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祝杯
しおりを挟むその頃の城内は細やかな祝いを挙げていた、贅沢は出来ないが新たに立国を果たしたテルダーティ大公は乾杯の音頭をとっていた。
「立国おめでとう!乾杯!」
「乾杯!」
「おめでとうございます、大公様」
「グランデュークに乾杯!」
皆、口々に言祝ぎを言う。
ドレイタス王国改め、テルダーティ大公国となった瞬間である。人々は新しい国に期待して高揚していた、その中にアンドレイナの姿があった。彼女は控えめに壁際に佇み「おめでとう」と言って祝杯を空にした。
「何を遠慮しているんですアンドレイナ、こっちへ来て語りましょう」
「あ、テルダーティ様、立国おめでとうございます」
「はは、おめでとう。だがそう畏まらず頼みます」
相変わらず冷たそうな相貌の持ち主はアンドレイナを見つめていた。だが、彼女にはわかる、とても喜んでいるのだ。ランベルナイトはテルダーティ大公の息子だ、いずれはこの国を背負って立つ人物である。
その彼に見初められた彼女もまた同じ運命を背負っていた。
「まだ、実感がわきませんわね。新しい国になったというのに」
「そうでしょうとも、この城も何も変わらず建っているのだから。エンブレムは我が家のものに取り替えてあるが」
ほんの少しだけ厳しい顔えをする彼はなにを思っているのだろうと彼女は考えた。
そのうちダンス音楽に変わっていてランベルナイトが誘って来た。
「踊るのは初めてですね、宜しく」
「はい、お願いします」
どこかぎこちない踊りだったが、すぐにスムーズになっていく。羽が生えたのではと勘違いするほどだ。それは彼のサポートが利いている、そのことに気づいたアンドレイナは”なんて素敵なんだろう”と感心した。
ウットリして踊っていると曲が終わってしまう、少し残念に思っていると「次の曲もどうか」と誘われた。
「宜しいのですか?」
「ああ、構わないですよ。どうせ踊りたがる女などいない」
そんなことはと言いかけて遠巻きにしている婦女子を見てしまう、チラチラと視線はあるがそれは畏怖しているものだとわかってしまった。
「ふふ、では私が独り占めしますね!残念だわ、とても素敵なステップを踏まれるのに」
「そう言ってくれるのはキミだけです、私はなんて果報者なのだろう」
「まあ……そんな」
「どうかランベルと呼んでくれませんか?」
「はい、ランベル様」
頬を染てウットリとそう言う彼女だ。二度三度と踊っているうちに、痺れを切らした者がアンドレイナを誘って来た。
「あらぁ、ごめんなさい。私はランベルナイト様専用ですの」
その頃、城の近くまでやってきていたテベリオ・ドレイタスはキラキラとした光を眺めて「何事だ?」と怪訝な顔をしていた。
「なーに?パーティでもやっているのかしら、ここまで音楽が流れてくるわ」
「……どうしたことだ、まさか歓迎パーティ?」
「そうよ!きっとそうなんだわ!王太子夫妻の帰還を喜んでいるのよ」
呑気なベネッタは楽しいものを見つけたと頬を紅潮させている。
テベリオは一瞬だけそう思おうとした、だがあり得ないと考えを改めた。城の連中は悉く彼らの要求を撥ね退けてきたのだから。
「どういうことか確かめなければ……ちっ!ヤツラだけ贅沢するなどけしからん!」
「早く行きましょうよ、お腹がペコペコだわ。湯浴みもしたいし」
王国は消え去り、新しい国に生まれ変わったことを知らない彼らは城門の兵に声を掛けた。
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