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放逐

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結論から言うとクラーラ・ウィンチカムは死ねなかった、”死”が彼女を拒絶したと言っていい。
猛毒を飲み干しても彼女はそこに悠然と立っていた。何が起こったのか分からない。王族は悲鳴をあげて遠ざかった、中でも一番に恐れ戦いたのはトマス・オルフォードだ。

「どいう事だ!一滴でも飲めば意識が混濁してそのまま死に至るものだぞ!」
彼は俄かに信じ難く空のゴブレットを拾い上げた、間違いなく毒の苦い香りが鼻をつく。そして、クラーラを睨みつけてこう言った。
「この悪魔の化身が!きっと頭を切り臥せれば絶命するに違いない!そこな騎士よ、今すぐに断頭するのだ!早くしろ!」

「は、はい!」
命令された騎士はおずおずと彼女に近づいて「御免」と言って首を斬りつけた。ガイン!という金属音が轟く、これでやっと絶命したかとトマスは喜ぶ。
だがしかし、斬られたのは剣の方で真っ二つに折れて床に突き刺さっていたではないか。騎士は腕を弾かれて「ぐああ」と呻いていた。斬りかかった拍子に両腕が折れてしまったのだ。
「ば、化物だ……ああ、なんということ……ひぃぃ」

「なんだと……どうしたことだ!」
その後、断頭台で切り伏せようが、炎で焼こうがはたまた氷の魔法で氷漬けにしようが彼女クラーラは絶命しなかった。最後には土魔法で巨石を落としてみたがやはり結果はかわらない。

「一体私はどうなってしまったの?」
一番に訳がわからないクラーラは己の首を摩った、やはり切り傷ひとつ付いていない。安堵の溜息をしたのも束の間、激高したトマスが短剣を掴んで彼女に襲いかかった。
だが、やはり彼女を傷つけることは出来ず、ぐにゃりと短剣がひしゃげただけだった。

「そんなバカな……」
とうとう剣を落としたトマスはクラーラを恐れて後退して「化物が」と罵る。すると、彼女はフッと笑い「冤罪をしかけて満足されましたか」と言った。

「貴方の愚行を隠蔽して何が出来ましたか?何れバレたでしょう、ベリンダが懐妊したと知れたらその相手は誰だというつもりで?」
ゆっくりと彼女は愚か者のもとへ詰め寄った。逆に追い詰められたトマスはブルブルと震えて床に頽れた。

「ベリンダが懐妊しただと?どういう事だトマス、まさか……まさかお前ぇ!」
「ひい!」
王の逆鱗に触れたトマスは頭を抱えて「だって愛しているんだ、愛しい女がたまたま妹だっただけ」と情けない言い訳をした。


***

どのような諸事情があっても王族の恥辱が露見しては堪らないと結局クラーラの罪は覆られなかった。汚辱を着せされたまま彼女は死に至ったと処理されて秘密裡に放逐となった。
「金貨だ、生涯使いきれないほどのな、申し訳ないが秘密は……」
「ええ、漏らしません。お互いの為にね、私は自由を勝ち取ったそれで良い」
王は苦虫を噛みしめたような貌で「では、息災で」と言って門を閉じさせた。


「さて、どうしましょうか……」
金貨の山をポンポンと叩いて先ずはマジックバックに詰め込む、それはスルスルと吸収されてあっと言う間に隠れた。旅には御銭が必要だ、とりあえずその不安はない、彼女はブツブツと呟きながら歩いた。

世間知らずの彼女はどうしたら良いのか考えた。
いまは夜明け前の午前4時だ、「は~」と息をして溜息を吐いた。王都門はきっちりと閉じられている。二度と開くことはないだろう。

「仕方ないわねぇ馬車を使おうにも閉じられちゃったし……歩きましょう」
トボトボと歩く彼女の身なりは一般女性と変わりない。そのようにしたほうが良いと進言されたのだ、煌びやかな生活しか知らない彼女はこの先どう生きてゆくのだろう。


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