完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
16 / 18

15

しおりを挟む
「フリードや、良ければこれを貸そうか?」
「はい、父上。有難くお借りします」
新郎親族席にいた父王からサーベルを借り受けたフリードベルは真っすぐと珍獣カレドナの方へ歩いて行く。

その様子を見たカレドナは盛大な勘違いをして喜びの声を上げた。
「キャー!フリードベル様!やっぱり私のことを!さぁ私を抱きしめて!」
たった一人、異物でしかない元王女はまったく空気を読まずに恋する哀れな女を演じている。細長い絨毯を歩いてくるフリードベルが怒気を放出して近寄っているのにわからないようだ。
「どこまでも愚かだ、お前もその愚兄もコアブルト王の失敗作め」

サーベルの柄に手をやりゆっくり距離を詰めてくる王太子に、カレドナは満面の笑みで出迎えるようだ。彼女は腕を広げて宣う。
「さぁ!遠慮なさらないで!自分の気持ちに素直になるのよ、甘く優しい愛の口づけを私に頂戴!そして神に愛の誓いを捧げましょう」
「喧しい!この勘違い女がウエディング・アイルを穢すな阿婆擦れ」
「え?」

彼は長い腕を幾度か振り上げて銀色の閃光を空に描いた。あまりに早い剣戟に銀の残像しか周囲の者は確認できなかった。そして、刃を向けられたはずのカレドナは今しがた何をされたのかわからず惚けていた。
すると最後尾に参列していた老女が悲鳴をあげる。
カレドナが身に纏っていた薄汚いカーテンに赤い斑点がポツポツと増えていくのを目撃したからだ。

やっと異変に気が付いたらしいカレドナは己の頬に触れた、ぬるりとした何かが手を汚す。
「え……?何よこれ赤いわ。そしてなんだか熱い、顔が火照るように熱いわ」
「お前に相応しい紋章を刻んでやったからな感謝するが良い。そして、私の花嫁の晴れ舞台を壊したこと、インパジオ王家を侮り泥を塗ったことを生涯後悔して生きていけ」
「え?え?」

愚かな彼女の顔の両頬と額に三つの赤い罪人紋が剣で描かれてしまったのだ。止血して癒えても傷跡は消えることはない。未来の王の手で刻まれたのだから、ある意味で誉かもしれない。
ジワジワと熱いだけだった傷が激痛に変わるとカレドナはやっと何をされたのか理解して絶叫した。自慢の美しい顔に傷がついたのだからそのショックは計り知れない。

「いやあああ!どうして、どうして私がこんな仕打ちを」
当然の報いだというのに彼女は後に投獄されても罪深さを受け止めようとはしなかった。調書を取られた彼女は国外へ放逐と処され生国へと戻されてしまう。
罪人紋を顔に刻まれた以上、どこへ行こうが地獄の日々を送る事になるだろう。
「牢獄で監禁などさせんよ、民の血税が勿体ないだろう?」
そう言い放つフリードベルの怒りは想像以上のものだったのだ。

***

大切な式を中断されたリリジュア夫妻だったが、司教の采配で仕切り直しをして無事にすませた。晴れて夫婦になった二人は睦まじく新婚生活を始めていた。
「あぁ、私だけのリリ。幸せで頭がおかしくなりそうだよ」
「そう?だったら離れましょうか、政務に影響したら大変だもの」
「絶対に嫌だ!それだけは許されない!」
少しだけ身体をずらしただけなのにフリードベルは必死に妻にしがみ付いて顔中にキスを落とす。こんな調子では何れ王から雷が落とされるのではとリリジュアは肝を冷やす。

「はぁ~新婚旅行は五日後だなんて辛い!」
「仕方ないのよ、各国の重鎮を式に招いておいて持て成さないわけにいきませんでしょ?」
「そうだけどぉ~そんなの父上と宰相が仕切れば良いじゃないか」
すぐにでも旅立ち、妻を独り占めしたい彼はブツブツと文句ばかりを吐くのだ。

「これからずっと一緒じゃない、飽きるほど時間があるはずよ」
「う~ん、しょうがないな。我儘ばかりじゃどこぞの泥団子みたいになってしまうからな」
王太子は妻の太腿でだらけていたが、起き上がり身形を整えてシャンとした。いつものフリードベルに戻ったのを見てリリジュアは胸をなでおろした。

「未来の王を腑抜けにしたらお叱りを受けるものね、さぁ、間もなく晩餐が開かれるわ!エスコートをお願いね」
「ああ、任せてくれ。私達の愛を振り撒いて幸せのお裾分けといこうか」
「ふふ、あまーい愛で胸焼けさせて早めに閉宴させちゃいましょう」
「うん、名案じゃないか!さすが私のリリ!」





しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

継母と元婚約者が共謀して伯爵家を乗っ取ろうとしたようですが、正式に爵位を継げるのは私だけですよ?

田太 優
恋愛
父を亡くし、継母に虐げられ、婚約者からも捨てられた。 そんな私の唯一の希望は爵位を継げる年齢になること。 爵位を継いだら正当な権利として適切に対処する。 その結果がどういうものであれ、してきたことの責任を取らせなくてはならない。 ところが、事態は予想以上に大きな問題へと発展してしまう。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

婚約破棄されたので、その場から逃げたら時間が巻き戻ったので聖女はもう間違えない

aihara
恋愛
私は聖女だった…聖女だったはずだった。   「偽聖女マリア!  貴様との婚約を破棄する!!」  目の前の婚約者である第二王子からそう宣言される  あまりの急な出来事にその場から逃げた私、マリア・フリージアだったが…  なぜかいつの間にか懐かしい実家の子爵家にいた…。    婚約破棄された、聖女の力を持つ子爵令嬢はもう間違えない…

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

侯爵令嬢が婚約破棄されて、祖父の傭兵団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 侯爵令嬢が無双をする話です。

【完結】妹のせいで貧乏くじを引いてますが、幸せになります

恋愛
 妹が関わるとロクなことがないアリーシャ。そのため、学校生活も後ろ指をさされる生活。  せめて普通に許嫁と結婚を……と思っていたら、父の失態で祖父より年上の男爵と結婚させられることに。そして、許嫁はふわカワな妹を選ぶ始末。  普通に幸せになりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……  唯一の味方は学友のシーナのみ。  アリーシャは幸せをつかめるのか。 ※小説家になろうにも投稿中

冤罪により婚約破棄されて国外追放された王女は、隣国の王子に結婚を申し込まれました。

香取鞠里
恋愛
「マーガレット、お前は恥だ。この城から、いやこの王国から出ていけ!」 姉の吹き込んだ嘘により、婚約パーティーの日に婚約破棄と勘当、国外追放を受けたマーガレット。 「では、こうしましょう。マーガレット、きみを僕のものにしよう」 けれど、追放された先で隣国の王子に拾われて!?

妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる

ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。 でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。 しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。 「すまん、別れてくれ」 「私の方が好きなんですって? お姉さま」 「お前はもういらない」 様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。 それは終わりであり始まりだった。 路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。 「なんだ? この可愛い……女性は?」 私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。

処理中です...