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少女篇
村の生活と旅立ち
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世界どころか村の生活すら知らない森の娘を、着の身着のままで旅発たせるわけもいかない。
建前的に村長の養子として迎え、必要最低限のマナーと知識を教えなければならなかった。
帝都への召集期限は3か月、移動日数を引くと約二月ほどしか時間はない。
森の娘は「シア」と名乗った。
村長がいきなり連れてい来た獣ような娘を村民たちは好奇の目で見ている。
特に彼の家族は娘を煙たがり、一緒に住むのを拒否する。歓迎するものは誰一人いなかった。
やむをえず、簡易な小屋を与えて住まわせた。
村長の妻は不満を言うが「我が家の孫達を帝都に差し出すのか?」そう問われて口を噤んだ。
村民の身代わりに選ばれた哀れな娘として迎え入れる他なかった。
身形も奇妙で時折独り言を言っては笑うシアの姿は奇異に人々の目に映る。
「なんにもねぇ畑や林でブツブツしゃべってるぞ」
「気味が悪いぜ」
目撃した村人たちは、やはり気が触れているのだと噂して彼女を遠ざける。
だが村民の身代わりとなる彼女を、いまさら追い返すわけもいかない村長である。
「付け焼刃になるがなんとか覚えなさい、仕事に就けば食うに困らないぞ」
「わかった、です?えーとこっちので刺して食えばいいのか?」
ナイフとフォークがどちらなことも知らない娘は、分厚い肉を丸かじりしようとする。
毒見役としてテーブルマナーは覚えなけらばない必須項目、だが前途多難だ。
しかし、何を食べても腹を壊さない丈夫な身体を持つ彼女は貴重な人材だ、ゆっくり辛抱強く教える。
1週間もすればそれなりに形になった、上品とはほど遠いが肉を切って食べることは覚えた。
「やれやれ……、あとはそのがっつきをどうにかならんか?」
「んぐんぐ、美味いもんがあると止まらない。これでもゆっくり食ってるです」
口の周りをソースだらけにしてシアは平らげていく。
こんな調子で支度金のほとんどが彼女の食費に消えていった。本来ならば身支度と旅の費用なのだが仕方ない。
大赤字になるも、なんとか躾て森の娘が旅発つ日がやってきた。
村に住んで約二月後、帝都から迎えの騎士団がやって来た。
黒塗りの車体にラピスラズリ色の紋章が光っていた、馬車から端正な顔の青年が降り立つ。
村娘たちから黄色い声があがる、青年は濃い金髪を揺らして待機していた村長たちに向かって歩く。
てっきりこちらから荷馬車で帝都へ出向くつもりでいた村長は驚いて出迎えた。
理由を聞きたかったがその疑問は青年に躱されてしまう。
簡単に挨拶を済ませて本題に入った。
「選定は出来ておるだろうな?」
「はい、こちらの娘です。大変丈夫な腹を持ち、毒キノコすら平気で食べます」
「ほう、良い人材がいたものだ。大儀であった」
団長を名乗る青年が恩賞だと言い、鮮やかな青い記章を村長の手に渡す。
それから娘の姿を一瞥すると粗末な衣服に顔を顰めて、着替えさせてから馬車に乗れと命令した。
村長が恭しく箱を受けとり中身をあける、すると薄青い美しい衣装が出てきた。
それを目にした村人たちから感嘆の声があがる。
ここに住む誰よりも上等な生地のローブと男女兼用の衣装が森の娘に手渡された。
騎士団に同行してきた侍女がシアとともに小屋へ移動する、小一時間後に身なりを整えた娘が顔をだした。
ぼさぼさ伸び放題だった髪はセットされ、うっすら化粧まで施され見違えるような変身ぶりに村人たちは驚愕する。
「化けるものですな、いやあオナゴは恐ろしい」
つい軽口をとばす村長に青年が魔物より怖かろうと笑った。
シアなりに世話になったと村長へ礼をして、馬車へ乗り込もうとした時だった。
村長の孫娘の一人がシアを押しのけて「私こそが帝都に行くに相応しい」と叫んで騎士隊長に縋りついた。
村長は騎士隊に不敬な態度で接する孫娘を慌てて叱咤する。
「バカな事をするな!お前にできる仕事ではないぞ!」
「嫌です、お爺様!田舎暮らしは飽きたの!私はこの方と帝都で暮らしたい!」
やり取りを傍観していた騎士達が一斉に苦笑いしている。
「おいおい、タリッド隊長に見惚れた田舎娘がトチ狂ってるぜ」
「身の程知らずが」「無能は要らねぇよ」
口々に嫌味を発する騎士達に孫娘が赤面して戦慄く、自分のなにがいけないのかと抗議する。
「お願い騎士隊長様!私を連れて行ってください!きっとお役に立ちます!御傍に置いてください!」
しかし、タリッドと呼ばれた青年が応えることはなかった。
除けられて倒れたシアを抱きかかえ馬車に乗り込む。
そして車窓から村長たちに警告する。
「いまさっきの不敬は見逃してやる、次はない」
その言葉に村民全員が地に伏せて謝罪した、好き勝手騒いだ孫娘は親たちに殴り倒されて気絶する。
