完結 穀潰しと言われたので家を出ます

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
2 / 9

トンマゾという男

しおりを挟む



「それではお元気で」
「あ~はいはい、御機嫌ようお姉様!さっさと出て行って頂戴」

肩を竦めて生家を出て行く彼女は「いままでありがとう」と屋敷に向かって呟く。
すれ違いざまにとある男が屋敷に入って行った、彼は勝ち誇った顔をしていてベルナティを見下していた。

「……あの人がブリジッタの良い人かしら、見目はともかくとして貴族には見えないけれど」
彼女はチラリと後ろを振り向き彼の背を見た、どうみても所作がよろしくない。猫背で肩を揺らして歩く様は破落戸のそれだった。

「まあいいわ、私には無関係だもの」
ベルナティは肩を竦め立ち去る、馬車は使わない、だって馭者さえ暇を出して馬もいないから。それほどに逼迫していたのである。




「まぁまぁ!トンマゾ、良く来てくれたわ!」
ブリジッタは彼の姿を見つけると満面の笑みでもって歓迎した、ちょっと皮肉そうな笑みを浮かべてトンマゾと呼ばれた男は「やぁ」と短く挨拶をする。

ちょっとした騒ぎに奥の部屋から出て来た母アンブラは何事かと訝しむ、すると目の前に綺麗とは言い難い人物を見て嫌そうな顔をした。

「ブリジッタ、その方は誰なの?新しい使用人かしら」
「まあ!お母様ったら御冗談を!彼は私の恋人ですの、トンマゾと言うのよ」
「なんですって?」

どう見ても平民の男である、落ちぶれたとはいえ子爵家に相応しいとは到底思えない。アンブラは数歩引いて更に男の様子を伺う。クラバットは付けていたが上等とは思えない、服も靴も草臥れていて小奇麗とは言い難い。

「ブリジッタ、冗談を言っているのは貴女でしょう。笑わせないで」
「いいえ、お母様は彼の素晴らしさを知らないから、いまはこんなですが着飾れば立派になります!」
「えええ……彼に何を期待しているの?」

眩暈を覚えたアンブラはヨロロとよろけてソファに沈んだ。それだと言うのにブリジッタは気にも留めず彼とイチャイチャしていた。
「あぁ、なんてことかしら。悪夢ならば覚めて頂戴……」
昏倒する間際にトンマゾの薄ら笑いを見た母は悍ましいと思う。



「ここが私たちの部屋よ、もっと贅沢に飾ろうと思うのよ。日当たりも良いし素敵でしょ?」
「ああ、そうだな。俺達に相応しく飾ってくれよ、この天蓋は気に入らないな青が良い」
「ふふ、そうね!何もかも新調しましょう、なんたって3億あるのだもの!」

「3億……ふふ、そうか素晴らしいな」
彼の瞳には厭らしく物欲の色が見て取れた、ブリジッタの事など見ていない。薄汚い口からは優しい言葉が出てくるが本心はドロドロなのだ。

「嬉しいよブリジッタ、俺なんかの為に」柔らかに微笑む彼は温和な仮面を被りそこにいた。
「何を言っているの当然じゃない!」
色呆けしている彼女には真実は見えていないようだった。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】ドレスと一緒にそちらの方も差し上げましょう♪

山葵
恋愛
今日も私の屋敷に来たと思えば、衣装室に籠もって「これは君には幼すぎるね。」「こっちは、君には地味だ。」と私のドレスを物色している婚約者。 「こんなものかな?じゃあこれらは僕が処分しておくから!それじゃあ僕は忙しいから失礼する。」 人の屋敷に来て婚約者の私とお茶を飲む事なくドレスを持ち帰る婚約者ってどうなの!?

理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら

赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。 問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。 もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

隣国へ留学中だった婚約者が真実の愛の君を連れて帰ってきました

れもん・檸檬・レモン?
恋愛
隣国へ留学中だった王太子殿下が帰ってきた 留学中に出会った『真実の愛』で結ばれた恋人を連れて なんでも隣国の王太子に婚約破棄された可哀想な公爵令嬢なんだそうだ

【短編】捨てられた公爵令嬢ですが今さら謝られても「もう遅い」

みねバイヤーン
恋愛
「すまなかった、ヤシュナ。この通りだ、どうか王都に戻って助けてくれないか」 ザイード第一王子が、婚約破棄して捨てた公爵家令嬢ヤシュナに深々と頭を垂れた。 「お断りします。あなた方が私に対して行った数々の仕打ち、決して許すことはありません。今さら謝ったところで、もう遅い。ばーーーーーか」 王家と四大公爵の子女は、王国を守る御神体を毎日清める義務がある。ところが聖女ベルが現れたときから、朝の清めはヤシュナと弟のカルルクのみが行なっている。務めを果たさず、自分を使い潰す気の王家にヤシュナは切れた。王家に対するざまぁの準備は着々と進んでいる。

自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。

Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。 二人から見下される正妃クローディア。 正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。 国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。 クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。

従姉が私の元婚約者と結婚するそうですが、その日に私も結婚します。既に招待状の返事も届いているのですが、どうなっているのでしょう?

珠宮さくら
恋愛
シーグリッド・オングストレームは人生の一大イベントを目前にして、その準備におわれて忙しくしていた。 そんな時に従姉から、結婚式の招待状が届いたのだが疲れきったシーグリッドは、それを一度に理解するのが難しかった。 そんな中で、元婚約者が従姉と結婚することになったことを知って、シーグリッドだけが従姉のことを心から心配していた。 一方の従姉は、年下のシーグリッドが先に結婚するのに焦っていたようで……。

【完結】私に可愛げが無くなったから、離縁して使用人として雇いたい? 王妃修行で自立した私は離縁だけさせてもらいます。

西東友一
恋愛
私も始めは世間知らずの無垢な少女でした。 それをレオナード王子は可愛いと言って大層可愛がってくださいました。 大した家柄でもない貴族の私を娶っていただいた時には天にも昇る想いでした。 だから、貴方様をお慕いしていた私は王妃としてこの国をよくしようと礼儀作法から始まり、国政に関わることまで勉強し、全てを把握するよう努めてまいりました。それも、貴方様と私の未来のため。 ・・・なのに。 貴方様は、愛人と床を一緒にするようになりました。 貴方様に理由を聞いたら、「可愛げが無くなったのが悪い」ですって? 愛がない結婚生活などいりませんので、離縁させていただきます。 そう、申し上げたら貴方様は―――

処理中です...