5 / 18
4
しおりを挟む
コアブルト王が宰相を伴い会場入りすると水を打ったように静まり返った。各国から挙った重鎮たちは腹を探られないように皆一様に能面顔で澄ましていた。コアブルト側のお歴々も同様だ、さすが化けるのが得意な狸共である。
国王が定型文のような挨拶をつらつらと述べ終えると、宰相に次代の王たる王太子の発表を促した。
指名をするのは王だが、それを推論し承認するのは宰相及び大臣たちである。「否」と言う者が半数以上いた場合は王の指名は変更せざるを得ない。王族の席にいる第一王子テスタシモンは『とうの昔に決定した事を勿体ぶることだ』とほくそ笑んでいた。その真横にいるエルジール王子は目を瞑り宰相の言葉を待っている。
宰相は会場内に視線を一周させてから厳かに言葉を紡ぐ。
「我が国コアブルトを統べる次代の王、王太子は……第二王子エルジール殿下と決定致しました」
宰相が一礼して読み上げた羊皮紙を高々と掲げる、間違いなくそこにはエルジールの名が記されている。国璽が押されたそれにエルジール王子が署名すれば次代の王は覆ることはない。
指名を受けたエルジールは立ち上がり祝福の声や拍手に笑顔で応えた。それから登壇すると彼は署名を済ませ、国賓、貴賓席へ向きご指導とご鞭撻を賜りたいと述べた、王太子として最初の政務を行ったのだ。
会場は割れんばかりの拍手の音で王太子任命式典は最高潮となった。
それとは逆に己の名を呼ばれなかった愚かな王子テスタシモンは、ただひとり席から立てず固まっている。愕然か驚愕か彼の哀れで惨めな状態をどう表現すべきか、見合う言葉が見つからない。数秒前までは満面の笑みを浮かべ名を呼ばれるのを待機していたのだから。
その場において顔色を失くした彼を慰めるのはカレドナ王女だけだ。
「惜しかったですわね兄様ァ、でも今後も為政者の一人として尽力してくださいな」
「え……惜しい?とは」
「だってぇ、シモン兄様が王太子になれなかったのは、毒婦リリジュアのせいも同然だもの、婚約破棄にならなければ王太子はエル兄様ではなかったのでしょぉ?」
「は……え?なん……だと……」
理解が追い付かないらしいテスタシモンはカレドナを問いただそうと立ち上がったが、彼女は席を離れてエルジール王太子に群がる一団の方へと駆けて行ってしまう。
取り残されたテスタシモンは茫然と立ち尽くして無い頭で必死に思考を巡らせて王女の発言の意味を追う。そして、やっと思い当たる言葉に辿り着いた。
『シモン、貴方が王に就くにはカルスフット公爵家の後ろ盾が必要なの。だからリリジュアと婚約したのよ。はとこに当たる彼女の存在は不可欠、しかもとても聡明なリリジュアは貴方が立派な王として君臨出来るよう助力するでしょう、大切になさいね』
「あ、あぁ……そんな……リリジュア、キミの存在はそんなに大きかったのか。私はどうして母上の言葉を正しく理解しなかったのだ、あああああ……」
頽れる彼を助ける者はそこにひとりもいない、先ほどまで侍っていたはずの側近達は何処かへ消え失せていた。
国王が定型文のような挨拶をつらつらと述べ終えると、宰相に次代の王たる王太子の発表を促した。
指名をするのは王だが、それを推論し承認するのは宰相及び大臣たちである。「否」と言う者が半数以上いた場合は王の指名は変更せざるを得ない。王族の席にいる第一王子テスタシモンは『とうの昔に決定した事を勿体ぶることだ』とほくそ笑んでいた。その真横にいるエルジール王子は目を瞑り宰相の言葉を待っている。
宰相は会場内に視線を一周させてから厳かに言葉を紡ぐ。
「我が国コアブルトを統べる次代の王、王太子は……第二王子エルジール殿下と決定致しました」
宰相が一礼して読み上げた羊皮紙を高々と掲げる、間違いなくそこにはエルジールの名が記されている。国璽が押されたそれにエルジール王子が署名すれば次代の王は覆ることはない。
指名を受けたエルジールは立ち上がり祝福の声や拍手に笑顔で応えた。それから登壇すると彼は署名を済ませ、国賓、貴賓席へ向きご指導とご鞭撻を賜りたいと述べた、王太子として最初の政務を行ったのだ。
会場は割れんばかりの拍手の音で王太子任命式典は最高潮となった。
それとは逆に己の名を呼ばれなかった愚かな王子テスタシモンは、ただひとり席から立てず固まっている。愕然か驚愕か彼の哀れで惨めな状態をどう表現すべきか、見合う言葉が見つからない。数秒前までは満面の笑みを浮かべ名を呼ばれるのを待機していたのだから。
その場において顔色を失くした彼を慰めるのはカレドナ王女だけだ。
「惜しかったですわね兄様ァ、でも今後も為政者の一人として尽力してくださいな」
「え……惜しい?とは」
「だってぇ、シモン兄様が王太子になれなかったのは、毒婦リリジュアのせいも同然だもの、婚約破棄にならなければ王太子はエル兄様ではなかったのでしょぉ?」
「は……え?なん……だと……」
理解が追い付かないらしいテスタシモンはカレドナを問いただそうと立ち上がったが、彼女は席を離れてエルジール王太子に群がる一団の方へと駆けて行ってしまう。
取り残されたテスタシモンは茫然と立ち尽くして無い頭で必死に思考を巡らせて王女の発言の意味を追う。そして、やっと思い当たる言葉に辿り着いた。
『シモン、貴方が王に就くにはカルスフット公爵家の後ろ盾が必要なの。だからリリジュアと婚約したのよ。はとこに当たる彼女の存在は不可欠、しかもとても聡明なリリジュアは貴方が立派な王として君臨出来るよう助力するでしょう、大切になさいね』
「あ、あぁ……そんな……リリジュア、キミの存在はそんなに大きかったのか。私はどうして母上の言葉を正しく理解しなかったのだ、あああああ……」
頽れる彼を助ける者はそこにひとりもいない、先ほどまで侍っていたはずの側近達は何処かへ消え失せていた。
63
お気に入りに追加
493
あなたにおすすめの小説

純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】私を虐げた継母と義妹のために、素敵なドレスにして差し上げました
紫崎 藍華
恋愛
キャロラインは継母のバーバラと義妹のドーラから虐げられ使用人のように働かされていた。
王宮で舞踏会が開催されることになってもキャロラインにはドレスもなく参加できるはずもない。
しかも人手不足から舞踏会ではメイドとして働くことになり、ドーラはそれを嘲笑った。
そして舞踏会は始まった。
キャロラインは仕返しのチャンスを逃さない。

エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

だから、私は拳を握りしめる
秋津冴
恋愛
「シュヴァルト伯第二令嬢アイネ! この不逞の輩、年下の男に言い寄られ、身体を許した売女め! お前との婚約を破棄する!」
「そんなっ、オルビエート様。これは何かの間違いです――ッ!」
この国の王太子にして自身の婚約者であるオルビエートによる、突然の婚約破棄宣言。
伯爵令嬢アイネは、いきなり告げられた冤罪に恐怖する――
他の投稿サイトにも別名義で掲載しています。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる