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遊学篇
アイリスの醜聞
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現王族最後の独身、第4王子の婚約発表は貴族界をざわつかせた。
候補選びすらされてこなかっただけに、婚期をを迎えた令嬢たちは嫉妬と悲しみの日々を送る。
もちろん面倒なのは嫉妬の念を抱いた令嬢達である。
侯爵家より下位の者は泣く泣く諦めるが、同位以上の令嬢は黙るはずもなかった。
婚約者アイリス・ブルフィールドは婚約白紙歴のある傷物令嬢である、それにかっさわれたのだから矜持が許さない。
公爵令息に続き王子までも誑かした女狐、見境の無い毒婦など聞くに堪えない悪口が社交界に流れた。
ある程度予想していたアイリスだが益々貴族が嫌いになった。
ロードリックと婚約中も捏造された酷い噂が出まわっていたが悪化したようだ。
「リィ大丈夫さ、悪態をつくほど彼女らは婚期を逃すと思うよ。数年後後悔するだろうね」
「そんなに待てません」
事実、アイリスを攻撃するのは女子ばかりであった。
そんな女たちの醜い姿に紳士達は避けている、忌み嫌われるのは最終的にどちらなのか見当がつきそうなもの。
しかし不機嫌なアイリスに「やっぱり結婚やめた」と言われそうでセイン王子は気が気ではない。
彼女を守るにはやはり早めの婚姻をすることだと準備に奔走した。
常々、貴族も平民も嫁の家に丸投げになる婚儀だが、王子はそんな薄情なことをしなかった。
「やっと手に入れたマイスイートハートを逃すか!」
「その言い方やめて!」
それから針の筵になるであろう夜会などは極力不参加を決めていた。
魔物たちが待ち構える魔の森にわざわざ踏みいれる阿呆もいないだろうと、母が先頭にたって牽制する。
「可愛い娘を傷つけるわけにいかないわ、そもそも大公の孫を攻撃するなんて正気じゃないわね」
同位の侯爵家の数件にはすでに抗議済で名誉棄損で提訴している。
「ボクの娘はモテるからねぇ」
ダメ親父アンリオは愛娘にフニャフニャ顔を見せる、一見腑抜けているが訴訟を起こしたのは父だった。
一見、お人好しで呑気そうな御仁だがやる時はやるのだ。
「腕力はないぶん、ボクは頭脳でリィを守るよ」
「まぁお父様、頼もしいですわ!」
珍しく娘に褒められた父はデレデレになりつつも、サクサクと各家へと抗議文を認めていた。
このまま鎮静化するだろうと王子と侯爵は考えた。
だが新たな醜聞がとある夜会で囁かれる。
***
アルトレ公爵家夜会――。
「聞きまして奥様、例の狐の話を」
「あらぁ?まだなにかあったのですか?」
噂雀たちは面白可笑しく醜聞に群がり、広めていった。
【とある侯爵家令嬢は魅了を使って殿方を誑かしている】
寝も葉もない噂がたった、それは醜い嫉妬を抱き拗らせた令嬢の仕業である。だが疑いもせず新たな噂に飛びつく貴族たちはとまらない。
「おかしいと思いませんこと?たかが小娘が社交界の華ロードリック様に続き、麗しのセインミュルド殿下を陥落させるなど……普通ではございませんわ!」
「さようさよう!」「尋常ではないですわ」
噂の本元、アグリーナ・アルトレ令嬢は会場の上からほくそ笑んでいた。
「ふふふ、大公の孫がなによ。わがアルトレ公爵家を侮らないことね」
扇をパチリと閉じて隣に立つ兄を見上げる。
「ねぇグレッグ兄様、ズタボロになったところで手を差し伸べればアイリスは兄様に泣いて縋るでしょうね」
「そ、そんなに、ううううまくいくかい?」
緊張や恐れを抱くと、どもる癖がある兄グレッグは頼りなげに眉を下げた。
「兄さま!私に似て見目は良いんですのよ。どうしていつも自信がないんですの!」
しっかりしてくださいまし!と妹に尻を叩かれる兄である。
尻が痛いと泣きごとを言い、兄グレッグは揺れる銀髪をかき上げ、整った顔を歪める。
セイン王子に劣らぬ美形であるが、いつも一押しがたりない気弱で残念なイケメンだった。
彼は幼少よりアイリスに恋焦がれていたが、すでに婚約していた彼女を遠目でみているしかなかった。
アルトレ家から何度もセイン王子へ婚約の打診をしてきたが良い返事が貰えていないかった。
次こそはと建国祭にむけて策を練っていた矢先、アイリスに出し抜かれた形になった。
「泥棒猫め、みてらっしゃい!」
「リーナ……あ、アイリスを苛めるのはあまり関心しないよ」
「そういう無駄な情けがダメなのよ!貴族たるもの強気で攻めなさい!社交界は足の引っ張り合いよ!」
「そ、そそそそうかなぁ?」
デマとはいえ魅了を王家に使ったなど粛清されかねない事件なのだが、アグリーナは軽く考えていた。
「ふん、平気よぉ。証拠がでないんだから死刑にはならないわ」
