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子爵家の遺産
しおりを挟む長い事病床にいた父が息を引き取った、だが悲しみに暮れる暇もなくベルナティは忙しく動く。それもこれも傾いたファーレン子爵家のせいである。所謂負の遺産しか残っていない。
それを引き継いだ彼女は兎に角忙しい。
まずは人員整理をしなければならず、長年家に仕えてくれた家令や侍女長に退職金を払わなければならない。”退職金”こればかりは出し惜しみするわけにもいかないのだ。
「長年仕えてくれてありがとう」彼女は腰を折って彼らに礼を言った。
「いいえ、お嬢様勿体ないお言葉です」
「そうですお嬢様、気に病むことはないのです」
彼らは退職金の辞退を申し出たがベルナティは「最後の見栄えをさせて」と笑って断った。メイドや下女らにもわずかだが慰労金を払い出て行って貰う。
そんな諸事情を知らない母アンブラと妹のブリジッタはメイドがいない事に腹を立てた。
「どうするのよ!私の髪を結うものがいないじゃない!」
「私の世話は誰がしてくれるの?顔を洗いたいのに困ったわぁ」
早速と愚痴を言いまくる彼女らにウンザリしながら、ベルナティは子爵家の内情を伝える。聞いているのかいないのか途中から話し半分で「はいはい」というブリジッタだ。母とて似たような反応だ。
「取り合えず遺産はいくらなの?姉様が独り占めする気なの?」
「……はぁ、遺言通りならば私が引き受けます異論があるのならば聞きますよ」
それを聞いたブリジッタは「独り占めは許さない」と叫んだ、負の遺産である多額の金額を聞いて何を勘違いしたのか喜んでいる。
「お姉様は出て行って!この穀潰し!私にはわかっているのよ遺産をいいように使おうだなんて」
「そんなつもりはないわ、色々と債務整理しなければならないのよ」
いくら説明しても聞く耳を持たない妹は目の前の遺産に目が眩んでいてどうにもならない。
「ほんとうに良いの?後で返すと言っても聞き入れないわよ」
「良いに決まっているわよ!3億よ!これを一人で受け継ぐなんて許さないから!」
それを聞いていた母アンブラも色めき立ち、いますぐ遺産を寄越せと言ってきた。
「まあ、そんなにあるの?ズルイわよベルナティ!」
とうとう諦めたベルナティはすべて投げ出すことにした。
「はあ、そう言うのであれば私は一切手を引きます。後はよろしくね」
言質を取ったベルナティは早速と遺産相続の手続きを行った、確かに遺産は3億ほどある。だがそれは負債額を引いていない金額であるとブリジッタは知らない。
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