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遊学篇
叔母と王子
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秋の気配を感じ始めた頃、アイリスが出立する日が来た。
目的地ベルグリーン国へは馬車で1週間ほどの旅である、侍女ルルとヒャッハーな護衛5名を連れた旅だ。
「侍女のルルだけでも平気なのに」
アイリス自身が歩く凶器なので護衛はオマケである、令嬢としての世間体でつれていく。
「無茶だけは許しませんからね、それと連絡はこまめにする事、約束通り半年ごとに帰宅することを守りなさい」
「はい、お母様。もちろんです、三日置きには手紙をだしますわ」
家族と従者総出の見送りにアイリスは元気に手を振る。
だが馬車に乗り込む寸前で足止めが発生した、セイン王子が侯爵邸へやってきたのだ。
「まぁセイン殿下、わざわざ見送りに?」
「やだなぁ違うよ、長き旅路を共にするんだ。私も遊学することにしたんだよ」
家人が全員そろって驚愕して叫んだ。
「……殿下なにを考えてるんです、ご公務はどうされるのです?」
「ふふ、これも立派な公務なんだよ、遊学ついでに外交を兼ねているのさ。」
なるほどそう来たかとアイリスは苦笑いをする。
どうしてこの方は私にかまうのだろうと考えたが、暇を持て余した第4王子の気まぐれと片づけた。
王太子ではない彼は大きな祭典などに参加せずとも問題ない位置にいる。
名目上は公務をしているが、概ねは王太子の補佐程度である。自由過ぎるとアイリスは羨ましく思う。
笑顔を引きつらせ「道中はよろしくお願いします」そう言ってアイリスは馬車を走らせた。
「はぁこんなに目立って大丈夫かしら?」
「お嬢様、近衛を大勢連れた王族を襲うバカはいません。旅の警備が楽で良いじゃないですか」
侯爵家の馬車が2台、それに加え王族の馬車が3台に騎馬兵が総勢18人の大所帯になった。
なんて大袈裟な遊学だろうとアイリスは盛大に溜息を吐く。
「ふぅ……ともかく遊学を楽しめるならそれで良いわ、叔母様はお元気かしら?」
叔母アネットとは2年ぶりの再会である、叔母の好きな胡桃のフォンダンを土産に用意した。
ベルグリーンにもナッツはあるそうだが胡桃の木は少ないらしい。
「ふふ、喜んでくれるかしら?」
アイリスの逸る気持ちを乗せて馬車は何事もなく国境を越えていく。
***
叔母の嫁ぎ先、マウゼオ公爵邸は瀟洒な佇まいだった。白と薄紫を基調にした邸宅は上品だ。
馬車から降りてすぐに叔母の優しい笑顔が出迎える。
「アネット叔母様!」
「ようこそリィ!少し背が伸びたわね!元気そうでよかったわ」
「はい、叔母様もご健勝でなによりですわ!」
お転婆に抱き着いた姪に叔母は相好を崩し歓迎した。
従者らが邸へ荷物を運びだした時、金髪の美青年がこちらへやって来るのを見た叔母はキョトリとした。
「急な訪問申し訳ありません、デイビクト王国第4王子セインミュルドです、久方ぶりでございます」
「まぁ、王子殿下が姪の付き添いに?あらあら~あの可愛らしい殿下がご立派になられて見違えましたわ」
美辞麗句を飛ばし合う叔母と王子の様子を死んだ目で見守るアイリス。
「オウコウキゾク メンドクサイ」誰にも聞こえない声でポソリと言う。
「式典で何度も会ってませんか?あのふたり」
「だよねーわざとらしいわよねー」密かにルルと話し合うアイリスである。
叔母が嫁いだのは公爵家だ、3年おきにはどちらかの催しで顔を合わせている。はずである。
荷運びに忙しい従者らをおいて、王子を歓待したいと盛り上がる叔母アネットは秋咲きの薔薇が見事だからと庭園で茶会を開くと言い出した。
