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後日談

罪人カレドナ

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インパジオ国から追い出された罪人カレドナは、じくじくと痛む顔を隠すためズタ袋を被り抑えながらトボトボ歩いた。泣くと傷に染みて余計に痛むので悔し涙も流せない。替わりに下唇を噛んで耐えているが、あまりに強く噛むものだから腫れあがって来た。

「ちくしょー!どうして高貴な私がこんな目に……」
どうにかしてコアブルト城へ戻らなければと必死に歩き国を横断する、城の医者に診せれば少しは傷が癒えるはずだとそればかり考えたのだ。

彼女がどうして挙式の場に乱入出来たのか、それはコアブルト国王の親書を捏造したからだ。おバカなりに記憶を総動員して封蝋のデザインによく似たものを作ったようだ。どうでも良いところばかり智慧が働くのだ。稚拙な行為だったが火急の要件であると言われた年若い門兵が通してしまった。これには騎士団を纏める総大将が激高し「己の教育不足だった」と辞職を願いでる騒動になった。

しかし、王太子は特赦をかけて半年の減俸と騎士達の勤務部署配置の総替えと門兵の再教育でおさめた。生易しいのではという意見もでたが、「リリジュアが悲しむから」と言って許したのだ。
「お前……新婚で浮ついていると足元を掬われるぞ」
「父上、私はそこまで愚かではありませんよ、それに一番の罪人は厳しく処しました。あの女は死よりも辛い苦しみを味わうでしょう」

そう、彼の言う通り。容姿だけが取り柄で財産だったカレドナから美貌を奪ったのだ。男達を誑かして温く生きる方法は出来なくなったのだ。しかも罪人紋を刻まれた身ではまともな職には就けやしない。
そんな彼女だがかつての生家である城へなんとか辿り着いた。挙式乱入劇から約半年の頃だ。もちろん旅の路銀などは持ち合わせていないので様々な軽犯罪を犯しての帰還だった。


修道院逃走や国外追放などを経験してきた彼女はさすがに最低限の事は学んだ。いきなり突撃しても好転はしないものだと。そこで彼女は考えた、季節の変わり目になると侍女や下女募集を行う事を思い出してそれに参加をすることにした。『私は王女だ』などと横柄な態度で挑んでも硬い門は開きやしない。
「面倒だけど親書を捏造する手間を考えればはるかに手軽だもの」



城の侍女たちは貴族令嬢たちが花嫁修業と行儀見習いを兼ねて務める事が多い。だが下女は一般公募枠があるのだ。額の傷は前髪で隠し、頬の傷は澱粉パテで塗り込み厚化粧で誤魔化した。多少不格好でも下女は容姿など関係ない。
「それに必ず受からなくとも良いんだもの」
城の敷地内に入ることが最重要なのだと、姑息な元王女は挑むのだ。
「そもそもな話、父も母もどうして私を修道院なんかに送ったのよ……それが間違いの始まりなのだわ」

相変わらずこれまでの悪行の数々を反省していない彼女は爪を噛んで苛立つ、母たちと対面したら恨み言の一つでも浴びせないと気が済まないと思っている。

「次の者、14番目の下女候補入りなさい!」
「はあい!」
彼女はなるべく愛らしい声を上げて面接室へ入った、騎士と文官、それから侍女長が並んで待機していた。幸い知った顔はいない。城を離れていた間に古株の侍女長が代替わりしていたようだ。
「ドナと申します、簡単な自己紹介文を持参しましたわ」
「ほお、読み書きができて礼儀もできるのか……」腐っても元王女、市井から集まった平民子女よりは遥かに有能に見えた。

文字書きと簡単な算術が出来ることを評価されたドナことカレドナはなんとか下女として召し抱えらることになった。
「面接日に潜入しようと思ったけど意外と厳重だったのよねぇ、受かって良かった!」
これで城務めの下女として出入りを許された彼女は、家族の住む王宮に忍び込むための第一関門を突破したのである。


下女として働く部署は王宮とは程遠い場所だ、それでも城の待遇はかなり良い。
下女は大部屋だったが、清潔なベッドを与えられ食事はしっかり三度でた。お仕着せを支給された彼女は仕事中はマスクをして働いた、舞い散る埃でクシャミが出るからと言えば咎めはされなかった。いくらメイクを施しても傷痕や顔立ちは誤魔化しきれない。

「いやいやながらも修道院の聖務経験が役にたったわ……」
ドナは王達に会うために従順なふりをして仕事に勤めた、だがそこは怠惰な性格が出て適度にサボることも忘れない。

城務めに従事して二月が過ぎた。
ある程度の信頼を得たドナは王宮近くの庭園の掃除を任された、これは好機だと喜ぶ。
「ここを左に行けば騎士団寮……そして右は各省庁の執務棟へ。中央階段の先には金の王宮……お父様たちが暮らしている場所へ続く」
そして彼女はかつて住んでいた王女と王子の為の豪奢な宮殿を横目に見る、悔しさが急に湧いて来た。奥歯をギリリと噛んでなんとか堪えた。

枯れ葉や毟り取った雑草を籠に詰めて一呼吸していると、先輩の下女が裏庭へ運ぶように指示してきた。彼女は素直に応じると籠を背負って裏庭へ急ぐ。
「ふふ、そうよ!裏庭は各宮殿と繋がっていて共有する場所、やったわ!やっと御父様たちの側へ行ける!」
庭園を警邏巡回している騎士たちと何度かすれ違った、会釈してやり過ごせばなんていうことはない。城務めのただの下女なのだから。忍び込もうとしている不届き者であるとわかりようがない。

王宮の一階は大食堂で厨房がある、その裏木戸から侵入してしまえば容易いと考えた。かつて王女だった頃は何度も晩餐へ呼ばれたところである。
彼女が木戸に手を掛けた時、背後から声が掛かる。驚いたドナは飛び上がりそうになった。
「おい、そこの下女」
「は、はひぃ!?」

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