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シェイドの事情
しおりを挟む「不埒者は貴様か、剣の錆びにしてくれるわ!」
怒気を孕んで威嚇してくるのは見知らぬ剣士だ、自らを「剣豪」と名乗っている。シェイドはなんの事かわからずポカンとしていた。だが、ララに追いやられて暇をしていたものだから”面白い玩具が手に入った”とニヤニヤした。
「いきなり不埒者とはご挨拶だな、まぁもとより縛られて生きてはおらん」
人の作った法に背くとは神であるシェイドからしてみればただの遊びも同然だ、その逆もしかり。余裕たっぷりに笑って見せればその人物はいよいよ腹に据えかねたのか「やあ!」と掛声をあげて斬り込んで来た。
人如きが神に向かってくるのだ、これが笑わずにおれるだろうか。
「ぬう?」
「ほれ、どうした。切り臥せるのではなかったのか?」
斬ったはずの人物がノホホンとして大欠伸をしている、焦った剣豪は「こなくそ!」と何度も斬って来る、だがやはり血飛沫すら舞い上がらない。それでも諦めないのか「てや!」「そりゃ!」とやっていた。
「いい加減にしろ先ほどから痒くてたまらん、具現化するものではないな」
「へ?一体どうなっているのだ」
剣士はどうやらクラーラという姫を拉致したというシェイドの情報を掴んでやってきた傭兵のようだ。子細までは把握していないのか、どうやら彼を誤解しているようだ。
「どうして斬れないのだ!ええい!物の怪の類か!」
「物の怪ねぇ、似てるといえばそうか。私は精霊神なのだからな」
ジリジリと幅を確保して間合いを取ってくる剣豪は「いったいどうすれば」とやっている。どうやら情報が錯綜しているようで、騎士軍から得た情報を曲解しているようだ。
「騎士達は思ったより仕事をしているようだ、私がすでにクラーラと接触していることを掴んだらしい。だがなぁ宜しくない、実に宜しくないぞ」
ふたりが行動をともにしていることを知りながら、妨害行為をしてくるとは如何なものかと神は思った。だが、阻んで来たのは剣士の勘違いによるものだ。
「どちらにせよ、許す気はないぞ。わかっておるのか人間」
「へあ?――」
ニコリと笑ったシェイドは「去ね」と言った、文字通り消去したのだ。闇魔法によって剣豪を名乗る剣士は残滓も残さず消え去った。
「ああ、もっと遊んでやるべきだったか?また暇になってしまったぞ」
闇で作られた霧は剣士だったものを丸のみして消えた。
「仕方ない、そろそろ合流するか。待っていてクラーラ、愛しい人」
彼はウットリと恍惚な顔をして体を靄のように変化させると、そこから移動を始めた。具現化しないで移動するとより早く彼女の元へ近ずくのだ。
その様子を伺っていた騎士のひとりが「化物……」と呟く。
「恐ろしいものを見た、なんだアレは……生き物という概念は適当ではない」
騎士はゴクリと生唾を飲み込む、だが乾いた喉は飲み込むものがない。カラカラに渇いていたことを漸く気が付く。
「恐ろしい、あんなものを我々は相手しなければならないのか」
水筒から水を滴らせてゴクゴク飲み干す。
斥候を担っていた騎士は鎧を焼いた、騎士団を抜ける覚悟のようだ。
「ああ、そうだ田舎に帰ろう、出世などどうでも良い。俺は普通に生きていたい」
ぼんやりと焼けて行く鎧を見つめてやがて灰になるのを見届けると彼はその地を去った。
その頃、一向に戻らない斥候のことをイライラしながら待つ騎士隊長は「あんなヤツは首だ!」と激高していた。
「誰か斥候をやるヤツはいないか!今ならば褒章をくれてやる!」
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