あっという間に茶席を用意した公爵家の執事とメイド達である。夫人のワガママに慣れているのだろう。
「叔母様ぁ……」
「ごめんねアイリス、旅で疲れてるとは思うけどせっかく茶の時間に着いたのだもの」
香しい薔薇に囲まれて仕方ないと折れたアイリス。
「急遽押しかけたというのにありがとうマウゼオ夫人」
王子は美しく微笑んで歓待に礼を述べる、その余裕顔に閉口するアイリスである。
さすが腐っても王族だと感心しつつ茶を啜った。
「そうだわ叔母様、お土産があるの。フォンダンよ」
「胡桃のフォンダンね!嬉しいわー!こっちでは売ってないのよぉ」
甘めのフォンダンと少し濃いめの紅茶は良く合うと叔母は大喜びした。
「それで、二人はどういう関係?恋人かしらそれとも婚約の話が進んでる?」
含んだ茶を吹きそうになりアイリスは咳き込んだ。
「お、叔母様!?」
「照れなくても良いじゃなーい!いーわねぇロマンスねぇ、王子と結婚、女ならだれでも憧れるわ。私も後20年若ければねぇ」
勝手に盛り上がる叔母の様子に、笑い上戸の王子がプルプルと震え出した。
これは拙いのではと王子の従者たちを見たが、生真面目そうな彼等は微動だにしない。
仕事しろ!とアイリスは腹の内で叫ぶ。
「ぶっはっ!アハハハハハ!マウ……ゼオ夫人はブッフ……面白い方グッフだ。クハハハハハッ!」
とうとう耐えきれなかった王子はお茶を吹き零しながら大笑いしてしまう。
「あら~若いって良いわねぇ!某国では箸が転がっても可笑しいっていうらしいわ」
「叔母様、火に油はやめて!」
なにが面白いのかと、嬉しそうに微笑む叔母と笑い転げる王子を白けてた目で見つめるアイリスだった。
更には晩餐の席で叔母は「王子様も我が屋敷で宿泊されると良いわ」と巫山戯たことを提案した。
「是非にお願いします!」
それにアッサリ乗る王子にアイリスとルルは白目を剥いた。
目的地ベルグリーン国へは馬車で1週間ほどの旅である、侍女ルルとヒャッハーな護衛5名を連れた旅だ。
「侍女のルルだけでも平気なのに」
アイリス自身が歩く凶器なので護衛はオマケである、令嬢としての世間体でつれていく。
「無茶だけは許しませんからね、それと連絡はこまめにする事、約束通り半年ごとに帰宅することを守りなさい」
「はい、お母様。もちろんです、三日置きには手紙をだしますわ」
家族と従者総出の見送りにアイリスは元気に手を振る。
だが馬車に乗り込む寸前で足止めが発生した、セイン王子が侯爵邸へやってきたのだ。
「まぁセイン殿下、わざわざ見送りに?」
「やだなぁ違うよ、長き旅路を共にするんだ。私も遊学することにしたんだよ」
家人が全員そろって驚愕して叫んだ。
「……殿下なにを考えてるんです、ご公務はどうされるのです?」
「ふふ、これも立派な公務なんだよ、遊学ついでに外交を兼ねているのさ。」
なるほどそう来たかとアイリスは苦笑いをする。
どうしてこの方は私にかまうのだろうと考えたが、暇を持て余した第4王子の気まぐれと片づけた。
王太子ではない彼は大きな祭典などに参加せずとも問題ない位置にいる。
名目上は公務をしているが、概ねは王太子の補佐程度である。自由過ぎるとアイリスは羨ましく思う。
笑顔を引きつらせ「道中はよろしくお願いします」そう言ってアイリスは馬車を走らせた。
「はぁこんなに目立って大丈夫かしら?」
「お嬢様、近衛を大勢連れた王族を襲うバカはいません。旅の警備が楽で良いじゃないですか」
侯爵家の馬車が2台、それに加え王族の馬車が3台に騎馬兵が総勢18人の大所帯になった。
なんて大袈裟な遊学だろうとアイリスは盛大に溜息を吐く。
