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――悲しい誕生日から五年後。
主に調味料を扱う商会の事務をしていたチェルシーは平凡な日々を過ごしていた。取り立てて目立つ刺激はないが彼女はそれでいいのだと思っていたし、それなりの幸せを掴んでいた。
普通に生きるということは想像より難しいことなのだと彼女は知っている。
休日を取って部屋を整理していた彼女の元に一通の手紙が届けられた、しかし、夕方までバタバタしていた彼女は翌日の朝まで気が付かなかった。出勤間際にそれを郵便受けから引き抜いた彼女は差出人の名を見て絶句し嫌悪の表情を浮かべる。
「ずっと引っ越さなかったから届いてしまったのね……あぁ嫌だ、朝から気分の悪い名を見てしまったわ」
捨てようかと悩んだが、内容も気になった。仕方なく鞄に入れて職場に持っていくことにした。休憩時間にでも開いて細切れにしれば良いと考えたのだ。
そして、昼休憩に入り食事を摂る前に手紙を雑に破いて中身を確認する。
「……まぁなんてことかしら」
――
やあ久しぶり、愛しのチェル元気でいるかい?
きっと俺のことを思って枕を濡らす日々を過ごしていることだろう。可哀そうに!
だが、朗報だ!喜ぶと良い。
あの女と結婚したけどとんだ阿婆擦れでね、最近離縁したんだ。俺はやっと間違いに気が付いたのさ。
人生を共に歩むべきは誰だったのかとね、それはチェル、キミなんだよ。
俺が心から愛しているのはキミだけなんだ。
あの女のことは一時の気の迷いで、ちょっと余所見をしたに過ぎなかったのさ。わかるだろう?
一途なキミのことだ、今でも俺のこと待っているに違いない。優しい俺はその気持ちに応えるつもりだよ。
過去の過ちは水に流してやり直そうじゃないか!
もしも拗ねて素直になれなくても、いくらでも待つし俺は許してあげるよ、寛大だろう?
いま俺は商店を畳んで町工場で働いている、そこの近くに部屋を借りたんだ。是非来てほしい。
住所はXXX町のOOO、リウスアパートメント105号室だよ。
こちらに来るときは済まないが少しばかり用立ててくれないかな、二百万ほどあると助かるな。
いつまでも待っているよ、運命の恋人コーディより愛をこめて。
―――
ざっと読み終えたチェルシーは憤りに任せてビリビリに破り、がちがちに丸めると近くの屑籠にダンクした。
「おぞましい!何を考えているの、結局お金が欲しいだけのオチじゃないのよ!」
どこまでバカにすれば気が済むのかと彼女は肩を怒らせる。
食事を摂ることを忘れて怒り狂っていると背後から気遣かわしい穏やかな声がかかる。
「だいじょうぶ?いつも物静かなチェルシーがそんなに怒気を露わにするなんて珍しいね」
「あ、ああ。専務すみません。お恥ずかしい所を……懐かしい相手からの便りがあまりに酷くて」
かき乱してしまった髪を整えて微笑を浮かべて取り繕う彼女だったが、目が笑っていない。
「二人きりの時は名前で呼んで欲しいな、真面目さもキミの良さだけどね」
「まぁ……そんな」
良ければ事情を聞かせて欲しいと専務ことオルグレン商会の跡取りエイベルが言う。日頃から何かと世話を焼きたがる上司で恋人に彼女は話して良いものかと悩む。
「キミの力になりたいんだ、困った事があるのなら遠慮しないで」
「あ、ありがとうございます」
隠し事は良くないと判断した彼女は、かつての恋人からの手紙の内容を吐露した。
主に調味料を扱う商会の事務をしていたチェルシーは平凡な日々を過ごしていた。取り立てて目立つ刺激はないが彼女はそれでいいのだと思っていたし、それなりの幸せを掴んでいた。
普通に生きるということは想像より難しいことなのだと彼女は知っている。
休日を取って部屋を整理していた彼女の元に一通の手紙が届けられた、しかし、夕方までバタバタしていた彼女は翌日の朝まで気が付かなかった。出勤間際にそれを郵便受けから引き抜いた彼女は差出人の名を見て絶句し嫌悪の表情を浮かべる。
「ずっと引っ越さなかったから届いてしまったのね……あぁ嫌だ、朝から気分の悪い名を見てしまったわ」
捨てようかと悩んだが、内容も気になった。仕方なく鞄に入れて職場に持っていくことにした。休憩時間にでも開いて細切れにしれば良いと考えたのだ。
そして、昼休憩に入り食事を摂る前に手紙を雑に破いて中身を確認する。
「……まぁなんてことかしら」
――
やあ久しぶり、愛しのチェル元気でいるかい?
きっと俺のことを思って枕を濡らす日々を過ごしていることだろう。可哀そうに!
だが、朗報だ!喜ぶと良い。
あの女と結婚したけどとんだ阿婆擦れでね、最近離縁したんだ。俺はやっと間違いに気が付いたのさ。
人生を共に歩むべきは誰だったのかとね、それはチェル、キミなんだよ。
俺が心から愛しているのはキミだけなんだ。
あの女のことは一時の気の迷いで、ちょっと余所見をしたに過ぎなかったのさ。わかるだろう?
一途なキミのことだ、今でも俺のこと待っているに違いない。優しい俺はその気持ちに応えるつもりだよ。
過去の過ちは水に流してやり直そうじゃないか!
もしも拗ねて素直になれなくても、いくらでも待つし俺は許してあげるよ、寛大だろう?
いま俺は商店を畳んで町工場で働いている、そこの近くに部屋を借りたんだ。是非来てほしい。
住所はXXX町のOOO、リウスアパートメント105号室だよ。
こちらに来るときは済まないが少しばかり用立ててくれないかな、二百万ほどあると助かるな。
いつまでも待っているよ、運命の恋人コーディより愛をこめて。
―――
ざっと読み終えたチェルシーは憤りに任せてビリビリに破り、がちがちに丸めると近くの屑籠にダンクした。
「おぞましい!何を考えているの、結局お金が欲しいだけのオチじゃないのよ!」
どこまでバカにすれば気が済むのかと彼女は肩を怒らせる。
食事を摂ることを忘れて怒り狂っていると背後から気遣かわしい穏やかな声がかかる。
「だいじょうぶ?いつも物静かなチェルシーがそんなに怒気を露わにするなんて珍しいね」
「あ、ああ。専務すみません。お恥ずかしい所を……懐かしい相手からの便りがあまりに酷くて」
かき乱してしまった髪を整えて微笑を浮かべて取り繕う彼女だったが、目が笑っていない。
「二人きりの時は名前で呼んで欲しいな、真面目さもキミの良さだけどね」
「まぁ……そんな」
良ければ事情を聞かせて欲しいと専務ことオルグレン商会の跡取りエイベルが言う。日頃から何かと世話を焼きたがる上司で恋人に彼女は話して良いものかと悩む。
「キミの力になりたいんだ、困った事があるのなら遠慮しないで」
「あ、ありがとうございます」
隠し事は良くないと判断した彼女は、かつての恋人からの手紙の内容を吐露した。
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