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赤子サバイバル

野趣あふれるスープ

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「あいああういああいあう」
(有難くいただきます)


俺は絶命した熊に陳謝して、仕留めてすぐに解体処理に忙しくなった、本当は眠くて仕方ない。
やたら眠いのは体の成長に必要なのだろうな、もっと赤ん坊の身体について学んでおくべきだった。
ほぼ不死とも言える存在だったため結婚というものをしたことが無い、当然子孫もいない。

便利な異能だが巫山戯た遺伝が子に継承されるのを避けたかった、生を繰り返していても楽しいことはあまりなかったからだ。

しかし、乳幼児時期の身体の知識を持たなかったのは迂闊だった。いくらでも知る機会はあっただろうに。
こんな偏った知識のどこが賢者だ!急に恥ずかしくなったぞ……。
そもそも赤子を捨てるという発想が俺になかったから仕方ないと思う。
毒親とは恐ろしい存在だよ。


体力のなさに苛立ちながら己にバフ魔法の体力強化と覚醒効果をかけた。
力がみなぎり眠気は吹っ飛んだ、爽快な気分で解体作業をすすめる。

覚醒魔法は最初からかけていれば楽だったろうが、赤子の身体では後の反動に耐えられるか不安だからな。
もし死んだら次に転生できるのはいつになるか定かじゃないし人間に生まれる保証もない。
今世こそを果たしたい。

とりあえず丸一日は元気に行動できる程度に留めよう。


血抜きの間だけ休み、栄養を摂った。砕いて水に溶かした胡桃のミルクはまぁまぁだった。
砂糖があればより美味しいだろうが、蜂蜜さえこの辺りには見当たらないからな。


それから風魔法の斬撃を駆使して毛皮と肉、骨を分けた。
骨はスープを取れるし、肉は干して貯蔵しよう。歯が生えたら肉スープが食べられるぞ。

やっと栄養価の高いものを口にできそうだ、だが固形はやはり無理だろうから骨スープだけで過ごそう。
岩塩があれば良いのだが今のところ発見できてない。

見つけたとしたらそこは獣が寄り付く、ミネラルを欲する野生動物が舐めに現れるからな。
いずれはその周辺に罠を仕掛けて鹿肉などが取れたら嬉しい。


熊の解体が終わると器具がないことに気が付いてガッカリした。
スープを煮込みたくても鍋がない、食器は木を削ればなんとかなってもこればかりは……。

「いあああい、えんいんううあ」
(仕方ない、錬成するか)

錬成には魔力をたっぷり消費するので加減が必要だ。
鉄分を含んだ岩石を探して重圧魔法で粉砕した、鉄鉱と石灰がとれた足りない材料は魔法で補い実行する。
直径20センチほどの小鍋を作った、もっと大きくしたかったが乳児の体力ではこれが限界のようだ。

洗浄してバキバキに砕いた骨を早速煮込んだ。
恐ろしく獣臭い湯気に吐きそうになったが贅沢は言えない、煮たててアクの出た汁を全て捨ててまた洗浄する。
二度目の骨煮込みには野生の香草を採取して多めにぶち込む。
塩がないので不味そうだが白濁したスープが完成した。

コラーゲンたっぷりだろうから栄養は摂れるぞ。
アクと浮いた脂を捨てて旨味の部分だけを口元へ運んだ、もちろん空気魔法を使って。
程よく冷えたスープをおずおず飲み込む。

うん、思ったよりも悪くない。
アク抜きして香草で煮たお陰で匂いはマシになったようだ、塩はなくても乳児の舌は敏感なのか旨味だけで十分だった。成長したら米か麺を入れて食べてみたい。



***

翌日、熊の毛皮を鞣すことにした。
腐らないうちにに仕上げなければならない、内側にこびりついた脂を丁寧に削ぎ落す。
樹脂液を使って防腐する必要があるな、魔の森ならばミチェスの木が良い、どこにでも生えてるし。木の皮を煮込んでタンニンをだな……、浸す桶がないことに気が付いて丸太の反面をくり抜き細長の桶にした。

それにしても、またも煮込むのか……なんて面倒なんだ。
魔法ばかりに頼らず竈を造ったほうが楽かもしれないな。


そもそも乳児がサバイバル生活をしなきゃならないのは不憫すぎないか?
つくづく俺を捨てて行った親を怨むぜ。
魔法が使えなかったらと想像してゾッとした。せめて仲間がいればと思い、土傀儡を作ることも考えたが失敗すると手に負えない。

傀儡が暴走したら赤ん坊の俺を殺す危険をはらむ。
……せめて5歳くらいまでは我慢するか。


毛皮が完成するのは数カ月は先だ、ぎりぎり冬までには完成させたい。
周囲の景色を見るに初夏といったところだろうか。

ならば樹脂取りついでに木綿を作れないか?
幸いコウゾは生えているし、良い案かもしれない。なによりパンツが欲しいからな。
不織布でも良いから布が欲しい。この襤褸切れよりはいくらかマシだろう。



そうと決めた俺はタンニン液に毛皮を浸して、コウゾの木まで移動することにした。
生活拠点が出来たことで気が大きくなっていた。

這いまわるわけにもいかないので風魔法に浮かんで探索をした。
人の目があったら何事かと騒がれるだろうな。

「ん、おういああおううあえうあうはいうおあ?」
(ん、そう言えば魔法が使えるヤツはいるのか?)


鳥として生きて、人の子に転生してからどれほど年数が経ったかいまだに把握してない。
知る前に孤児になったからな、これはシンドイぞ。

最後に人として生きた時代には魔法師は国に数人いた程度だった。
魔力はあっても魔法を使える技量がなければ意味はない、魔法自体の力が衰退していたら無闇に使うのは良くないな。


うーむ、俺を捨てた両親はたぶん使えない。
わざわざ馬車を使ってここまで来たんだ、簡単な移動魔法すら使えない無能ということが確定してる。
そんなことをツラツラ考えていたらコウゾの赤い実が群生する所に辿り着いた。

先ずは腹ごしらえとばかりに千切って食べた。
種をペッペッと吐いては吸い付いつくこと十数分。軽く眠気が来たので隣に生えるブナの木の上で休むことにした。
葛の蔦があったのでそれを体と木に巻きつけて船を漕ぎ始めた。


どれほど寝たのか、下方から聞こえる唸り声に目を覚ました。
声から察するにモルテベアのようだ、観察した限りではヤケに小さいのが2頭いた。まだ子熊のようだ。
ということは……近くに親がいてもおかしくないぞ。厄介な事に仔連れの熊は余計に気が荒い。


無視してコウゾを刈り取るのも良いが、再び熊と戦うのは面倒に思う。
無闇に命を狩るのは好きじゃないし。

さて、どうしようか?
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