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アイリスは外に出たい
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やっと平穏を取り戻したアイリスは鍛錬ばかりでは刺激が足りないと感じてきた。
生活を潤すなにか、自分に足りないなにか…。
午前の鍛錬を張り切り過ぎてグッタリとした彼女は、適当に選んだ小説を読むともなく開いてボンヤリ眺める。
文字を追ってもさっぱり頭に入ってこない。
「どうしたことかしら?生活にハリがないのよね」
元から社交に積極的でない彼女に友人と呼べる相手がいなかった、婚約していた時期は何度か夜会には出ていたが敵ばかりいた。なぜなら社交界の華であるロードリックのせいで妬まれていたからだ。
「家庭教師ではなく学園へ通えば良かったかしら?でも今更よねぇ」
そんな彼女の愚痴を拾ったのは母ソルニエだった。
「短期留学なんてのはどう?」
「あら、お母様いつのまに……」
さきほどドアをノックして入室したとお小言を貰う。
「遊学なら良いですわ、もちろん期限付きは嫌です」
「あら、珍しく我儘だこと」
疲れているのね、そう言って娘の髪を撫でるソルニエは鬼の顔を封印して淑女モードである。
「そうね護衛を5人以上つけて半年に一回戻るのなら許してあげる」
「ほんと!?お母様大好き!」
「だってあなた、このままでは一生恋も結婚もしないでしょ?」
母の見透かした台詞にドキリとするアイリス。
「そ、そんなこと……あるかも。いっそ騎士団へ入ろうかと思ってました」
「あらま、嬉しい事。でもね視野が狭いままでは成長はなくってよ?」
そう言われてはぐうの音も出ないアイリスだった。
それから綿密に母と相談した結果、叔母が嫁いだ隣国ベルグリーンへしばらく遊学することに話は纏まる。
父と兄は渋ったが婚約解消の件を出されてはなにも言えなくなる。
「ここにいて夜会に出ても噂のタネにされるだけだもの」
暇を持て余してる貴族達のことだ、あることないこと醜聞の的にしてアイリスを攻撃してくるだろう。
膳は急げと荷造りを始めるアイリスと侍女ルルである。
「ルルと一緒に旅行なんて嬉しいわ!楽しみ♪」
「私もです!アイリス様とならどこへでも参りますよ!」
うら若き乙女が二人、旅の想像話に花を咲かせていると先触れを伝えるメイドがやってきた。
「まぁ、王子がくるの?ちょっとメンドイ」
あからさまに曇った顔をするアイリスにルルは苦笑いしつつ、お召換えしましょうと仕度するのだった。
ウィル兄様も同席するようお願いすれば「任せろ!」と張り切る。
これまでの騒動で心が疲れ気味の妹を気遣っているのだ。
「ふふ、兄様が他人でしたら良かったのに」
「おや、どういう意味?」
「だって血のつながりがなければ婚姻できますよ」
「おいおい、危険な発言だな」
可愛い妹に言われ満更でもないウィルフレッドだ、もちろん家族愛である。
クスクスと悪戯な笑みを零す兄妹のところへ割って入る声がした。
「やぁ楽しそうだね、悪だくみの相談かい?」
いつものサロンへ遠慮なくやってきたのはセイン王子だ。
「ようこそセイン殿下」
立ち上がって礼を取る兄妹に手を上げて制する王子、堅苦しいのを拒むのはいつものことだ。
「なんでウィルがいるの?」
「婚姻前の妹を護るナイトを仰せつかってね」
若干不機嫌な声の王子を兄は揶揄うように応対する。執事と侍女が壁に控えているので二人きりにはなれないのだが王子的にはウィルフレッドが邪魔らしい。
「私がお願いしましたの、問題ありまして?」
「……いいや、突然の訪問をしたのだから」
牽制された王子は仕方ないと肩を竦めて、チケットを数枚テーブルにおいた。
