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赤子サバイバル
赤ん坊と死を運ぶ熊
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惰眠を貪りやっと目を覚ますも経過時間はわからない。
連れて来られた時は夕方くらいと思うが、森が暗すぎて昼夜の判断がしかねる。
小さな体はまたも空腹を訴える、仕方ないから再びサルナシを呼び寄せた。
「あひいあいはおいいあ」
(味に飽きないと良いな)
腹が満たさられ英気が戻り、惰眠を貪ったことで疲れも取れたので今度は眠気はこなかった。
先ほど集めた大木に風魔法を駆使して削る、ログハウス調にするつもりだ。だが、なかなかに骨が折れた。
風魔法で丸太を積み上げる度にフラフラになる、豊富に魔力はあっても体力が無さ過ぎた。
「ひーひー……あおはんうんあ」
言葉にならない愚痴を零し気が付けば汗で全身がグッショリだったし、下半身はお漏らしでビチャビチャだ。
く……これだから赤子は!
久しぶりに湧いた羞恥心と倦怠感でうんざりした。
これなら鳥だった頃の方が幸せだったぞ、親鳥は甲斐甲斐しく世話をしてくれたからな!
野生の動物のほうが愛情深いことがあると身に染みたよ。
水魔法と火魔法で微温湯を出して浴びた、なんて気持ちが良い!
森林の中で湯に浸かれたら最高だが今は湯船などないからな。俺はひたすら水球を作っては浴びて汚れを流すほかない。
それから襤褸切れを洗って枝に干した、布が有り得ないほど擦り切れてたので風魔法で乾燥したら破れそうだ。着替えがないので体には温かい空気を纏わせた。
作業は遅々として進まないが仕方ないさ。
***
三日ほどかけて不格好ながら小さな小屋が出来た、無いよりはマシだろう。
四方3mほどのものだが赤ん坊ひとりには十分といえる、毎回この身を護る結界は精神が削られるからな。
出来上がった瞬間に気が抜けたのか、俺は気絶するように小屋の中で寝てしまった。
再び目を覚ましたのは何日目だろうか、日数など不明だが魔物に襲われなかったのは幸運過ぎた。
それとも人里が近いところは現れないのかとも予想した。
何はともあれ、やはり小さな体は生きる糧を欲して煩い。
小屋の中で食い物を探索した、近くのサルナシは粗方食い尽くてしまったようだ。
やや遠いが赤いベリーを取ることにした、鬼コウゾの実だと思う。熟していれば甘いだろう。
小屋の小さな窓からそれが飛び込み目の前にやってきた、薄暗がりでもわかるほど赤い。
ここの生活に慣れてきたせいか微かな光があれば色がわかるようになった。
きっと今は昼なんだろう。
実には種が多すぎたので吸いついては吐きだした。
固形物を食べるには自分の身体はあまりに小さく脆い、早く成長したいものだ。
何世前かあやふやだが冒険者をして食べていた時期がある、野山を駆けて狩がしたいものだ。
肉は強い体を作るし、皮があれば服も作れる。
無駄な殺生はしないけどな。
栄養価のあるものが欲しいが森の中では限度がある、やはり乳が必要だ。
だが無いものはどうしようもないな。
鬼グルミか山栗を潰してナッツミルクで代用しようか?
