その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
21 / 49

悪友と親友は紙一重

しおりを挟む
「え、今度はボクに手紙かい?」
ウィルフレッドは銀盆の中心に置かれた分厚い封筒へ汚い虫を見るような目むける。
さっさと受け取って欲しいとメイドは思う。

メイドの視線を感じたウィルフレッドは渋々と受け取った、だが手紙とはいえない重みに顔を顰める。
読まずに火にくべたいところだが気候は夏、暖炉には薪のかわりに造花が鎮座している。

「早く冬がこないかな……」
まだ真夏だというのに虚しい願いを吐いてしまう。


分厚いそれにナイフを入れれば、無理矢理畳まれた便箋がゴッソリ出てきて彼を悩ませる。
一枚一枚目を通すがどれも内容が重複していて読むのに疲れてしまった。

飛ばして最後の一枚を目に通す、やはり「至急相談したい」で手紙は終わっていた。
「紙の無駄遣いだよロディ」
50枚ほどに及ぶ手紙は同じような言葉を列挙した読む値にしない面倒なものだった。

手紙には「他言無用」とシツコイくらいあったが、愛する妹のことが絡むのだから無理な相談である。
早速に父がいる書斎へ向かう彼は、すれ違ったメイドに茶の用意を頼んで歩を進めた。


父に伺いをたて氷が踊るアイスティーを飲みつつロードリックの手紙を差し出す。
「今度はお前をダシに使う気なのか」
父アンリオは悲痛な面持ちで手紙をゴミ箱へ投げ入れた。

「父上、それはストーキング行為の証拠です、安易に廃棄してはいけない」
「……いや、ついウッカリ本気でイヤだったから……だってお前気持ち悪いじゃん?」

それでもダメですと諫めて控えいたメイドに拾うよう指示した。
埃を払ったそれを証拠品として木箱へ入れる、半分ほど積みあがった手紙の山を一瞥すると忌々し気に蓋をした。

「はぁ、たしかにうちのアイリスは美しく気立ても良いからな。彼が執着するのもわかる」
アンリオは日増しに愛妻ソルニエに似てきた娘が可愛くて仕方ないと零す。
だからこそロードリックから守らねばと思いを強くした。


「父上、監視護衛を増やしますか?」
「……いいや、彼のほうの監視だけ増やせ。それからアイリスは自分で厳選した護衛を付けるそうだ」
「まさか……ヒャッハーですか?」

よくわかったなとアンリオは言う、爆破事件で雇った連中をいたく気に入ったアイリスはギルドからヒャッハーな連中を引き抜いていたのだ。

「我が娘ながらなんとも面白い趣味をしている」
「面白いで済まさないで父上……令嬢としてどうかと思うよ」

侯爵令嬢の周囲に侍るのが、派手な髪色をしたモヒカンと剃り込み頭、そしてスキンヘッドのゴリマッチョ達とは如何なモノかと兄は頭痛がした。ある意味最強にして最恐ではあると親子は思った。


「そもそも騎士団の鬼隊長たる母がいる侯爵家に暴挙を働くバカとも思えませんが」
「バカモノ、頭がいかれた男はなにをするかわからんぞ。友といえど気安く接触などするなよ。私からデンゼル公爵へ相談する。お前は決して動くでない!」

父に釘を刺されたウィルフレッドは肩を竦め了承した。
「しかし、父上。向こうからやって来た場合は?ボクなりに持て成して良いですよね?」
良い顔で嗤う息子に呆れた視線を向ける。

「お前は腕っぷしはないだろう、私に似てヘナチョコなんだから」
「違いますよ、暴力は奮いません。頭とコネを使います」

コソコソと耳打ちして息子の計画を聞いた父アンリオは、なるほどと納得したのだった。


***

とある庭園の四阿にてウィルフレッドはミントティーで喉を潤して人を待った。
高台のそこは爽やかな風が吹き暑気払いに適していた。

ボトルが空になった頃その待ち人はやってきた。黄金の髪を靡かせ、青い瞳は陽を反射してキラキラと輝いている。

「やぁ待たせたねウィル、春の馬術大会以来だね」
「お久しぶりで」
「待て、今は二人きりだろう?砕けた口調にしてくれ、むず痒いよ」

優美な顔を少し曇らせて哀願されては仕方ないと親友の名を呼んだ。
「セインミュルド殿下、セイン……おひさ」
ケラケラと要望通りに軽口を叩く親友に、彼は相好を崩す。


「私を呼び出すなんて珍しいよね、なにかあったのかい?」
「うん、ロディのことで困ってる」

自身に届いた手紙を差し出せばセインは困惑する。
「おいおい、まさか衆道に目覚めたんじゃ……」
「よしてくれ!」

即答で拒否するウィルにセインは大笑いして「腹が痛い」と転げまわった。
「相変わらず笑い上戸だな、お前は」
「ぷふっ、悪い。どうも普段が退屈し過ぎてね。楽しいことに飢えてるのさ」
こっちは楽しくないと抗議するウィルに、言葉だけ謝罪するセインである、反省してない。


「はは、ロディめ拗れてしまったのか」
先ほどの分厚い手紙を読んで、ことの経緯を把握したセインは急に大人しくなった。
婚約解消しても手紙で愛を押し付けてくるロディに、アイリスを護りたいとウィルが言う。

「アイリスか、しばらく会ってないなぁ。夜会に最近でてこないじゃないか」
「仕方ないさ、ロディを警戒してるからね」

なるほどとセインは顎に手を添え何事か思案に耽る。

「逃げれば回避はできるが……それでは平行線じゃないかい?」
「なんか悪だくみしてるね」
親友から悪友の顔に変化したセインにウィルは苦い顔をする。

近いうちに侯爵家へ遊びに行くとセインは言うと、ニマニマと企てたアイディアをメモしていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

結婚なんてしなければよかった。

haruno
恋愛
夫が選んだのは私ではない女性。 蔑ろにされたことを抗議するも、夫から返ってきたのは冷たい言葉。 結婚なんてしなければよかった。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

完結 この手からこぼれ落ちるもの   

ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。 長かった。。 君は、この家の第一夫人として 最高の女性だよ 全て君に任せるよ 僕は、ベリンダの事で忙しいからね? 全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ 僕が君に触れる事は無いけれど この家の跡継ぎは、心配要らないよ? 君の父上の姪であるベリンダが 産んでくれるから 心配しないでね そう、優しく微笑んだオリバー様 今まで優しかったのは?

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

処理中です...