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しおりを挟む相変わらず仏頂面のアルミロはニーナを見ようともしなかった。
今日は定例茶会でルファーノ家で催されたのに、歓迎の挨拶すらなく今にも立ち去ろうとする気配がした。
「あの、アルミロ様。私は気に障ることでもしたでしょうか、それならば言って下されば…」
「は?わからないというのか?悉くボクがしようとする事を邪魔してきて!呆れたものだな」
「そんな!私は良かれと思って」
ニーナは目を見開いて「今までしてきたことは全て貴方の為なのです」と説明した。だが、彼の心は冷たくなって何一つ響かないようだ。
「お前の注意ごとなど聞きたくない!この粘着女」
「そんな……私はただ貴方の身を案じていただけですわ、普段のお世話も同様の意味で」
定期的にお世話という名目で彼の側にいたのだが、それも嫌だと詰れらる。確かに今のアルミロは常人と同じくらいに健康そうだ、だが、油断すれば大変なことになってしまう。生まれつきの病弱で介護が必要レベルなのだ。
「お願いですアルミロ様、普段のお世話だけでも続けさせてくださいませ。この間から碌に会えていませんわ。せめて五日に一度くらいお傍に」
「ならん!冗談ではないぞ、お前の辛気臭い顔を見ただけで吐き気がするんだ!それに会ってどうにかなると思っているのか!馬鹿々々しい!事細かく俺に指図するお前の相手も面倒だし、将来はどうこうとか理想ばかり高くてお前の愛が重いんだよ!」
「そんな……」
今まで隠れて治癒をしてきた彼女に対して言う言葉ではない、例え教えられなくても”そのような効果”は如実に表れていた。それをアルミロは丸ッと忘れて「邪魔」「鬱陶しい」の言葉で彼女を撥ね退けるのだ。身体を気遣うすべての好意を否定された食事、運動、睡眠などの管理、ニーナの献身的努力はなんだったのか。
「うぅ……わかりました、定期的なお世話はしませんわ、どうなっても知りませんからね」
「シツコイなぁ!泣いて気を引こなどと止してくれ!もういい、帰ってくれよ」
「はい……では失礼します」
彼女は涙を浮かべながらその場を立ち去った、いままでの苦労はなんだったのだろうと心底思い、悔しさと切なさに苛まれ涙がいつまでも枯れない。
***
「帰りました、お父様……」
「え?」
泣き腫らした愛娘の顔を見たガーナイン卿はギョッとする、いつもならば楽し気に帰ってきてアルミロとの会話を隈なく話すというのにだ。この変わりように卿は大変驚く。
「ど。どうしたの言うのだ!そのように真っ赤に目を腫らして、一体なにが?」
「……私、嫌われてしまったようです。申し訳ございません」
「理由を聞いても良いか?」
ことの経緯を聞いた卿は憤怒の形相で「あり得ない」と怒鳴った。ニーナは治癒を施すと凄く疲れるという、憔悴しきって三日間起きない事もあった。それだというのにこの仕打ちである。
「お父様、私はもう治癒をしなくても良いでしょうか。疲れました」
「ああ、あぁ良いとも!なんなら婚約を破棄しよう、このままではニーナも辛かろう」
「はい、お父様。それで良いです、ですが少しだけ時間をください。彼を諦める日数を」
卿はそれを了承して家令を呼んだ、婚約破棄に関する事項を煮詰めるためだ。
愛していたと思っていた彼の事をすぐさま忘れる事は難しいが、距離を置いて行こうとニーナは思った。
「いつか何も感じなくなるのかしら……あの人の名を聞いても」
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