「くだらん邪魔が入った、帝都へ急ぐぞ」
隊長とシアを乗せた馬車が動いたの合図に、騎士隊は村から撤退して行った。
建前的に村長の養子として迎え、必要最低限のマナーと知識を教えなければならなかった。
帝都への召集期限は3か月、移動日数を引くと約二月ほどしか時間はない。
森の娘は「シア」と名乗った。
村長がいきなり連れてい来た獣ような娘を村民たちは好奇の目で見ている。
特に彼の家族は娘を煙たがり、一緒に住むのを拒否する。歓迎するものは誰一人いなかった。
やむをえず、簡易な小屋を与えて住まわせた。
村長の妻は不満を言うが「我が家の孫達を帝都に差し出すのか?」そう問われて口を噤んだ。
村民の身代わりに選ばれた哀れな娘として迎え入れる他なかった。
身形も奇妙で時折独り言を言っては笑うシアの姿は奇異に人々の目に映る。
「なんにもねぇ畑や林でブツブツしゃべってるぞ」
「気味が悪いぜ」
目撃した村人たちは、やはり気が触れているのだと噂して彼女を遠ざける。
だが村民の身代わりとなる彼女を、いまさら追い返すわけもいかない村長である。
「付け焼刃になるがなんとか覚えなさい、仕事に就けば食うに困らないぞ」
「わかった、です?えーとこっちので刺して食えばいいのか?」
ナイフとフォークがどちらなことも知らない娘は、分厚い肉を丸かじりしようとする。
毒見役としてテーブルマナーは覚えなけらばない必須項目、だが前途多難だ。
しかし、何を食べても腹を壊さない丈夫な身体を持つ彼女は貴重な人材だ、ゆっくり辛抱強く教える。
1週間もすればそれなりに形になった、上品とはほど遠いが肉を切って食べることは覚えた。
「やれやれ……、あとはそのがっつきをどうにかならんか?」
「んぐんぐ、美味いもんがあると止まらない。これでもゆっくり食ってるです」
口の周りをソースだらけにしてシアは平らげていく。
こんな調子で支度金のほとんどが彼女の食費に消えていった。本来ならば身支度と旅の費用なのだが仕方ない。
大赤字になるも、なんとか躾て森の娘が旅発つ日がやってきた。
村に住んで約二月後、帝都から迎えの騎士団がやって来た。
黒塗りの車体にラピスラズリ色の紋章が光っていた、馬車から端正な顔の青年が降り立つ。
村娘たちから黄色い声があがる、青年は濃い金髪を揺らして待機していた村長たちに向かって歩く。
てっきりこちらから荷馬車で帝都へ出向くつもりでいた村長は驚いて出迎えた。
理由を聞きたかったがその疑問は青年に躱されてしまう。
簡単に挨拶を済ませて本題に入った。
「選定は出来ておるだろうな?」
「はい、こちらの娘です。大変丈夫な腹を持ち、毒キノコすら平気で食べます」
「ほう、良い人材がいたものだ。大儀であった」
団長を名乗る青年が恩賞だと言い、鮮やかな青い記章を村長の手に渡す。
それから娘の姿を一瞥すると粗末な衣服に顔を顰めて、着替えさせてから馬車に乗れと命令した。
村長が恭しく箱を受けとり中身をあける、すると薄青い美しい衣装が出てきた。
それを目にした村人たちから感嘆の声があがる。
ここに住む誰よりも上等な生地のローブと男女兼用の衣装が森の娘に手渡された。
騎士団に同行してきた侍女がシアとともに小屋へ移動する、小一時間後に身なりを整えた娘が顔をだした。
ぼさぼさ伸び放題だった髪はセットされ、うっすら化粧まで施され見違えるような変身ぶりに村人たちは驚愕する。
「化けるものですな、いやあオナゴは恐ろしい」
つい軽口をとばす村長に青年が魔物より怖かろうと笑った。
シアなりに世話になったと村長へ礼をして、馬車へ乗り込もうとした時だった。
村長の孫娘の一人がシアを押しのけて「私こそが帝都に行くに相応しい」と叫んで騎士隊長に縋りついた。
村長は騎士隊に不敬な態度で接する孫娘を慌てて叱咤する。
「バカな事をするな!お前にできる仕事ではないぞ!」
「嫌です、お爺様!田舎暮らしは飽きたの!私はこの方と帝都で暮らしたい!」
やり取りを傍観していた騎士達が一斉に苦笑いしている。
「おいおい、タリッド隊長に見惚れた田舎娘がトチ狂ってるぜ」
「身の程知らずが」「無能は要らねぇよ」
口々に嫌味を発する騎士達に孫娘が赤面して戦慄く、自分のなにがいけないのかと抗議する。
「お願い騎士隊長様!私を連れて行ってください!きっとお役に立ちます!御傍に置いてください!」
しかし、タリッドと呼ばれた青年が応えることはなかった。
除けられて倒れたシアを抱きかかえ馬車に乗り込む。
そして車窓から村長たちに警告する。
「いまさっきの不敬は見逃してやる、次はない」
その言葉に村民全員が地に伏せて謝罪した、好き勝手騒いだ孫娘は親たちに殴り倒されて気絶する。
「くだらん邪魔が入った、帝都へ急ぐぞ」
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