「ふぅ……ともかく遊学を楽しめるならそれで良いわ、叔母様はお元気かしら?」
叔母アネットとは2年ぶりの再会である、叔母の好きな胡桃のフォンダンを土産に用意した。
ベルグリーンにもナッツはあるそうだが胡桃の木は少ないらしい。
「ふふ、喜んでくれるかしら?」
アイリスの逸る気持ちを乗せて馬車は何事もなく国境を越えていく。
***
叔母の嫁ぎ先、マウゼオ公爵邸は瀟洒な佇まいだった。白と薄紫を基調にした邸宅は上品だ。
馬車から降りてすぐに叔母の優しい笑顔が出迎える。
「アネット叔母様!」
「ようこそリィ!少し背が伸びたわね!元気そうでよかったわ」
「はい、叔母様もご健勝でなによりですわ!」
お転婆に抱き着いた姪に叔母は相好を崩し歓迎した。
従者らが邸へ荷物を運びだした時、金髪の美青年がこちらへやって来るのを見た叔母はキョトリとした。
「急な訪問申し訳ありません、デイビクト王国第4王子セインミュルドです、久方ぶりでございます」
「まぁ、王子殿下が姪の付き添いに?あらあら~あの可愛らしい殿下がご立派になられて見違えましたわ」
美辞麗句を飛ばし合う叔母と王子の様子を死んだ目で見守るアイリス。
「オウコウキゾク メンドクサイ」誰にも聞こえない声でポソリと言う。
「式典で何度も会ってませんか?あのふたり」
「だよねーわざとらしいわよねー」密かにルルと話し合うアイリスである。
叔母が嫁いだのは公爵家だ、3年おきにはどちらかの催しで顔を合わせている。はずである。
荷運びに忙しい従者らをおいて、王子を歓待したいと盛り上がる叔母アネットは秋咲きの薔薇が見事だからと庭園で茶会を開くと言い出した。
あっという間に茶席を用意した公爵家の執事とメイド達である。夫人のワガママに慣れているのだろう。
「叔母様ぁ……」
「ごめんねアイリス、旅で疲れてるとは思うけどせっかく茶の時間に着いたのだもの」
香しい薔薇に囲まれて仕方ないと折れたアイリス。
「急遽押しかけたというのにありがとうマウゼオ夫人」
王子は美しく微笑んで歓待に礼を述べる、その余裕顔に閉口するアイリスである。
さすが腐っても王族だと感心しつつ茶を啜った。
「そうだわ叔母様、お土産があるの。フォンダンよ」
「胡桃のフォンダンね!嬉しいわー!こっちでは売ってないのよぉ」
甘めのフォンダンと少し濃いめの紅茶は良く合うと叔母は大喜びした。
「それで、二人はどういう関係?恋人かしらそれとも婚約の話が進んでる?」
含んだ茶を吹きそうになりアイリスは咳き込んだ。
「お、叔母様!?」
「照れなくても良いじゃなーい!いーわねぇロマンスねぇ、王子と結婚、女ならだれでも憧れるわ。私も後20年若ければねぇ」
勝手に盛り上がる叔母の様子に、笑い上戸の王子がプルプルと震え出した。
これは拙いのではと王子の従者たちを見たが、生真面目そうな彼等は微動だにしない。
仕事しろ!とアイリスは腹の内で叫ぶ。
「ぶっはっ!アハハハハハ!マウ……ゼオ夫人はブッフ……面白い方グッフだ。クハハハハハッ!」
とうとう耐えきれなかった王子はお茶を吹き零しながら大笑いしてしまう。
「あら~若いって良いわねぇ!某国では箸が転がっても可笑しいっていうらしいわ」
「叔母様、火に油はやめて!」
なにが面白いのかと、嬉しそうに微笑む叔母と笑い転げる王子を白けてた目で見つめるアイリスだった。
更には晩餐の席で叔母は「王子様も我が屋敷で宿泊されると良いわ」と巫山戯たことを提案した。
「是非にお願いします!」
それにアッサリ乗る王子にアイリスとルルは白目を剥いた。
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