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それは突然に

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クラーラが去った後の城は一見穏やかに見えた。
両腕を砕かれた騎士は殉職扱いにされ葬られたし、その場にいた侍従らは他言無用と緘口令を敷かれた。

トマスとベリンダの処遇だが、互いに接触できないように引き離された。とくにベリンダは幽閉されて北の塔に隔離された。子が産まれるまではでられない。
それでもトマスは諦めきれないのか、度々に塔に忍び込んで会いにいっていた。

「ああ、ベリンダ、可哀そうに」
「お兄様、私はだいじょうぶよ。子が一緒にいてくれますから」
「なんてことだ、私は自分の立場が恨めしい」
王太子になれるものが他にいないせいで、トマスは仕方なく身分がそのままにされた。一時は従弟をという考えもでたが、やはり王は自分の子を見捨てられずにいた。


「アレはいまだに塔へ忍び込んでおるのか、愚かな事だ」
王は嘆息して不甲斐ない我が子の事を嘆く、見て見ぬふりも限界にきていた。宰相らの目が痛いからだ。いくら王族といえど宰相を敵にするのはかなり拙い。ベリンダの子は生まれ次第に闇に葬るつもりでいた。それが最善だと考えたのだ。



その日は朝から雨足が酷かった、雷鳴がひっきりなしに轟き城全体が陸の孤島のようになっていた。実際、雷雨に見舞われたのは城周辺だけだった。
「いったいどうしたと言うのだ、まるで外界と隔たれたようではないか」
轟々と唸る風のせいで、人との言葉もままならない。それほどに酷い大音が鳴り響いていた。

そして、それは突然やってきた。
耳を劈く落雷が城の天辺に降りて来たのだ、バシンという音と共にガラガラと城壁が壊れる音がした。王はあまりのことに腰を抜かして「ひぃひぃ」と情けなく泣いている。

「なにがどうなった……余の耳はついているのか?」
轟音に怯えて泣き叫ぶ王は這って歩いていた、王妃も同様で「ああ、神様」と普段祈りもしない癖に縋っていた。そこへ一人の青年がやってきてこう言った。

「私の姫はどこにいる、ここに囚われていると聞いてきた。愚かな人間に娶られる前に救いにやってきたのだ」
身の丈五メートルを超す大きな男は周囲を見回してそう言った。

王と王妃だけでなく誰もが跪いて動けなくなった、宰相は泡を吹いて失神しかけたが踏ん張った。まるで神がそこにおあすようだと誰かが言う。
「今一度聞く、私の姫はどこだ?愛して止まない我が愛し子よ、クラーラはいま何処にいる?」
「クラーラだと……?あの小娘がなんだというのだ」

愚かにもトマスが平伏しながらも憎まれ口を叩いた、青年は聞き咎めて「いま、なんといった」とそこへ浮遊して行った。トマスは人ならざる者の威厳を纏った青年を目の当たりにしてワナワナと震えるしかできない。
「言ってみろ許す、どこへやった?」
「ひ……ぐ、ああああ!」
あまりの事に気絶してしまい、白目を剥いて泡を吹き上げた。

「ふむ、話にならない。誰か口の利けるものはいないのか?」
青年は威風をやや抑えて尋問した、すると口が利けずに悶絶していた王が漸くポツリと口を開く。
「あ、あの子ならば公爵家におります!ええ、ぜったいに」
「ほお、そうか。ならば案内いたせ」

青年の正体は精霊神だった、この国をこの大地を統べる絶対的存在なのだ。

精霊神シェイドは身の丈を人の形に縮めて降りて来た。やっと自由になったらしい王は「ほぅ」と一息してから少々「お待ちください、すぐに連れて参ります」とお辞儀をした。


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