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見知らぬ旅人

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出航日当日、彼女はドキドキとしながら船着き場へ向かう。
例の関所でギルドカードを提出した、当然のように騎士たちが睨みを利かせていて面相を見ている。ジロジロと顔を覗いてくるので気が気ではない。

関所の事務官がカードを吟味して聞いて来た。
「ララと申すか、国外へは何用で参るのだ?」
「……別にあてもないのです、放浪の旅のようなもの」
いまの彼女は顔も声も別人にすり替わっていた、妖しい所は何もないはず、それでも冷や汗は噴いてくる。「ふぅ」と拭って顔をパタパタと煽った。

「ふむ、よかろう良い旅を」
「……それはどうも」
軽く会釈してそこを通り過ぎる、だが騎士の一人がずっと顔を見送ってきて気持ちが悪かった。認識疎外の魔法は効いているはずだ、彼女は平静を装ってそこから立ち去る。



「ふぅ……やっとだわ」
船に乗って一息吐く、喉がカラカラで水をがぶ飲みした。シェイドはどうだったかとキョロキョロと探す。それらしい人物は見当たらない、ハグレたのかと彼女は頭を傾ぐ。

そんな時、こんにちはと挨拶してくる人物が現れた。旅の女性だ、どうやら道中の話し相手を欲しているようだ。
「ホシルタまでの間よろしく、私はエアリよ」
「え、ええ、私はララといいます」
するとエアリはにっこりと微笑み「私だシェイドだ」と小声で言って来たではないか。
「な!?」
「シッ!大きな声はよせ、せっかく化けているのにお釈迦じゃないか」
「ええ~なんでまた女装しているのよ!」

「まぁ良いじゃないか、男女だと余計に目立つだろう?いまはほれ、どこにでもいそうな女だ」
エアリことシェイドは確かに美女でもない、普通の旅人に見える。そこは及第点と言えた。
「はぁ~驚かせてくれるわよね、まったく」
「ははっ、騙すのなら先ずは味方からというではないか」
彼はカラカラと笑って呑気なものだ、ララはと言えば盛大に溜息を吐き「心臓に悪い」とぶーたれている。


3本目の水を飲み干していると漸く出航のようだ、ボーッという汽笛が鳴り船がゆっくりと岸から離れて行く。
「漸くサヨナラね」
「ああ」
感慨深くそういう二人は安堵の声を漏らす。不意に横目へずらすと見覚えがある制服を見た。
「騎士が数名乗っているわ!」
「なんだって?」

どうしたことか騎士達も同じ船に乗船してきたのだ、認識疎外の魔法を二重掛けしたのは言うまでもない。
「なんてこった考えればわかりそうなもの、奴らも国外へ行くわなぁ」
「はぁ、気が休まらないわね」

なるべく視線を外して様子を伺う、彼らは乗船しただけで客を疑っている様子はない。「ガハハハ」と馬鹿笑いして談笑していた。「ほう」とため息を吐き取り合えずは大丈夫だと思う。
「なるべく大人しくしていましょう」
「うん、まぁなるようになるだろうさ」

ララのことを絡むように睨みつけてきた騎士はいなかった、それだけでも良しとしようと思った。再び喉が渇いた彼女は「もう一本買ってくる」と言って離れようとした。
「まて、私の加護をつけてやろう」
「え?加護?」
手の平から黒い靄のようなものを吹き出させて彼女の身を包む、これでララがどこにいようが手に取るようにわかるらしい。

「なんか、嫌……ストーカーされているみたい」
「そんなことはないぞ、決して邪な感情はない決してだ!」
「ええ~」
そんなこんなで船旅をすることになったララとシェイドだ、果たしてこのまま何事もなく過ごせるのだろうか。

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