早速と思い立って探索した、時期が悪いのかクルミが少量拾えただけだった。
ドングリ類はやはり秋にしか手に入らない。
殻が固いクルミが腐らず残っていただけ有難いことだろう。
先ほどと同じように窓から入ってきた実が数個ほど目の前に落ちた。
洗浄した後にどう潰そうか思案していた、その時だ。
小屋の近くに異変があった、緩めに張っていた結界に何者かが触れたようだ。
幼い体に緊張が走り、漏らしそうになったが耐える。
小窓のほうへなんとか這いずり風魔法で己を浮上させた、恐る恐る外を覗うと真っ黒な巨体が小屋の正面に立っていた。
3mを超えるモルテベアがこちらへ威嚇していた、死を運ぶ熊という魔物だ。
とても気が荒く、出会った相手に情け容赦ない殺意を向ける性質を持っている。
彼らは巨体だが木の実類しか食べない、そうか彼のナワバリから胡桃を拝借して刺激しちゃったようだ。
「あうい!」
(まずい)
熊は自分のものにとても執着する、胡桃を返すしかない。だけど相手は魔物だそれで許すわけがないな。
この赤子状態で応戦できるか不安だが生きるための試練ならば果敢に挑むほかはない。
もし死んだら俺を捨てた親たちを怨もう。
熊とて自身が生き残るために戦いにきただけに過ぎないからな。
相手がこんな矮小だとは思ってないだろうけど。
法螺貝のような咆哮をあげた魔物は小屋の入口へ目掛けて黒く大きい爪を叩きつけてきた。
咄嗟に結界を張ったがズンッと重い音が腹に響く、防御していなければ小屋など全壊してただろう。
せっかく造った家だが耐久性が悪すぎてガッカリした。
再びヴォォオオという咆哮が轟いた。
胡桃を返しても同じ結果ならば抗ってやろう、俺は小窓からヤツに向けて電魔法で応えることにした。
”ランストアノ”と念じた、小さな手先から魔力が飛び出す。反動で体が後ろに転げた、地味に痛い。
脳天目掛けて中程度の雷槍を落としてやった、図体がデカい相手でもダメージは大きいだろう。
地を伝って小屋がビリビリと揺れたが堪えた、熊には効果はあったろうか?
そろりと様子を見たが熊はそのまま仁王立ちしていた、一発では仕留められなかっただろうか。
再び来るだろう攻撃に備えて結界に精神を集中させた。
だが、待てど暮せど熊からリアクションがこない。
「おういうおお?」
膠着状態が数分経過したがやはり反応なし。
俺は浮遊したまま木戸を開けてみた、正面にはやはり二足立ちした大熊が存在する。
しかし、ヤツの目は色を失い黒い洞になっていた、熊はとうにこと切れていた。
脳天を突いた雷魔法は熊を仕留めていたようだ。
「おいあえう、えああえっと!」
(とりあえず毛皮ゲット!)
連れて来られた時は夕方くらいと思うが、森が暗すぎて昼夜の判断がしかねる。
小さな体はまたも空腹を訴える、仕方ないから再びサルナシを呼び寄せた。
「あひいあいはおいいあ」
(味に飽きないと良いな)
腹が満たさられ英気が戻り、惰眠を貪ったことで疲れも取れたので今度は眠気はこなかった。
先ほど集めた大木に風魔法を駆使して削る、ログハウス調にするつもりだ。だが、なかなかに骨が折れた。
風魔法で丸太を積み上げる度にフラフラになる、豊富に魔力はあっても体力が無さ過ぎた。
「ひーひー……あおはんうんあ」
言葉にならない愚痴を零し気が付けば汗で全身がグッショリだったし、下半身はお漏らしでビチャビチャだ。
く……これだから赤子は!
久しぶりに湧いた羞恥心と倦怠感でうんざりした。
これなら鳥だった頃の方が幸せだったぞ、親鳥は甲斐甲斐しく世話をしてくれたからな!
野生の動物のほうが愛情深いことがあると身に染みたよ。
水魔法と火魔法で微温湯を出して浴びた、なんて気持ちが良い!
