタユンと揺らす。
「……胸、紛いものの癖に腹立たしい」
「ん?なんか言ったかい?」
「別に~」
ツンとソッポを向いて何でもないのよと言うララだ、さりげなく自身の胸を摩るがひっかかりはほとんど無かった。いつになったらボンと膨らむのかとため息を吐く。
「それより何か騒がしくないか?階下からだが」
「え?そうなの?何も聞こえないけれど」
二階建ての質素な船だったが、一階から喧騒が聞こえるとシェイドが言う。
気になったララは降りてみようとシェイドを促す、降りては見たがやはり物音は聞こえない。気のせいじゃないかと彼女がそう言いかけた時だ。くぐもるような小さな声が聞こえて来た。
「シェイド!」
「ああ、わかっている卑怯なことだよ」
客室の一室から時折バタンという音が聞こえて来た、「たすけて」というか細い声が聞こえた。これはただ事ではないと悟ったララは「お願い」とシェイドを頼る。
「任せておいて」
彼はウインクして客室のドアを蹴破った、中には二人の男と羽交い絞めにされた女性が泣き腫らしている。なんという事か女性は半裸の状態でそこにいた。
「たすけて……」
それを見たララはざわりとした感情が湧いて来た、身の毛もよだつというような感じだ。
「なんてことを!恥を知りなさい!」
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