完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます

音爽(ネソウ)

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「フリードや、良ければこれを貸そうか?」
「はい、父上。有難くお借りします」
新郎親族席にいた父王からサーベルを借り受けたフリードベルは真っすぐと珍獣カレドナの方へ歩いて行く。

その様子を見たカレドナは盛大な勘違いをして喜びの声を上げた。
「キャー!フリードベル様!やっぱり私のことを!さぁ私を抱きしめて!」
たった一人、異物でしかない元王女はまったく空気を読まずに恋する哀れな女を演じている。細長い絨毯を歩いてくるフリードベルが怒気を放出して近寄っているのにわからないようだ。
「どこまでも愚かだ、お前もその愚兄もコアブルト王の失敗作め」

サーベルの柄に手をやりゆっくり距離を詰めてくる王太子に、カレドナは満面の笑みで出迎えるようだ。彼女は腕を広げて宣う。
「さぁ!遠慮なさらないで!自分の気持ちに素直になるのよ、甘く優しい愛の口づけを私に頂戴!そして神に愛の誓いを捧げましょう」
「喧しい!この勘違い女がウエディング・アイルを穢すな阿婆擦れ」
「え?」

彼は長い腕を幾度か振り上げて銀色の閃光を空に描いた。あまりに早い剣戟に銀の残像しか周囲の者は確認できなかった。そして、刃を向けられたはずのカレドナは今しがた何をされたのかわからず惚けていた。
すると最後尾に参列していた老女が悲鳴をあげる。
カレドナが身に纏っていた薄汚いカーテンに赤い斑点がポツポツと増えていくのを目撃したからだ。

やっと異変に気が付いたらしいカレドナは己の頬に触れた、ぬるりとした何かが手を汚す。
「え……?何よこれ赤いわ。そしてなんだか熱い、顔が火照るように熱いわ」
「お前に相応しい紋章を刻んでやったからな感謝するが良い。そして、私の花嫁の晴れ舞台を壊したこと、インパジオ王家を侮り泥を塗ったことを生涯後悔して生きていけ」
「え?え?」

愚かな彼女の顔の両頬と額に三つの赤い罪人紋が剣で描かれてしまったのだ。止血して癒えても傷跡は消えることはない。未来の王の手で刻まれたのだから、ある意味で誉かもしれない。
ジワジワと熱いだけだった傷が激痛に変わるとカレドナはやっと何をされたのか理解して絶叫した。自慢の美しい顔に傷がついたのだからそのショックは計り知れない。

「いやあああ!どうして、どうして私がこんな仕打ちを」
当然の報いだというのに彼女は後に投獄されても罪深さを受け止めようとはしなかった。調書を取られた彼女は国外へ放逐と処され生国へと戻されてしまう。
罪人紋を顔に刻まれた以上、どこへ行こうが地獄の日々を送る事になるだろう。
「牢獄で監禁などさせんよ、民の血税が勿体ないだろう?」
そう言い放つフリードベルの怒りは想像以上のものだったのだ。

***

大切な式を中断されたリリジュア夫妻だったが、司教の采配で仕切り直しをして無事にすませた。晴れて夫婦になった二人は睦まじく新婚生活を始めていた。
「あぁ、私だけのリリ。幸せで頭がおかしくなりそうだよ」
「そう?だったら離れましょうか、政務に影響したら大変だもの」
「絶対に嫌だ!それだけは許されない!」
少しだけ身体をずらしただけなのにフリードベルは必死に妻にしがみ付いて顔中にキスを落とす。こんな調子では何れ王から雷が落とされるのではとリリジュアは肝を冷やす。

「はぁ~新婚旅行は五日後だなんて辛い!」
「仕方ないのよ、各国の重鎮を式に招いておいて持て成さないわけにいきませんでしょ?」
「そうだけどぉ~そんなの父上と宰相が仕切れば良いじゃないか」
すぐにでも旅立ち、妻を独り占めしたい彼はブツブツと文句ばかりを吐くのだ。

「これからずっと一緒じゃない、飽きるほど時間があるはずよ」
「う~ん、しょうがないな。我儘ばかりじゃどこぞの泥団子みたいになってしまうからな」
王太子は妻の太腿でだらけていたが、起き上がり身形を整えてシャンとした。いつものフリードベルに戻ったのを見てリリジュアは胸をなでおろした。

「未来の王を腑抜けにしたらお叱りを受けるものね、さぁ、間もなく晩餐が開かれるわ!エスコートをお願いね」
「ああ、任せてくれ。私達の愛を振り撒いて幸せのお裾分けといこうか」
「ふふ、あまーい愛で胸焼けさせて早めに閉宴させちゃいましょう」
「うん、名案じゃないか!さすが私のリリ!」





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