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遊学篇
閑話 王子に鼻フック
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「ところで王子、腑に落ちないことがあるのですが」
「なんだい?子猫ちゃん」
「その呼び方止めないと鼻フックしますよ?」
「是非お願いしたい!」
婚約以来、バカ発言が酷くなっているセイン王子に本当に鼻フックするアイリスである。
「鼻毛が刺さりました、お手入れしてください」
「ばひ、よぼほんへ(はい、喜んで)」
帰路の馬車のなか本題に入るアイリス、何故婚約の報告のとき両陛下が躊躇もせずすんなり認めたのか問う。
「それは……根回しをちょろっとね」
「いつですか?」
遊学中に休学していた期間に帰国して王と大公の祖父、侯爵家へ婚約の打診をしていたと王子は白状した。
「なるほど……私がメロンちゃんに嫌がらせされてた頃、貴方ってひとは、というか貴方が不在のせいで絡まれたんですけどね?」
再び鼻フックされた王子は「ぼへんなさひ」と懺悔する。
「まったくもう!油断ならないですね!」指を丁寧に拭きながら怒るアイリス。
侍女ルルは見てないふりを決め込み、車窓と睨めっこしていた。
ちなみにメロル親子の現状は……
「……体が痒い、うぅ……自分から異臭がするぅ」
頭を掻き毟り己の垢にウンザリするメロルは、王城の地下牢で後悔と憎悪に苛まれていた。
石畳には粗末なゴザが一枚敷かれ、そこで寝泊まりしている。
「王子も貴族も大嫌い!可愛いメロルがなんでこんな目に合わなきゃならないの!私は御姫様になるために生まれたのよ!バーカバーカ!」
自分を認めない世間が悪いのだと悪態を吐き、なにひとつ省みようとしないメロルだ。
邪魔をする令嬢が悪い、自分を受け入れない王子が悪い、可愛い私を認めない世界が悪い。
行き場のない恨み言が冷たい地下牢へ染みて行く。
メロルが投獄された更に階下でメロルの父が項垂れていた。
大商人とまで言われ大店をきりもりしていた自分が、まさか囚人に落ちるとはいまでも信じられなかった。
面会にくる妻は憔悴していて商会は開店休業状態だと言っていた。
商人は信用第一である、罪人の店など真っ当な者は寄り付かない。
次々と取引先が離れていったらしい、時期に倒産するだろう。
「どうしてだ、可愛い娘を守ろうとしただけなのに」
あの日、下町で王子などと会わなければこんな事にはならなかったと何度も悔しがる。
立腹した隣国の王子は未だ謝罪を拒否していると事務官が冷たく言った。
相手が懺悔の言葉を信じ受け入れない限り、裁判すらままならないという。
「ちくしょう!なんでなんだ!平民街へなぜ王子はいたのだ!?は!やっぱり後ろ暗い事情があるから裁判しないんだろう!メロルを誑かしたに違いないんだ!くそ!身分を笠にした外道め!」
苛立ち吐いた暴言は、常に監視している看守が全て記録しているとも知らずに毎日続けていた。
もちろん録音もされており言い訳は通じない。
もとはと言えば我儘に育ったメロルの言動が元凶、その親として責められている事を理解していない。
メロル親子はきょうも怨嗟の念を膨らませ生きていた。
「なんだい?子猫ちゃん」
「その呼び方止めないと鼻フックしますよ?」
「是非お願いしたい!」
婚約以来、バカ発言が酷くなっているセイン王子に本当に鼻フックするアイリスである。
「鼻毛が刺さりました、お手入れしてください」
「ばひ、よぼほんへ(はい、喜んで)」
帰路の馬車のなか本題に入るアイリス、何故婚約の報告のとき両陛下が躊躇もせずすんなり認めたのか問う。
「それは……根回しをちょろっとね」
「いつですか?」
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「まったくもう!油断ならないですね!」指を丁寧に拭きながら怒るアイリス。
侍女ルルは見てないふりを決め込み、車窓と睨めっこしていた。
ちなみにメロル親子の現状は……
「……体が痒い、うぅ……自分から異臭がするぅ」
頭を掻き毟り己の垢にウンザリするメロルは、王城の地下牢で後悔と憎悪に苛まれていた。
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「王子も貴族も大嫌い!可愛いメロルがなんでこんな目に合わなきゃならないの!私は御姫様になるために生まれたのよ!バーカバーカ!」
自分を認めない世間が悪いのだと悪態を吐き、なにひとつ省みようとしないメロルだ。
邪魔をする令嬢が悪い、自分を受け入れない王子が悪い、可愛い私を認めない世界が悪い。
行き場のない恨み言が冷たい地下牢へ染みて行く。
メロルが投獄された更に階下でメロルの父が項垂れていた。
大商人とまで言われ大店をきりもりしていた自分が、まさか囚人に落ちるとはいまでも信じられなかった。
面会にくる妻は憔悴していて商会は開店休業状態だと言っていた。
商人は信用第一である、罪人の店など真っ当な者は寄り付かない。
次々と取引先が離れていったらしい、時期に倒産するだろう。
「どうしてだ、可愛い娘を守ろうとしただけなのに」
あの日、下町で王子などと会わなければこんな事にはならなかったと何度も悔しがる。
立腹した隣国の王子は未だ謝罪を拒否していると事務官が冷たく言った。
相手が懺悔の言葉を信じ受け入れない限り、裁判すらままならないという。
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もちろん録音もされており言い訳は通じない。
もとはと言えば我儘に育ったメロルの言動が元凶、その親として責められている事を理解していない。
メロル親子はきょうも怨嗟の念を膨らませ生きていた。
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