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恋のクッキー
しおりを挟むバレリア・アゴスティニは不機嫌さを全開にしてそこにいた、今日は婚約者同士の定例茶会の日なのである。挨拶もそこそこに「ふん!」と鼻を鳴らしてソッポを向いている。
いつもならば、カルリオン・ベルトランド王子に愛の告白をしてきて鬱陶しいこと極まりない彼女なのだが、どうにも様子が可笑しいとバカ王子は驚いた。
「一体なにがあったのだ、バレリア?どうにもいつもと違うようだが」
「は?何がでしょう、私は通常運転ですわ。お構いなく」
「……そ、そうか」
沈黙が続く茶会で気まずさを感じた王子はものの五分で根を上げ「今日はこの辺でお開きにしよう」と言った。
「オホホ!それは良い名案でございます!では失礼!」
「ええぇ……」
心の底から嬉しそうに立ち上がったバレリアに王子はただ呆れるばかりだ。普段の彼女ならばしつこく長居せんと踏ん張るのだから無理もない。
「なぁ、何があったと思う?」
側近のモンテス・アカルド侯爵令息とカミロ・サダン伯爵令息、そしてファルコ・アゴスティニに問いただす。ファルコはバレリアの弟であり、姉のことを毛嫌いしていた。
愛するセレスティナ・サリーノの邪魔ばかりする彼女を嫌いになるのは当然と言えた。彼は彼女に心酔しており、王子に相応しいのはセレスティナであると日頃から思っているのだ。
彼女に横恋慕しつつ陰から応援している健気さが彼の売りである。
「そうですねぇ、漸く自分の立場を理解したのでは?殿下に相応しいのはセレス以外いないのですから」
モンテス・アカルドはそのように述べて「実に良い傾向だ」とインテリな眼鏡をクイッと上げて鼻で笑った。
それに倣うようにカミロ・サダンも「その通りだ」と咆えた、ちなみに彼は剣の事しか頭にないノウキンである。
「そうか、ファルコはどう思う?姉の事だから少しはわかるだろう」
「え、そうですね、普段からの様子では殿下の事を言わなくなりましたね。茶会の前には焼き菓子を用意して勝手に盛り上がってますが、それもなかった」
「ふむ、そうか」
良く良く考えてみれば、あの胸の焼けるような激甘いクッキーを持参していない。当然だが彼はあのクッキーが嫌いである。一口でも食べないと「しくしく」と彼女は泣き出し厄介そのものだ。
「まあ、良い傾向だと言うならば由としよう。これで婚約破棄がし易くなったというものさ」
「はは、違いない。だが、あの粘着質な女の事だ、重々気を付けることだよ」
「うん、わかっているさモンテス、油断ならないからな」
見当違いのことを言いながら彼らは面白ろ可笑しそうに笑うのだった。そして、手元を弄る王子はあのクッキーが無い事を改めて知る。
「ふ、無いとわかっていても身体は覚えているのだな、忌々しい」
彼はそういうと、ありもしないクッキーを指ではじく仕草をした。
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