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黑い果実2
しおりを挟む騎士隊を編成させてクラーラの足取りを追わせた国王だったが、いまいちな報告を受けて焦りを見せていた。実はとっくにシェイドと接触していたなどと知る由もないのだ。
「ええい、どこを探しておるのだ?ハッ!まさか野タレ死んでいるやも知れぬ!」
そうなったら国など一瞬で滅ぼされると彼は恐れた、だが宰相は落ち着いて欲しいと言った。
「王よ、クラーラ嬢が儚くなったのならばとうに滅ぼされています。まだどこかで生きているのですよ」
「そ、そうか?それならば良いのだが」
最悪を考えた王だったが、宰相の言葉を聞くや安堵の声を漏らす、”まだ生きている”という望みを持つことにした。
王は玉座の間に張り巡らされた黒い果実の事を気にする。
幾分だが大きく膨れた気がしてならない、災厄を齎すかもしれないその実を眺めて王は身震いした。
「あぁ、このまま萎れてくれないものか……せめて足取りくらいわかれば良いのだが」
未だに吉報ひとつ寄越さない騎士団に焦れる王は「ドン!」と足を踏みしめた。反動で黒い実が揺れた「ひぃ」と青くなる王は腰を抜かす。
「ああ、また膨れた気がする……どうしてなのだ?捜索隊が無能だからか?それともこの環境が悪いのか?」
堂々巡りの思考は芳しくない、机上の空論をしていても一向に進展しないのだ。
そこへ、王妃がやってきて「シャルル」と声をあげてきた。
王妃は上半身が蛇なのでシャーシャーとしか声が発せない。それを見た王はその有り様を見て不気味そうに退く。
「なんだ王妃、話したいことがあるのならば筆記でたのむぞ」
「シャシャー」
なにやら怒っているのか威嚇してくるではないか、自身も半身が蜥蜴になっていたが言葉が交わせない苛立ちを覚える。
「何に対して怒っているのかわらん、ネズミが足りないのか?いずれにせよ意思表示が面倒だ」
「シャシャー」
王は匙を投げて侍従らに「ネズミを捕らえて王妃に渡せ」と命令してその場を離れた。それだけなら未だしもダンゴムシになった王女のことでも頭が痛い。
「……会いにいってみるか」
国王は離宮にいるであろう王女へ訪問に訪れた、そこにはすでに出産していた王女が寝転んでいた。産卵して白い玉を抱きかかえている。
声も出せずに寝転がる王女ベリンダの姿を見た王は「なんと禍々しい」と嫌悪の表情をした。
「衛兵、こやつの卵を潰せ。目障りだ」
「は、はい!」
槍でもってダンゴムシの王女を牽制しつつ白い卵を突いた、転がされた王女は成す術なくギチギチと足をバタつかせている。仰向けになったら最後、己で起き上がることは出来ない。
「やあ!」
「でやあ!」
大きな卵を幾度か刺して潰していく、思いのほか堅い様子だ。卵は10個もあり苦戦していた。
「ふぅ……王様、退治致しました」
「うむ、ご苦労であった……」
ダンゴムシの王女は悲しんでいるのか、嘆いているのかわからない。ただ、仰向けから丸くなり元の位置に戻った。そして、もそもそと動いて枯草を食みだした。
「最早、人としての矜持はなくなったか、哀れだな。衛兵よ餌はやらなくて良い餓死させよ」
「御意」
重い足取りで離宮を離れた、どうしてこうなったのだと悲壮感でいっぱいだ。
「すまぬ、我が子よ。こうするよりほかに無かったのだ」
彼の目に光るものがあった、それなりに悲しんでいるのだ。不気味な生き物になってしまった王女はガサガサと這いまわり己の欲望のまま草を食む。
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