完結 妹を愛していると言った貴方、本気ですか?気持ちが悪い!

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
1 / 32

最悪な顔合わせ

しおりを挟む
『きっと迎えに行く、だから待っていて欲しい』
――あなたは誰?なんの話……私にはわからないわ。

『すぐにわかるさ、私の愛しい子。花を一輪持って行くよ』
――うん、良く分からないけど、お花は欲しいかなずっと待っているわ。



「――は、また同じ夢ね……一体どうしたというの?」
眠ると必ず見る夢だ、なにも無い空間に独りぼっちでいると煙る靄の中で声が聞こえてくる。とても優しくうっとりする声が彼女は好きだった。


「なにかの導きかしら?予知夢にしては可笑しいし、具体的なものは何もないの」
寝癖をつけたまま侍女に話すクラーラは不思議な夢の話をする、聞かされた侍女は苦笑いして「ただの夢ですよ」と言う。
「でもぉ、凄く気になるのよ!ここのところ毎晩のように見ちゃうの」
「はいはい、わかりましたよ。お嬢様、まっすぐ正面を見て下さい」
「ぶぅ、アンネの意地悪ぅ」
そういって御髪を梳かれる彼女は頬っぺたをプクリと膨らませた。


小さな主は幼くして第一王子トマス・オルフォードと婚約したクラーラ・ウィンチカム公爵令嬢12歳。その年の差は10歳だが、この程度に年の差は当たり前と処理された。
今日この日は大切な顔合わせである、朝早くからバタバタと忙しい。とは、いっても忙しないのは侍女たちだけだ。
本人はいたって呑気でさきほどから欠伸ばかりしていた。

***

「初めましてとトマス様、私はクラーラ・ウィンチカムと申します」
「ああ、宜しく」
短く返事をした王子はつまらなさそうに直ぐにソッポを向いた。せっかく練習したカーテシーを見てもくれない。彼女はムッとしたが、相手するのも馬鹿らしいと椅子に座る。

「まぁまぁ、なんて愛らしいのでしょう!まるで天使ちゃんだわ。ねぇトマス」
「はぁ、まぁそうですね」
視線も寄越さずにそう答える第一王子はどこか上の空だ。せっかく王妃が気を利かせて話を振ったというのにこの調子である。

「ごほん、今日の良き日に縁が結ばれることを誇らしく思うぞ。クラーラ嬢や、ゆっくりしていくが良い」
「はい、ありがとうございます陛下」
彼女は愛想よく微笑み返す、余程22歳の王子よりもしっかりしていた。相好を崩す両陛下はあれこれと話をしてくれた。

だが、肝心の王子は胡乱な目をしていてどこを見ているのかわからない。

さすがに拙いと思った陛下が叱責しようと立ち上がる。そのタイミングで可憐な声が聞こえて来た。
「ごめんなさ~い、遅くなりましたわぁ」
ボンキュボンの容姿をした美女が「うふふふ」と笑いながら参上した。彼女の名はベリンダ、身分は王女である。

「おお!ベリンダ待ち兼ねたぞ!」
なんと王子は即座に立ち上がり彼女に近づいた。そして熱い抱擁を交わしたではないか。それはまるで愛しい恋人でも迎えるようだった。

「小便臭い小娘を相手にしていて辟易していた所さ、さすがはベリンダそれを払拭する美しさだ」
「まぁ、お上手!お兄様」

「……小便」
第一印象最悪の顔合わせはこうして行われたのだ。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~

葵 すみれ
恋愛
「お姉さま、ずるい! どうしてお姉さまばっかり!」 男爵家の庶子であるセシールは、王女付きの侍女として選ばれる。 ところが、実際には王女や他の侍女たちに虐げられ、庭園の片隅で泣く毎日。 それでも家族のためだと耐えていたのに、何故か太り出して醜くなり、豚と罵られるように。 とうとう侍女の座を妹に奪われ、嘲笑われながら城を追い出されてしまう。 あんなに尽くした家族からも捨てられ、セシールは街をさまよう。 力尽きそうになったセシールの前に現れたのは、かつて一度だけ会った生意気な少年の成長した姿だった。 そして健康と美しさを取り戻したセシールのもとに、かつての家族の変わり果てた姿が…… ※小説家になろうにも掲載しています

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。

水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。 その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。 そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

処理中です...