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コアブルト王が宰相を伴い会場入りすると水を打ったように静まり返った。各国から挙った重鎮たちは腹を探られないように皆一様に能面顔で澄ましていた。コアブルト側のお歴々も同様だ、さすが化けるのが得意な狸共である。
国王が定型文のような挨拶をつらつらと述べ終えると、宰相に次代の王たる王太子の発表を促した。
指名をするのは王だが、それを推論し承認するのは宰相及び大臣たちである。「否」と言う者が半数以上いた場合は王の指名は変更せざるを得ない。王族の席にいる第一王子テスタシモンは『とうの昔に決定した事を勿体ぶることだ』とほくそ笑んでいた。その真横にいるエルジール王子は目を瞑り宰相の言葉を待っている。
宰相は会場内に視線を一周させてから厳かに言葉を紡ぐ。
「我が国コアブルトを統べる次代の王、王太子は……第二王子エルジール殿下と決定致しました」
宰相が一礼して読み上げた羊皮紙を高々と掲げる、間違いなくそこにはエルジールの名が記されている。国璽が押されたそれにエルジール王子が署名すれば次代の王は覆ることはない。
指名を受けたエルジールは立ち上がり祝福の声や拍手に笑顔で応えた。それから登壇すると彼は署名を済ませ、国賓、貴賓席へ向きご指導とご鞭撻を賜りたいと述べた、王太子として最初の政務を行ったのだ。
会場は割れんばかりの拍手の音で王太子任命式典は最高潮となった。
それとは逆に己の名を呼ばれなかった愚かな王子テスタシモンは、ただひとり席から立てず固まっている。愕然か驚愕か彼の哀れで惨めな状態をどう表現すべきか、見合う言葉が見つからない。数秒前までは満面の笑みを浮かべ名を呼ばれるのを待機していたのだから。
その場において顔色を失くした彼を慰めるのはカレドナ王女だけだ。
「惜しかったですわね兄様ァ、でも今後も為政者の一人として尽力してくださいな」
「え……惜しい?とは」
「だってぇ、シモン兄様が王太子になれなかったのは、毒婦リリジュアのせいも同然だもの、婚約破棄にならなければ王太子はエル兄様ではなかったのでしょぉ?」
「は……え?なん……だと……」
理解が追い付かないらしいテスタシモンはカレドナを問いただそうと立ち上がったが、彼女は席を離れてエルジール王太子に群がる一団の方へと駆けて行ってしまう。
取り残されたテスタシモンは茫然と立ち尽くして無い頭で必死に思考を巡らせて王女の発言の意味を追う。そして、やっと思い当たる言葉に辿り着いた。
『シモン、貴方が王に就くにはカルスフット公爵家の後ろ盾が必要なの。だからリリジュアと婚約したのよ。はとこに当たる彼女の存在は不可欠、しかもとても聡明なリリジュアは貴方が立派な王として君臨出来るよう助力するでしょう、大切になさいね』
「あ、あぁ……そんな……リリジュア、キミの存在はそんなに大きかったのか。私はどうして母上の言葉を正しく理解しなかったのだ、あああああ……」
頽れる彼を助ける者はそこにひとりもいない、先ほどまで侍っていたはずの側近達は何処かへ消え失せていた。
国王が定型文のような挨拶をつらつらと述べ終えると、宰相に次代の王たる王太子の発表を促した。
指名をするのは王だが、それを推論し承認するのは宰相及び大臣たちである。「否」と言う者が半数以上いた場合は王の指名は変更せざるを得ない。王族の席にいる第一王子テスタシモンは『とうの昔に決定した事を勿体ぶることだ』とほくそ笑んでいた。その真横にいるエルジール王子は目を瞑り宰相の言葉を待っている。
宰相は会場内に視線を一周させてから厳かに言葉を紡ぐ。
「我が国コアブルトを統べる次代の王、王太子は……第二王子エルジール殿下と決定致しました」
宰相が一礼して読み上げた羊皮紙を高々と掲げる、間違いなくそこにはエルジールの名が記されている。国璽が押されたそれにエルジール王子が署名すれば次代の王は覆ることはない。
指名を受けたエルジールは立ち上がり祝福の声や拍手に笑顔で応えた。それから登壇すると彼は署名を済ませ、国賓、貴賓席へ向きご指導とご鞭撻を賜りたいと述べた、王太子として最初の政務を行ったのだ。
会場は割れんばかりの拍手の音で王太子任命式典は最高潮となった。
それとは逆に己の名を呼ばれなかった愚かな王子テスタシモンは、ただひとり席から立てず固まっている。愕然か驚愕か彼の哀れで惨めな状態をどう表現すべきか、見合う言葉が見つからない。数秒前までは満面の笑みを浮かべ名を呼ばれるのを待機していたのだから。
その場において顔色を失くした彼を慰めるのはカレドナ王女だけだ。
「惜しかったですわね兄様ァ、でも今後も為政者の一人として尽力してくださいな」
「え……惜しい?とは」
「だってぇ、シモン兄様が王太子になれなかったのは、毒婦リリジュアのせいも同然だもの、婚約破棄にならなければ王太子はエル兄様ではなかったのでしょぉ?」
「は……え?なん……だと……」
理解が追い付かないらしいテスタシモンはカレドナを問いただそうと立ち上がったが、彼女は席を離れてエルジール王太子に群がる一団の方へと駆けて行ってしまう。
取り残されたテスタシモンは茫然と立ち尽くして無い頭で必死に思考を巡らせて王女の発言の意味を追う。そして、やっと思い当たる言葉に辿り着いた。
『シモン、貴方が王に就くにはカルスフット公爵家の後ろ盾が必要なの。だからリリジュアと婚約したのよ。はとこに当たる彼女の存在は不可欠、しかもとても聡明なリリジュアは貴方が立派な王として君臨出来るよう助力するでしょう、大切になさいね』
「あ、あぁ……そんな……リリジュア、キミの存在はそんなに大きかったのか。私はどうして母上の言葉を正しく理解しなかったのだ、あああああ……」
頽れる彼を助ける者はそこにひとりもいない、先ほどまで侍っていたはずの側近達は何処かへ消え失せていた。
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