謎の自信に満ちたアグリーナは再び扇を広げて、醜悪な顔を隠して会場へ下りていった。
アイリスの醜聞をさらに広めるために……。
候補選びすらされてこなかっただけに、婚期をを迎えた令嬢たちは嫉妬と悲しみの日々を送る。
もちろん面倒なのは嫉妬の念を抱いた令嬢達である。
侯爵家より下位の者は泣く泣く諦めるが、同位以上の令嬢は黙るはずもなかった。
婚約者アイリス・ブルフィールドは婚約白紙歴のある傷物令嬢である、それにかっさわれたのだから矜持が許さない。
公爵令息に続き王子までも誑かした女狐、見境の無い毒婦など聞くに堪えない悪口が社交界に流れた。
ある程度予想していたアイリスだが益々貴族が嫌いになった。
ロードリックと婚約中も捏造された酷い噂が出まわっていたが悪化したようだ。
「リィ大丈夫さ、悪態をつくほど彼女らは婚期を逃すと思うよ。数年後後悔するだろうね」
「そんなに待てません」
事実、アイリスを攻撃するのは女子ばかりであった。
そんな女たちの醜い姿に紳士達は避けている、忌み嫌われるのは最終的にどちらなのか見当がつきそうなもの。
しかし不機嫌なアイリスに「やっぱり結婚やめた」と言われそうでセイン王子は気が気ではない。
彼女を守るにはやはり早めの婚姻をすることだと準備に奔走した。
常々、貴族も平民も嫁の家に丸投げになる婚儀だが、王子はそんな薄情なことをしなかった。
「やっと手に入れたマイスイートハートを逃すか!」
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それから針の筵になるであろう夜会などは極力不参加を決めていた。
魔物たちが待ち構える魔の森にわざわざ踏みいれる阿呆もいないだろうと、母が先頭にたって牽制する。
「可愛い娘を傷つけるわけにいかないわ、そもそも大公の孫を攻撃するなんて正気じゃないわね」
同位の侯爵家の数件にはすでに抗議済で名誉棄損で提訴している。
「ボクの娘はモテるからねぇ」
ダメ親父アンリオは愛娘にフニャフニャ顔を見せる、一見腑抜けているが訴訟を起こしたのは父だった。
一見、お人好しで呑気そうな御仁だがやる時はやるのだ。
「腕力はないぶん、ボクは頭脳でリィを守るよ」
「まぁお父様、頼もしいですわ!」
珍しく娘に褒められた父はデレデレになりつつも、サクサクと各家へと抗議文を認めていた。
このまま鎮静化するだろうと王子と侯爵は考えた。
だが新たな醜聞がとある夜会で囁かれる。
***
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「聞きまして奥様、例の狐の話を」
「あらぁ?まだなにかあったのですか?」
噂雀たちは面白可笑しく醜聞に群がり、広めていった。
【とある侯爵家令嬢は魅了を使って殿方を誑かしている】
寝も葉もない噂がたった、それは醜い嫉妬を抱き拗らせた令嬢の仕業である。だが疑いもせず新たな噂に飛びつく貴族たちはとまらない。
「おかしいと思いませんこと?たかが小娘が社交界の華ロードリック様に続き、麗しのセインミュルド殿下を陥落させるなど……普通ではございませんわ!」
「さようさよう!」「尋常ではないですわ」
噂の本元、アグリーナ・アルトレ令嬢は会場の上からほくそ笑んでいた。
「ふふふ、大公の孫がなによ。わがアルトレ公爵家を侮らないことね」
扇をパチリと閉じて隣に立つ兄を見上げる。
「ねぇグレッグ兄様、ズタボロになったところで手を差し伸べればアイリスは兄様に泣いて縋るでしょうね」
「そ、そんなに、ううううまくいくかい?」
緊張や恐れを抱くと、どもる癖がある兄グレッグは頼りなげに眉を下げた。
「兄さま!私に似て見目は良いんですのよ。どうしていつも自信がないんですの!」
しっかりしてくださいまし!と妹に尻を叩かれる兄である。
尻が痛いと泣きごとを言い、兄グレッグは揺れる銀髪をかき上げ、整った顔を歪める。
セイン王子に劣らぬ美形であるが、いつも一押しがたりない気弱で残念なイケメンだった。
彼は幼少よりアイリスに恋焦がれていたが、すでに婚約していた彼女を遠目でみているしかなかった。
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「そういう無駄な情けがダメなのよ!貴族たるもの強気で攻めなさい!社交界は足の引っ張り合いよ!」
「そ、そそそそうかなぁ?」
デマとはいえ魅了を王家に使ったなど粛清されかねない事件なのだが、アグリーナは軽く考えていた。
「ふん、平気よぉ。証拠がでないんだから死刑にはならないわ」
謎の自信に満ちたアグリーナは再び扇を広げて、醜悪な顔を隠して会場へ下りていった。
アイリスの醜聞をさらに広めるために……。
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