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身代わり
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「ど、どうされるのですか!クラ―ラはもうここには……」
「わかっておる!代役を立てるしか方法がないであろう」
精霊神シェイドの出現で、大わらわの王と宰相は馬車を走らせてクラーラの生家であるウィンチカム公爵家へ急いでいた。今頃シェイドは城の玉座に座り今や遅しと待っているに違いない。
「それにしても精霊がほんとうにいたとは……カビの生えた伝説とばかり思っていたわい」
禍々しいオーラを纏った精霊神の姿を思い浮かべて身震いする王だ。
闇を司るといわれるシェイドは気に入った者には幸を齎すが、同時に不幸を齎すと言われており恐怖の対象でもある。その昔、闇の精霊と契約した今の王の先祖が昌運を賜り栄華を欲しいままにしたと言われる。
それにより代々王を受け継ぎいまに至るというわけだ。
「なんですって、私がお姉様の身代わりに?冗談ではないわ!」
我儘なメイベルはけんもほろろな状態で喚き散らした、しかも闇の精霊ときたものだ、誰が好き好んで嫁ぎたいなどと思うのか。
「そこをなんとか!キミはクラーラに良く似ているじゃないか」
「私があの女に似ているですって!?いい加減にしてよ!私はあんなブサイクじゃないもの」
取りつくしまもない状態で癇癪を起す彼女は頑なに拒否をした。困り果てた王は「どうすれば良いのだ」と嘆いた。
このままでは王家どころか国の存続も怪しい。そこをついて説得するしかないと再度頭を下げようとした。
その時だ、恐ろしい声が真後ろから聞こえて来たではないか。
「何をしている、私を待たせるとは良い度胸だな」
「ひぃぃ!め、滅相もございません!精霊神様ァァ!」
平伏す王の陰からメイベルは「なにごと?」と落ち着きなく見回していた。黒い靄のようなものが王の前で揺れている。
「な、なに?これは」
黑い靄のようなものが実体化すると、その恐ろしくも優美な姿が現れたではないか。
長い黒髪を蓄え、鼻梁はツンと尖り瞳は金に輝いている、唇は薄く弧を描いていた。その瓜実の顔は一部の隙もなく整っていた。
「ま、まぁ……なんて麗しいのかしら」
フラフラと誘蛾灯に誘われたように近ずくメイベルはその場につくばり「愛しい御方」と魅了されてしまう。
「其方がクラーラか?容姿は似ているようだが気配が違う気がするぞ」
優雅な所作でそのものを見分する精霊神は疑わしい顔を浮かべた。
「いいえ、精霊神様。私がクラーラなのですわ。ええ、間違いございません!」
うっとりと見つめる彼女はそう宣う、王は冷や汗を拭きながら『良かった』と安堵した。どういう理由であれ精霊神を愛すると言ったメイベルを代わりにできそうだと微笑む。
「そうか、ならば夢で誓ったことを覚えていような、さて私はお前を迎えに行く時なんと言ったか。答えよ」
「え……」
夢で語り合ったという精霊神は冷たく笑う、本物のクラーラならば答えることは容易いはずと言うではないか。
「どうした、答えよ」
脂汗を掻きながら彼女は王の方を見る、だが、ただ怯えていて助け船はだしてくれそうもない。
「さぁ話して見よ」
「えっとあの、わ、忘れてしまいましたわ!そうです、夢のことですもの!ついウッカリ!」
彼女はヘラヘラと笑ってそう答えた、それが最良だとでも思ったのだろう。
すると精霊神は一呼吸して「愚か者が」と言った。
「私が愛する者を騙るとはなんと不届きなことよ、身をもってその罪を償え」
「え、ひぃぃぃ!た、助けてぇ!」
シェイドが指先で「パチリ」としただけで恐ろしい竜巻が起こった。それは黒く光を通さない闇魔法だった。竜巻が数分後に落ち着くとそこにはメイベルはいなかった。
