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狂気

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「なんだって……」
その報を聞いた彼は青褪め床に頽れかけた、それを身を挺して抑え込んだのは妻のロサーナである。

「あ、ああ……ありがとう」
「いいえ、良いのよこんな時こそだわ。夫婦じゃないの」
「うん、そうかそうだね」

衛兵からの報せは決して良いものでは無かった、一旦はカルロッタの身柄を拘束したものの大人しい振りが得意な彼女は出し抜いたのだ。手口はやはり「トイレへ行きたい」という言い訳だ、とてもしおらしい態度だったらしい。


「俺達の油断が過ぎたとしか言いようがない、面目ないことだ」
報せを持ってきた衛兵が目を伏せて謝罪する、彼は夫の知り合いらしく言葉がどこか親し気だ。名はテリーという彼は報告を続ける。

「カルロッタはキミらが引っ越しをしたのを知らずに後に入居した男性の家に押し入った、勘違いした行動だ。一度は追い返されたのだが、その後が良くない。彼女は窓から侵入して部屋中を荒らした」
「なんてことだ……」

カルロッタは気が触れたかのように部屋中を泥まみれにした、特に寝室が酷く、寝具は泥で汚されて引き裂かれた羽毛布団の中身が飛び出して足の踏み場がなかったらしい。

「よりによって羽毛……はぁ、家主を気の毒に思うよ」
「ああ、そうなんだ。それに加えて御そうとした男性に危害まで与えた。軽傷だったが実刑は免れない、何より気が触れた振りをしての犯行だからな」

彼女はしきりにアロルドの名を叫び訳の分からない事を口走っていた。だが、後に精神鑑定が行われ彼女は異常者を装っていたことが露見する。

「まったく困ったものさ、出されたご飯をペロリと平らげている辺り平常心だったんだ。とんだ食わせ者だ」
「そうか、人騒がせな……それで彼女の行方は?」
「ああ、今の所はわかっていない。平民に化けた衛兵を護衛に付けているが、くれぐれも用心してくれ」

テリーはそう言って自身も護衛に着くべく家の周辺へ紛れ込む。



「なんてこった、こんな大事になるだなんて」
「ねぇアロルド、しばらくは御休みを戴いたらどうなの?」
「え、いや、しかし……」
納期が迫る家具がいくつか残っているとアロルドは迷っている、引っ越し先がまだバレていないとはいえ油断が過ぎた。

「アロルド!はっきりして頂戴!」
「は、はい!明日親方に言って許可を貰うよ!」
「そう、良かった。この子の為にもちゃんとしてよね」
「うん!……え?」

ロサーナは少し恥ずかしそうに愛し気に腹を撫でていた、理由を察したアロルドは「やったー!」と叫んでしまう。警邏につていたテリーが「何事だ!」と駆けつけてきたのだが人騒がせだと注意を受ける。




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