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最悪な顔合わせ

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『きっと迎えに行く、だから待っていて欲しい』
――あなたは誰?なんの話……私にはわからないわ。

『すぐにわかるさ、私の愛しい子。花を一輪持って行くよ』
――うん、良く分からないけど、お花は欲しいかなずっと待っているわ。



「――は、また同じ夢ね……一体どうしたというの?」
眠ると必ず見る夢だ、なにも無い空間に独りぼっちでいると煙る靄の中で声が聞こえてくる。とても優しくうっとりする声が彼女は好きだった。


「なにかの導きかしら?予知夢にしては可笑しいし、具体的なものは何もないの」
寝癖をつけたまま侍女に話すクラーラは不思議な夢の話をする、聞かされた侍女は苦笑いして「ただの夢ですよ」と言う。
「でもぉ、凄く気になるのよ!ここのところ毎晩のように見ちゃうの」
「はいはい、わかりましたよ。お嬢様、まっすぐ正面を見て下さい」
「ぶぅ、アンネの意地悪ぅ」
そういって御髪を梳かれる彼女は頬っぺたをプクリと膨らませた。


小さな主は幼くして第一王子トマス・オルフォードと婚約したクラーラ・ウィンチカム公爵令嬢12歳。その年の差は10歳だが、この程度に年の差は当たり前と処理された。
今日この日は大切な顔合わせである、朝早くからバタバタと忙しい。とは、いっても忙しないのは侍女たちだけだ。
本人はいたって呑気でさきほどから欠伸ばかりしていた。

***

「初めましてとトマス様、私はクラーラ・ウィンチカムと申します」
「ああ、宜しく」
短く返事をした王子はつまらなさそうに直ぐにソッポを向いた。せっかく練習したカーテシーを見てもくれない。彼女はムッとしたが、相手するのも馬鹿らしいと椅子に座る。

「まぁまぁ、なんて愛らしいのでしょう!まるで天使ちゃんだわ。ねぇトマス」
「はぁ、まぁそうですね」
視線も寄越さずにそう答える第一王子はどこか上の空だ。せっかく王妃が気を利かせて話を振ったというのにこの調子である。

「ごほん、今日の良き日に縁が結ばれることを誇らしく思うぞ。クラーラ嬢や、ゆっくりしていくが良い」
「はい、ありがとうございます陛下」
彼女は愛想よく微笑み返す、余程22歳の王子よりもしっかりしていた。相好を崩す両陛下はあれこれと話をしてくれた。

だが、肝心の王子は胡乱な目をしていてどこを見ているのかわからない。

さすがに拙いと思った陛下が叱責しようと立ち上がる。そのタイミングで可憐な声が聞こえて来た。
「ごめんなさ~い、遅くなりましたわぁ」
ボンキュボンの容姿をした美女が「うふふふ」と笑いながら参上した。彼女の名はベリンダ、身分は王女である。

「おお!ベリンダ待ち兼ねたぞ!」
なんと王子は即座に立ち上がり彼女に近づいた。そして熱い抱擁を交わしたではないか。それはまるで愛しい恋人でも迎えるようだった。

「小便臭い小娘を相手にしていて辟易していた所さ、さすがはベリンダそれを払拭する美しさだ」
「まぁ、お上手!お兄様」

「……小便」
第一印象最悪の顔合わせはこうして行われたのだ。
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