「劇団の新作が発表されたんだ、今度はご家族の分も用意したんですよ」
「まぁ素敵!今度はどんない話かしら?」
アイリスはチケットを一枚手にとると残念な顔になった。
「どうかした?」
王子の問いに苦笑しながら遊学に旅立つことを告げたアイリス。公演の日はすでに旅立った後なのだ。
「なんだって!?隣国へ無期限遊学?聞いてないぞ!どういうことだ!」
なんで王子に許可を取らねばならないのかとアイリスは困惑する、不機嫌な顔になった彼女に王子は慌てた。
「あ、いや失礼しました……突然のことで声を荒げてしまったよ」
王侯貴族男子特有の居丈高な物言いに少々ガッカリするアイリスだ。
「アイリス許してやって、セインは友人のつもりで接しただけさ。脅したわけじゃない」
「ふぅん……そうなの」
言葉少なに答えたアイリスは目に見えてウンザリしていた、淑女としてよろしくない態度。だがセインが友達以上になりたいと個人的に会いに来たのだから咎めることもない。
「あ、えっと困ったな、そんな貌をさせたかったんじゃないんだ」
オロオロしだしたセインだが、笑顔が消沈したアイリスは下を向いたまま彼を見ようとしない。
そんな二人に兄ウィルはニヤニヤ観察していた。
「言葉足らずはアイリスが嫌う事だよ、前例があるからね」ウィルが助け船を再度だす。
「そ、そうか。ごめんねアイリス、キミと仲良くなろうとした矢先に距離を置かれた気がして焦ってしまったんだよ、どうか許してください」
丁寧に詫びる王子にアイリスは顔をあげた。
「いいえ、ただし遊学はやめませんよ。この国には良い思い出がないし、今後も社交界から弾かれると思います。でも家に籠るのも癪ですから広い世界を見たいと思いましたの、ご理解ください」
そういう彼女の目は決意の固さが籠っていた。
王子といえど見分を広げたいと望む少女を引き止める権利はない。
「そうか、そうだね……広い世界か、たしかにこの国の貴族は性根が腐ったヤツばかりだからね」
優しい瞳で返す王子にアイリスは漸く安堵の笑みを浮かべた。
生活を潤すなにか、自分に足りないなにか…。
午前の鍛錬を張り切り過ぎてグッタリとした彼女は、適当に選んだ小説を読むともなく開いてボンヤリ眺める。
文字を追ってもさっぱり頭に入ってこない。
「どうしたことかしら?生活にハリがないのよね」
元から社交に積極的でない彼女に友人と呼べる相手がいなかった、婚約していた時期は何度か夜会には出ていたが敵ばかりいた。なぜなら社交界の華であるロードリックのせいで妬まれていたからだ。
「家庭教師ではなく学園へ通えば良かったかしら?でも今更よねぇ」
そんな彼女の愚痴を拾ったのは母ソルニエだった。
「短期留学なんてのはどう?」
「あら、お母様いつのまに……」
さきほどドアをノックして入室したとお小言を貰う。
「遊学なら良いですわ、もちろん期限付きは嫌です」
「あら、珍しく我儘だこと」
疲れているのね、そう言って娘の髪を撫でるソルニエは鬼の顔を封印して淑女モードである。
「そうね護衛を5人以上つけて半年に一回戻るのなら許してあげる」
「ほんと!?お母様大好き!」
「だってあなた、このままでは一生恋も結婚もしないでしょ?」
母の見透かした台詞にドキリとするアイリス。
「そ、そんなこと……あるかも。いっそ騎士団へ入ろうかと思ってました」
「あらま、嬉しい事。でもね視野が狭いままでは成長はなくってよ?」
そう言われてはぐうの音も出ないアイリスだった。
それから綿密に母と相談した結果、叔母が嫁いだ隣国ベルグリーンへしばらく遊学することに話は纏まる。
父と兄は渋ったが婚約解消の件を出されてはなにも言えなくなる。
「ここにいて夜会に出ても噂のタネにされるだけだもの」
暇を持て余してる貴族達のことだ、あることないこと醜聞の的にしてアイリスを攻撃してくるだろう。
