完結 勘違いした幼馴染は夫と結婚するらしい

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
6 / 7

歪んだ花嫁

しおりを挟む



翌日、夫のアロルドは知り合いの体でついて来た護衛兵を伴って職場へ急いだ。手紙でも良かったが市内でも三日は掛かる、それでは間に合わないと判断したのだ。

「ああもう面倒だよ、何もかもが!早く解決すると良い」
「しっ、大声を上げない様にして」
「ああ、すまない」

護衛に咎められながらそそくさと道を行く、念には念をいれてかなり遠回りの道程をとった。それでも相手は執拗にこちらを伺っているのかと思うとゾッとした。




「すみません、親方。細かい作業は自宅でなんとかします」
「ああ、仕方ないさ。おめぇも苦労人だよなぁ」
親方は彼の背中をパシパシと叩いて労った、差し迫った納期の分は大型タンスだ。把手と細かい細工を施した戸棚を準備して自宅へ戻るつもりだ。

意外と大荷物になりそうだと汗を拭っていると、何か白い物が視線の端に留まった。最初は気のせいかと思って作業に戻る。だが、やはり白い影はそこにあった。

「な、ななな……なんでここに花嫁がいるんだよ!?」
窓の外には白い衣装を纏いベールを被った人物が佇んでいるのが見えた。明らかにおかしい状況に彼は脂汗が滲む。親方を呼びに隣の作業場へ急ぐ。

「親方!親方ー!たいへんだ非常事態だ!」
「なんでぇ騒がしいな……」
のそりと動いた親方はアロルドの方へ駆け寄った、すると信じられない光景を窓の外に確認して驚愕する。

「な、なんだと!?どうしてここに花嫁がいるんだ!」
「知らないよ!どこかで結婚式でもするのか?そんな家具でも依頼を受けたっけ」
「馬鹿野郎、婚礼家具なんざ請け負ってねぇやい!」

花嫁は楽しそうに歌っているようだった、良く聞いてみるとそれは讃美歌だとわかる。
「――罪咎憂いを取り去り給う 心の嘆きを包まずのべて――♪」

「ひい!?親方ぁ怖いよ!」
「うるせぇ!俺だって怖い!」

狼狽える二人に花嫁が窓辺にビタンと音を立てて「愛しい貴方ぁ迎えに来たわ」と宣う、その顔は白塗りで歪んでいた、アロルドはほとんど面識が無かったがそれがカルロッタであろうことはわかる。

ガタガタと震える体を必死に抑え込み「護衛はどこに行った?」と呟く。異常事態だというのに彼は出てこない、何かとんでもない事が起きているというのはわかった。

「親方……俺は立ち向かいます、逃げているだけじゃダメなんだ」
「おいおい、正気かよ」
「だって俺には大切な家族が出来たから!守るべき者がいるから」
震えているが彼は必死になって武器になりそうなものを物色する、ここは家具を作る工房だいくらでも代用品は転がっている。

「取り合えずキリと紙やすり……」
「阿呆!ノコギリとか鉈とかあんだろうが!」
「あ、そうか」

何処か頼りないアロルドである。





しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

こんな人とは頼まれても婚約したくありません!

Mayoi
恋愛
ダミアンからの辛辣な一言で始まった縁談は、いきなり終わりに向かって進み始めた。 最初から望んでいないような態度に無理に婚約する必要はないと考えたジュディスは狙い通りに破談となった。 しかし、どうしてか妹のユーニスがダミアンとの縁談を望んでしまった。 不幸な結末が予想できたが、それもユーニスの選んだこと。 ジュディスは妹の行く末を見守りつつ、自分の幸せを求めた。

女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた

宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

近すぎて見えない

綾崎オトイ
恋愛
当たり前にあるものには気づけなくて、無くしてから気づく何か。 ずっと嫌だと思っていたはずなのに突き放されて初めてこの想いに気づくなんて。 わざと護衛にまとわりついていたお嬢様と、そんなお嬢様に毎日付き合わされてうんざりだと思っていた護衛の話。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

処理中です...