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王妃と王女
しおりを挟む相も変わらずテベリオから「支援の要請」が届く、それを一瞥して「捨て置け」と言ったのは宰相であった。
「国の一大事と言う時にあの方は……」
いまも何処かで呑気に新婚旅行だといって遊んでいる男に用はないと言った。共和制に向けて動き出した国会は忙しない。
一方、城の一室では王妃と王女が慌てふためいていた。身柄を拘束される前にできるだけ宝飾品を搔き集めているのだ。そんなことをしても身体検査で発覚するれば没収されるというのにご苦労なことだ。
「あああ!早く!首飾りをありったけ入れるのよ」
「わかっているわ、お母ちゃま!指輪はぜんぶ詰め込んだわ」
ギャアギャアと姦しく騒ぐふたりを置いて、侍女達は冷めた目で見ている。最後のひと足掻きには参加させて貰えない。
「あらあら、噂を聞いてやってきてみれば醜いこと。その指輪一つで民がどれくらいパンが買えるかわかって?約3年分よ、罪深いわ」
アンドレイナ・サンドリーニがやって来て嫌味を言う、部外者がやってきたことで王妃はヒステリーを起こす。
「何よ貴女!無礼だわ!」
「そうよ、たかが第二妃の癖に!」
だがアンドレイナはそれに反応せず、淡々と話す。
「ねぇ、貴方方に食べさせる日々の糧が勿体ないと思うの、今後は私と同じに日に1食だけにしましょう。おかげでサイズが2段も落ちたのよ」
「な、なにを言っているの?」
急に怯みだした王妃がポトリと首飾りを落とした、それを「勿体ない」といって拾いあげる王女だ。
「無駄話は御終いね、皆様よろしく」
彼女がそう言って手を叩けば騎士達が雪崩れ込んできて、王妃と王女を拘束した。もちろん、隠そうとした宝飾品は没収だ。
「きぃぃ!放しなさい、私を誰だと思っていて!?」
「いや~放してよぉ、お母ちゃま助けて!お父ちゃまは何をしているのよ!」
「貴女の御父様は間もなく断頭台へ行かれるわ、文句も言わずとても勇敢なのね」
「んな!?だ、断頭ですって……」
目を見開いた王女は青褪めて震え出した、自分も同じ道を行くのかと恐れて泣き出す。
「いや、いやだ……お願いよ。命だけは」
「あらぁ?命乞いをするのね、どうしようかしら?」彼女はコロコロと笑って「すぐには殺さないわ」と笑った。
「命乞いをするなら宰相に掛け合ってあげる、まぁ最悪の選択になるとは思うわ」
「どういう意味……?私は命が助かるならばなんでも良いわ!」
それを聞いた彼女は微笑んで「楽しみにしていて」と言った。
そして、断頭台を逃れた王妃と王女は国を追われた。北の荒野に放逐されたのだ。
ある意味、断頭より遥かに厳しい処断といえる。
「お母ちゃま……私達は最悪の選択をしたの?」
「うぅ……お腹が空いたわ、昨日から何も食べてない」
雪だらけで何もない、遠くから鹿の鳴き声がしたが仕留めて食べるようなことは出来ないだろう。風雪を凌ぐ装備も碌にしていない。
彼女らの行き着く先は目に見えていた。
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