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歪んだ花嫁
しおりを挟む翌日、夫のアロルドは知り合いの体でついて来た護衛兵を伴って職場へ急いだ。手紙でも良かったが市内でも三日は掛かる、それでは間に合わないと判断したのだ。
「ああもう面倒だよ、何もかもが!早く解決すると良い」
「しっ、大声を上げない様にして」
「ああ、すまない」
護衛に咎められながらそそくさと道を行く、念には念をいれてかなり遠回りの道程をとった。それでも相手は執拗にこちらを伺っているのかと思うとゾッとした。
「すみません、親方。細かい作業は自宅でなんとかします」
「ああ、仕方ないさ。おめぇも苦労人だよなぁ」
親方は彼の背中をパシパシと叩いて労った、差し迫った納期の分は大型タンスだ。把手と細かい細工を施した戸棚を準備して自宅へ戻るつもりだ。
意外と大荷物になりそうだと汗を拭っていると、何か白い物が視線の端に留まった。最初は気のせいかと思って作業に戻る。だが、やはり白い影はそこにあった。
「な、ななな……なんでここに花嫁がいるんだよ!?」
窓の外には白い衣装を纏いベールを被った人物が佇んでいるのが見えた。明らかにおかしい状況に彼は脂汗が滲む。親方を呼びに隣の作業場へ急ぐ。
「親方!親方ー!たいへんだ非常事態だ!」
「なんでぇ騒がしいな……」
のそりと動いた親方はアロルドの方へ駆け寄った、すると信じられない光景を窓の外に確認して驚愕する。
「な、なんだと!?どうしてここに花嫁がいるんだ!」
「知らないよ!どこかで結婚式でもするのか?そんな家具でも依頼を受けたっけ」
「馬鹿野郎、婚礼家具なんざ請け負ってねぇやい!」
花嫁は楽しそうに歌っているようだった、良く聞いてみるとそれは讃美歌だとわかる。
「――罪咎憂いを取り去り給う 心の嘆きを包まずのべて――♪」
「ひい!?親方ぁ怖いよ!」
「うるせぇ!俺だって怖い!」
狼狽える二人に花嫁が窓辺にビタンと音を立てて「愛しい貴方ぁ迎えに来たわ」と宣う、その顔は白塗りで歪んでいた、アロルドはほとんど面識が無かったがそれがカルロッタであろうことはわかる。
ガタガタと震える体を必死に抑え込み「護衛はどこに行った?」と呟く。異常事態だというのに彼は出てこない、何かとんでもない事が起きているというのはわかった。
「親方……俺は立ち向かいます、逃げているだけじゃダメなんだ」
「おいおい、正気かよ」
「だって俺には大切な家族が出来たから!守るべき者がいるから」
震えているが彼は必死になって武器になりそうなものを物色する、ここは家具を作る工房だいくらでも代用品は転がっている。
「取り合えずキリと紙やすり……」
「阿呆!ノコギリとか鉈とかあんだろうが!」
「あ、そうか」
何処か頼りないアロルドである。
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