森林の中で湯に浸かれたら最高だが今は湯船などないからな。俺はひたすら水球を作っては浴びて汚れを流すほかない。
それから襤褸切れを洗って枝に干した、布が有り得ないほど擦り切れてたので風魔法で乾燥したら破れそうだ。着替えがないので体には温かい空気を纏わせた。
作業は遅々として進まないが仕方ないさ。
***
三日ほどかけて不格好ながら小さな小屋が出来た、無いよりはマシだろう。
四方3mほどのものだが赤ん坊ひとりには十分といえる、毎回この身を護る結界は精神が削られるからな。
出来上がった瞬間に気が抜けたのか、俺は気絶するように小屋の中で寝てしまった。
再び目を覚ましたのは何日目だろうか、日数など不明だが魔物に襲われなかったのは幸運過ぎた。
それとも人里が近いところは現れないのかとも予想した。
何はともあれ、やはり小さな体は生きる糧を欲して煩い。
小屋の中で食い物を探索した、近くのサルナシは粗方食い尽くてしまったようだ。
やや遠いが赤いベリーを取ることにした、鬼コウゾの実だと思う。熟していれば甘いだろう。
小屋の小さな窓からそれが飛び込み目の前にやってきた、薄暗がりでもわかるほど赤い。
ここの生活に慣れてきたせいか微かな光があれば色がわかるようになった。
きっと今は昼なんだろう。
実には種が多すぎたので吸いついては吐きだした。
固形物を食べるには自分の身体はあまりに小さく脆い、早く成長したいものだ。
何世前かあやふやだが冒険者をして食べていた時期がある、野山を駆けて狩がしたいものだ。
肉は強い体を作るし、皮があれば服も作れる。
無駄な殺生はしないけどな。
栄養価のあるものが欲しいが森の中では限度がある、やはり乳が必要だ。
だが無いものはどうしようもないな。
鬼グルミか山栗を潰してナッツミルクで代用しようか?
早速と思い立って探索した、時期が悪いのかクルミが少量拾えただけだった。
ドングリ類はやはり秋にしか手に入らない。
殻が固いクルミが腐らず残っていただけ有難いことだろう。
先ほどと同じように窓から入ってきた実が数個ほど目の前に落ちた。
洗浄した後にどう潰そうか思案していた、その時だ。
小屋の近くに異変があった、緩めに張っていた結界に何者かが触れたようだ。
幼い体に緊張が走り、漏らしそうになったが耐える。
小窓のほうへなんとか這いずり風魔法で己を浮上させた、恐る恐る外を覗うと真っ黒な巨体が小屋の正面に立っていた。
3mを超えるモルテベアがこちらへ威嚇していた、死を運ぶ熊という魔物だ。
とても気が荒く、出会った相手に情け容赦ない殺意を向ける性質を持っている。
彼らは巨体だが木の実類しか食べない、そうか彼のナワバリから胡桃を拝借して刺激しちゃったようだ。
「あうい!」
(まずい)
熊は自分のものにとても執着する、胡桃を返すしかない。だけど相手は魔物だそれで許すわけがないな。
この赤子状態で応戦できるか不安だが生きるための試練ならば果敢に挑むほかはない。
もし死んだら俺を捨てた親たちを怨もう。
熊とて自身が生き残るために戦いにきただけに過ぎないからな。
相手がこんな矮小だとは思ってないだろうけど。
法螺貝のような咆哮をあげた魔物は小屋の入口へ目掛けて黒く大きい爪を叩きつけてきた。
咄嗟に結界を張ったがズンッと重い音が腹に響く、防御していなければ小屋など全壊してただろう。
せっかく造った家だが耐久性が悪すぎてガッカリした。
再びヴォォオオという咆哮が轟いた。
胡桃を返しても同じ結果ならば抗ってやろう、俺は小窓からヤツに向けて電魔法で応えることにした。
”ランストアノ”と念じた、小さな手先から魔力が飛び出す。反動で体が後ろに転げた、地味に痛い。
脳天目掛けて中程度の雷槍を落としてやった、図体がデカい相手でもダメージは大きいだろう。
地を伝って小屋がビリビリと揺れたが堪えた、熊には効果はあったろうか?
そろりと様子を見たが熊はそのまま仁王立ちしていた、一発では仕留められなかっただろうか。
再び来るだろう攻撃に備えて結界に精神を集中させた。
だが、待てど暮せど熊からリアクションがこない。
「おういうおお?」
膠着状態が数分経過したがやはり反応なし。
俺は浮遊したまま木戸を開けてみた、正面にはやはり二足立ちした大熊が存在する。
しかし、ヤツの目は色を失い黒い洞になっていた、熊はとうにこと切れていた。
脳天を突いた雷魔法は熊を仕留めていたようだ。
「おいあえう、えああえっと!」
(とりあえず毛皮ゲット!)
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