膳は急げと荷造りを始めるアイリスと侍女ルルである。
「ルルと一緒に旅行なんて嬉しいわ!楽しみ♪」
「私もです!アイリス様とならどこへでも参りますよ!」
うら若き乙女が二人、旅の想像話に花を咲かせていると先触れを伝えるメイドがやってきた。
「まぁ、王子がくるの?ちょっとメンドイ」
あからさまに曇った顔をするアイリスにルルは苦笑いしつつ、お召換えしましょうと仕度するのだった。
ウィル兄様も同席するようお願いすれば「任せろ!」と張り切る。
これまでの騒動で心が疲れ気味の妹を気遣っているのだ。
「ふふ、兄様が他人でしたら良かったのに」
「おや、どういう意味?」
「だって血のつながりがなければ婚姻できますよ」
「おいおい、危険な発言だな」
可愛い妹に言われ満更でもないウィルフレッドだ、もちろん家族愛である。
クスクスと悪戯な笑みを零す兄妹のところへ割って入る声がした。
「やぁ楽しそうだね、悪だくみの相談かい?」
いつものサロンへ遠慮なくやってきたのはセイン王子だ。
「ようこそセイン殿下」
立ち上がって礼を取る兄妹に手を上げて制する王子、堅苦しいのを拒むのはいつものことだ。
「なんでウィルがいるの?」
「婚姻前の妹を護るナイトを仰せつかってね」
若干不機嫌な声の王子を兄は揶揄うように応対する。執事と侍女が壁に控えているので二人きりにはなれないのだが王子的にはウィルフレッドが邪魔らしい。
「私がお願いしましたの、問題ありまして?」
「……いいや、突然の訪問をしたのだから」
牽制された王子は仕方ないと肩を竦めて、チケットを数枚テーブルにおいた。
「劇団の新作が発表されたんだ、今度はご家族の分も用意したんですよ」
「まぁ素敵!今度はどんない話かしら?」
アイリスはチケットを一枚手にとると残念な顔になった。
「どうかした?」
王子の問いに苦笑しながら遊学に旅立つことを告げたアイリス。公演の日はすでに旅立った後なのだ。
「なんだって!?隣国へ無期限遊学?聞いてないぞ!どういうことだ!」
なんで王子に許可を取らねばならないのかとアイリスは困惑する、不機嫌な顔になった彼女に王子は慌てた。
「あ、いや失礼しました……突然のことで声を荒げてしまったよ」
王侯貴族男子特有の居丈高な物言いに少々ガッカリするアイリスだ。
「アイリス許してやって、セインは友人のつもりで接しただけさ。脅したわけじゃない」
「ふぅん……そうなの」
言葉少なに答えたアイリスは目に見えてウンザリしていた、淑女としてよろしくない態度。だがセインが友達以上になりたいと個人的に会いに来たのだから咎めることもない。
「あ、えっと困ったな、そんな貌をさせたかったんじゃないんだ」
オロオロしだしたセインだが、笑顔が消沈したアイリスは下を向いたまま彼を見ようとしない。
そんな二人に兄ウィルはニヤニヤ観察していた。
「言葉足らずはアイリスが嫌う事だよ、前例があるからね」ウィルが助け船を再度だす。
「そ、そうか。ごめんねアイリス、キミと仲良くなろうとした矢先に距離を置かれた気がして焦ってしまったんだよ、どうか許してください」
丁寧に詫びる王子にアイリスは顔をあげた。
「いいえ、ただし遊学はやめませんよ。この国には良い思い出がないし、今後も社交界から弾かれると思います。でも家に籠るのも癪ですから広い世界を見たいと思いましたの、ご理解ください」
そういう彼女の目は決意の固さが籠っていた。
王子といえど見分を広げたいと望む少女を引き止める権利はない。
「そうか、そうだね……広い世界か、たしかにこの国の貴族は性根が腐ったヤツばかりだからね」
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