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お前に期待するのを諦めた
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侯爵一家に頭を下げて帰宅したデンゼル公は、居室に戻るなりベッドに仰向けになる。
愚息に対する怒りと、危うく無二の親友を失いかけた焦りで酷い頭痛に苛まれた。
今後どうしたものかと我が家の未来を憂う。
「私の代で公爵家は終わってしまうのか……?」
教養面では厳しくしてきたが、生活面で甘くしてしまったのだろうかとデンゼルは後悔した。
僅か3歳で母を病で失くした息子を哀れに思ったがゆえに、甘さがあったのかもしれない。
先祖に申し訳がたたないと泣きそうになるデンゼル、末席とはいえ王族の血を引いたご先祖に心から詫びた。
息子を再教育しようにもすでに18歳である、そうそう性格など変わらないだろう。
鬼と呼ばれるブルフィールド侯爵夫人に騎士団で扱かれても性根は治らなかったのだ。
「やはり弟のベルメールを頼るしかないか」
彼の弟ベルメール伯爵は子だくさんで3人の男子と双子の女子を授かっている。
弟の娶ったニーナ夫人は腰の大きな女性で「まだまだ産むわよ!」と宣言している壮健な人だ。
次男はまだ11歳だが聡明だと聞いている、是非養子に迎えたいとデンゼルは思った。
ベルメール伯爵へ手紙を出して、愚息ロードリックを呼び出す。
二日前の顛末の後で益々憔悴した息子をゲンナリした顔で迎え座るよう促す。
説教が長くなる合図にロードリックは顔を顰めた。だが、説教がマシと言える酷い宣告を受けることになる。
「さて、ロディ昨夜はどうやって屋敷を出た?」
「……護衛を昏倒させました、交代で護衛している彼等を労う建前で茶に導眠剤を」
デンゼルはすでに把握していた事だが敢えて息子から聞きたかったのだ、反省の色を見たかったのだ。
だが彼からは失態を恐れ隠蔽をできなかったことに苛立っている表情しか見えない。
「お前を甘く育て過ぎたようだ、すまないな」
「父上!?」
怒鳴られる覚悟だったロードリックは、まさか父から謝罪をされるなど信じられないと瞠目した。
「な、なぜ謝るのですか?言いつけを破ったのは俺です」
「もういいのだ、お前に期待するのは諦めたのだよ。わかるな?」
父のいうことが全く理解できない様子の愚息に残酷な言葉を叩きつける。
「お前を次期公爵から外す、次代は我が弟の次男ロフィールを任命する。以上だ」
「なんですかそれ!まさか俺を追い出すつもりですか!?」
事実上の廃嫡宣告を受けたロードリックは憤慨して声を荒げた。
「自己中心的な思想しか持てないお前が領地運営と加工品事業を回せるとは思えん、世の中はお前が考えるほど甘くはないのだ。主ひとつの言葉で民の生活は左右されるのだ、領民の命を預かり護るのが我らの責務なのだぞ」
「そ、そんな事わかっております!幼少より学んできました!」
「……先駆者の知恵と言葉を借りただけで公爵になれるとでも思っていたか?痴れ者が!」
父の厳しい叱咤に言葉を失うロードリック。
「そんな、そんな……俺が公爵になれないなんて……廃嫡されたら俺は」
「20歳になるまでは屋敷に住むことは許してやる、約2年間のうちに身の振りを考えよ、平民になる心得は従者に教えを請え。メイドと下男は下町育ちだ良い教師になるぞ」
父デンゼルはそう言い放ち退室するよう命令した。
動けないロードリックを従者たちが無理矢理立たせて退去させた。
***
加工品事業の定期打合せと報告会に顔を合わせたアンリオとデンゼルはなんとはなしに硬い握手を交わす。
「ずいぶん清々しい顔をしているなデンゼルよ」
「あぁ、度重なる不祥事に幕を下ろしたからな。申し訳なかった」
先日、ロードリックの廃嫡を決定して弟の息子を養子に迎えることになったとデンゼルは報告をした。
溌剌としたデンゼルの様子にアンリオは安堵する。
改めて頭を下げる親友デンゼルにアンリオは肩を叩いて鼓舞する。
「流そうといったじゃないか、さてさて加工品の試食をして検討しようか。おっと!その前に売り上げの報告だな!」
従業員たちを見回しアンリオは楽しそうに仕事の話を始めるのだった。
それから一月後。
「本日より世話になる、ロフィールだ。よろしく頼む!」
正式に養子になったロフィールはサロンに集められた従者一同に挨拶をした。
11歳とは思えない弁舌に皆は驚き、新たに加わった主に頭を垂れて忠誠を誓う。
利発そうな顔のロフィールは一人一人に名を尋ねて握手をしていく。
たった一巡で全員の顔と名を覚えたロフィール。
「まだ甘えたい年頃でしょうになんとしっかりされてるのでしょう!」
従者らは口々に養子ロフィールを敬う言葉を連ねる。
可愛らしい容姿も相まって侍女とメイドを中心に公爵家のアイドルになっていた。
それを苦々しく見つめるロードリックではあるが、身から出た錆びを理解していたので騒ぎたてることはしなかった。期限2年のうちに自活できるための学習に集中していた。
父デンゼルの事業に携われば簡単だが、それを公爵は許さない。なんらかの形で関われば、後ろ指をさされ比較されたあげく蔑まれるのはロードリックである。