代わりにそこにいたのは一匹の醜いイボガエルが鎮座して鳴いていた。それは「ギーギー」と鳴き、有毒な分泌物を出していた。それはとても臭くて鼻を押さえるほどだった。
「わかっておる!代役を立てるしか方法がないであろう」
精霊神シェイドの出現で、大わらわの王と宰相は馬車を走らせてクラーラの生家であるウィンチカム公爵家へ急いでいた。今頃シェイドは城の玉座に座り今や遅しと待っているに違いない。
「それにしても精霊がほんとうにいたとは……カビの生えた伝説とばかり思っていたわい」
禍々しいオーラを纏った精霊神の姿を思い浮かべて身震いする王だ。
闇を司るといわれるシェイドは気に入った者には幸を齎すが、同時に不幸を齎すと言われており恐怖の対象でもある。その昔、闇の精霊と契約した今の王の先祖が昌運を賜り栄華を欲しいままにしたと言われる。
それにより代々王を受け継ぎいまに至るというわけだ。
「なんですって、私がお姉様の身代わりに?冗談ではないわ!」
我儘なメイベルはけんもほろろな状態で喚き散らした、しかも闇の精霊ときたものだ、誰が好き好んで嫁ぎたいなどと思うのか。
「そこをなんとか!キミはクラーラに良く似ているじゃないか」
「私があの女に似ているですって!?いい加減にしてよ!私はあんなブサイクじゃないもの」
取りつくしまもない状態で癇癪を起す彼女は頑なに拒否をした。困り果てた王は「どうすれば良いのだ」と嘆いた。
このままでは王家どころか国の存続も怪しい。そこをついて説得するしかないと再度頭を下げようとした。
その時だ、恐ろしい声が真後ろから聞こえて来たではないか。
「何をしている、私を待たせるとは良い度胸だな」
「ひぃぃ!め、滅相もございません!精霊神様ァァ!」
平伏す王の陰からメイベルは「なにごと?」と落ち着きなく見回していた。黒い靄のようなものが王の前で揺れている。
「な、なに?これは」
黑い靄のようなものが実体化すると、その恐ろしくも優美な姿が現れたではないか。
長い黒髪を蓄え、鼻梁はツンと尖り瞳は金に輝いている、唇は薄く弧を描いていた。その瓜実の顔は一部の隙もなく整っていた。
「ま、まぁ……なんて麗しいのかしら」
フラフラと誘蛾灯に誘われたように近ずくメイベルはその場につくばり「愛しい御方」と魅了されてしまう。
「其方がクラーラか?容姿は似ているようだが気配が違う気がするぞ」
優雅な所作でそのものを見分する精霊神は疑わしい顔を浮かべた。
「いいえ、精霊神様。私がクラーラなのですわ。ええ、間違いございません!」
うっとりと見つめる彼女はそう宣う、王は冷や汗を拭きながら『良かった』と安堵した。どういう理由であれ精霊神を愛すると言ったメイベルを代わりにできそうだと微笑む。
「そうか、ならば夢で誓ったことを覚えていような、さて私はお前を迎えに行く時なんと言ったか。答えよ」
「え……」
夢で語り合ったという精霊神は冷たく笑う、本物のクラーラならば答えることは容易いはずと言うではないか。
「どうした、答えよ」
脂汗を掻きながら彼女は王の方を見る、だが、ただ怯えていて助け船はだしてくれそうもない。
「さぁ話して見よ」
「えっとあの、わ、忘れてしまいましたわ!そうです、夢のことですもの!ついウッカリ!」
彼女はヘラヘラと笑ってそう答えた、それが最良だとでも思ったのだろう。
すると精霊神は一呼吸して「愚か者が」と言った。
「私が愛する者を騙るとはなんと不届きなことよ、身をもってその罪を償え」
「え、ひぃぃぃ!た、助けてぇ!」
シェイドが指先で「パチリ」としただけで恐ろしい竜巻が起こった。それは黒く光を通さない闇魔法だった。竜巻が数分後に落ち着くとそこにはメイベルはいなかった。
代わりにそこにいたのは一匹の醜いイボガエルが鎮座して鳴いていた。それは「ギーギー」と鳴き、有毒な分泌物を出していた。それはとても臭くて鼻を押さえるほどだった。
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