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成れの果て
しおりを挟む結局すべての財を押収されたファーレン子爵家は取り潰しとなった。財がなければ領土を保てるはずもなく、後見人もいないのだから仕方がない。領地も当然売りに出されたが曰く付きの土地など手を出す者がおらず買い叩かれた。
「なるようになったね、残った支払いは……まぁ、あの二人は頑張って返すだろうよ」
「返す当てなどありまして?」
ベルナティの問いに「うっ」と口籠るライモンドだったが、真っ直ぐ見つめるその目に降参した。
「アテと言って良いのかわからないが生涯奴隷のような生き方をするだろう、銀鉱山を知っているかい?日光を浴びられず発掘の際に発生する鉛蒸気を吸い込む……平均寿命は30年だ、過酷なことになるだろう」
「まあ……」
辛辣な現実を聞かされた彼女は青褪めた、だがそれはブリジッタとアンブラが自ら選んだようなもの同情はしても悲しいとは思わなかった。
「ねぇ、ライ。私はあまり悲しいとは思わないの、非情かしら?」
「いいや、キミを身一つで追い出したアイツらには同情の余地はないと考えるね」
ライモンドは静かに怒っている、それを察した彼女もまた目を伏せて「仕方ないのよね」と言った。
そして、彼は子爵位を買ったことを明かした。革製の冊子に銀枠の書状が収まっているそれを見せてくれた。羊皮紙には王爾があり「子爵」の文字が刻印されている。
「あぁ、ありがとう……おじい様に顔向け出来るわ、なんとお礼をしたら良いか」
「お礼ならばキミが嫁いできてくれたことで相殺しよう」
「まあそんな事で良いの?」
すると彼女の頬に口づけて「そんな事だなんて卑下しないで」と彼は苦笑する。
***
過酷な鉱山での作業を強いられたブリジッタとアンブラは涙を流して従事していた。当然に愚痴を吐かずにはおれない。
「うう、どうしてよぉ!遺産が2億も残っているのに……グスグス」
「仕方ないのよ、負の財産を受け継ぐと了承したのだもの」
「それよ!それがわからない!」
石礫を拾いながらブリジッタは喚く、監視人がジロリと睨んで来たが作業はしているので見逃された。
「……受け継いだ時はたしかに現金で3億はあったわ、でもね負債額が5億円あったの。それを知らずに私達は舞い上がってしまった」
管財人にすべてを知らされらた母アンブラは漸く目が覚めた、だが気づくのが遅すぎたのだ。
「何よそれ……私達は借金を受け継いだってこと!?バカにしているわ、お姉様に騙されたのだわ!」
だが、ベルナティは確かに言った『債務整理をしなければ』とそれを聞き漏らしたのはブリジッタのほうだ。
「狡いわよ!お姉様にも支払う義務があるはずだわ!」
「……ないわよ、あの子は文字通りすべての権利を放棄して出て行ったのだから」
「え」
「知らなかったの?あの子は元子爵家から籍を抜いているのよ、もっとも今は伯爵家に籍があるのだけど」
それを聞いたブリジッタは愕然とした、伯爵に言ってどうにか出来ないかと悪足掻きをしようとしていたのだ。
「そんなぁ!残りの負債をどうやって返すのよぉ!」
「こら!そこ!いい加減に私語を慎め!」
容赦のない鞭がブリジッタを襲った、為すすべなくそれを体に受けて「ごめんなさい、ごめんなさい!」と謝るほかがない彼女である。
こうして日々僅かな金子を稼ぎその日暮らしをしていたブリジッタ親子だったが、最初に倒れたアンブラを看取って涙を流した。
「お母様ァ……私一人では悲しいわ。おいて行かないで」
襤褸雑巾のような彼女は泣いて縋ったが遺体を回収されて引き剝がされた。絶望という表現がそれには相応しい。
「誰か助けて……トンマゾ、貴方はいまどこにいるの?」
平民トンマゾはまんまと小銭を隠し持って街に逃げ込んでいた。その額一千万。
それを元手に商売をしていた、最初こそ上手くやっていたが段々と売り上げが乏しくなった。
「くそぉ!元手が……利益が出なくなってしまったぞ」
無い頭で菓子製造をしていたが、安価で良質なものが出回ってあっと言う間に客を奪われた。資金繰りに苦慮しているとある訪問者がやってきた。
「こんにちは、私はガルボリーノ菓子店のものよ」
それはベルナティであった、たおやかな美しさの中に芯の強さを秘めている。彼はあの日すれ違ったことを思いだす。
窶れた顔をして子爵家を出て行く女性の姿だ。
「あ、ああ貴女は……」
「間違いだらけのこの店を買い取ってあげましょう。宜しくて?一等地に相応しい店にしてあげる」
完
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