そんな惨めな生き方はして欲しくないとデンゼルの父としての思いだ。
分かりづらいが折れることなく邁進せよと愚親なりの激励なのだ。
愚息に対する怒りと、危うく無二の親友を失いかけた焦りで酷い頭痛に苛まれた。
今後どうしたものかと我が家の未来を憂う。
「私の代で公爵家は終わってしまうのか……?」
教養面では厳しくしてきたが、生活面で甘くしてしまったのだろうかとデンゼルは後悔した。
僅か3歳で母を病で失くした息子を哀れに思ったがゆえに、甘さがあったのかもしれない。
先祖に申し訳がたたないと泣きそうになるデンゼル、末席とはいえ王族の血を引いたご先祖に心から詫びた。
息子を再教育しようにもすでに18歳である、そうそう性格など変わらないだろう。
鬼と呼ばれるブルフィールド侯爵夫人に騎士団で扱かれても性根は治らなかったのだ。
「やはり弟のベルメールを頼るしかないか」
彼の弟ベルメール伯爵は子だくさんで3人の男子と双子の女子を授かっている。
弟の娶ったニーナ夫人は腰の大きな女性で「まだまだ産むわよ!」と宣言している壮健な人だ。
次男はまだ11歳だが聡明だと聞いている、是非養子に迎えたいとデンゼルは思った。
ベルメール伯爵へ手紙を出して、愚息ロードリックを呼び出す。
二日前の顛末の後で益々憔悴した息子をゲンナリした顔で迎え座るよう促す。
説教が長くなる合図にロードリックは顔を顰めた。だが、説教がマシと言える酷い宣告を受けることになる。
「さて、ロディ昨夜はどうやって屋敷を出た?」
「……護衛を昏倒させました、交代で護衛している彼等を労う建前で茶に導眠剤を」
デンゼルはすでに把握していた事だが敢えて息子から聞きたかったのだ、反省の色を見たかったのだ。
だが彼からは失態を恐れ隠蔽をできなかったことに苛立っている表情しか見えない。
「お前を甘く育て過ぎたようだ、すまないな」
「父上!?」
怒鳴られる覚悟だったロードリックは、まさか父から謝罪をされるなど信じられないと瞠目した。
「な、なぜ謝るのですか?言いつけを破ったのは俺です」
「もういいのだ、お前に期待するのは諦めたのだよ。わかるな?」
父のいうことが全く理解できない様子の愚息に残酷な言葉を叩きつける。
「お前を次期公爵から外す、次代は我が弟の次男ロフィールを任命する。以上だ」
「なんですかそれ!まさか俺を追い出すつもりですか!?」
事実上の廃嫡宣告を受けたロードリックは憤慨して声を荒げた。
「自己中心的な思想しか持てないお前が領地運営と加工品事業を回せるとは思えん、世の中はお前が考えるほど甘くはないのだ。主ひとつの言葉で民の生活は左右されるのだ、領民の命を預かり護るのが我らの責務なのだぞ」
「そ、そんな事わかっております!幼少より学んできました!」
「……先駆者の知恵と言葉を借りただけで公爵になれるとでも思っていたか?痴れ者が!」
父の厳しい叱咤に言葉を失うロードリック。
「そんな、そんな……俺が公爵になれないなんて……廃嫡されたら俺は」
「20歳になるまでは屋敷に住むことは許してやる、約2年間のうちに身の振りを考えよ、平民になる心得は従者に教えを請え。メイドと下男は下町育ちだ良い教師になるぞ」
父デンゼルはそう言い放ち退室するよう命令した。
動けないロードリックを従者たちが無理矢理立たせて退去させた。
***
加工品事業の定期打合せと報告会に顔を合わせたアンリオとデンゼルはなんとはなしに硬い握手を交わす。
「ずいぶん清々しい顔をしているなデンゼルよ」
「あぁ、度重なる不祥事に幕を下ろしたからな。申し訳なかった」
先日、ロードリックの廃嫡を決定して弟の息子を養子に迎えることになったとデンゼルは報告をした。
溌剌としたデンゼルの様子にアンリオは安堵する。
改めて頭を下げる親友デンゼルにアンリオは肩を叩いて鼓舞する。
「流そうといったじゃないか、さてさて加工品の試食をして検討しようか。おっと!その前に売り上げの報告だな!」
従業員たちを見回しアンリオは楽しそうに仕事の話を始めるのだった。
それから一月後。
「本日より世話になる、ロフィールだ。よろしく頼む!」
正式に養子になったロフィールはサロンに集められた従者一同に挨拶をした。
11歳とは思えない弁舌に皆は驚き、新たに加わった主に頭を垂れて忠誠を誓う。
利発そうな顔のロフィールは一人一人に名を尋ねて握手をしていく。
たった一巡で全員の顔と名を覚えたロフィール。
「まだ甘えたい年頃でしょうになんとしっかりされてるのでしょう!」
従者らは口々に養子ロフィールを敬う言葉を連ねる。
可愛らしい容姿も相まって侍女とメイドを中心に公爵家のアイドルになっていた。
それを苦々しく見つめるロードリックではあるが、身から出た錆びを理解していたので騒ぎたてることはしなかった。期限2年のうちに自活できるための学習に集中していた。
父デンゼルの事業に携われば簡単だが、それを公爵は許さない。なんらかの形で関われば、後ろ指をさされ比較されたあげく蔑まれるのはロードリックである。
そんな惨めな生き方はして欲しくないとデンゼルの父としての思いだ。
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