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後日談
ちょっと待って
しおりを挟むあれよあれよと婚約が纏まってしまったクリスティナとアルフォイである。臣籍降下して彼女は公爵夫人となるのだ。
「いがみ合っていたはずの相手なのにどうして?」
一番に頭を過ったのはそれだった、彼女は『ひぃぃいいい』と悲鳴を上げたのだがどうやらそれが返事として取られた。
クリスティナとてそれを勘違いから「初恋」などと言ったものだが、腑に落ちない。
「私の初恋はなんだったのかな……」
まだまだ学生気分が抜けない彼女は「ほう」と溜息を吐く、いくら考えても答えは導かれそうもない。
「互いに研鑽し合う相手と結ばれるのだから素晴らしいことだと思うよ」
そう言ったのはカミラ・テレジオ伯爵令嬢だ、彼女はいつも純粋で真っ直ぐな人だ。いまは卒業に向けて髪を長くするため伸びはじめた髪を持て余している。
「そうかなぁ、カミラはどうなの?そのお相手はいるの?」
「私は辺境伯の所に嫁入りが決まっているよ、騎士の資格を取ったらそのまま婚姻する」
「へえ、凄いのね!」
「はは、顔も知らない相手だけどね」
それを聞いた彼女は信じられないと椅子から立ち上がる。カフェでのことだったので悪目立ちが過ぎた。ざわざわと何事だろうと生徒達の目を集める。
「顔を知らないってそれは本当なの!?えええ!」クリスティナはやや抑えた声で言う。
「まぁ、そう剥きにならなくとも、釣書きが届いたから父上が決めてしまったのさ。顔を知らないのは自分のせいさ。私は姿絵を敢えて見ない事にしたんだ」
「不安ではないの?」クリスティナは自分のことのように心配顔だ。
「いいや、ちっとも。むしろどんな奴が楽しみだよ」
ニィと笑って見せた彼女はとても大人に見えた。
***
「やあ、カミラ。試合以来だね!」
「ああ、アボットか久しぶりじゃないか」
ガシッと男同士のように手を取り合う彼女らはなんとも清々しい。
「髪を伸ばしたんだね。卒業パーティの為かい?」
「まぁ、そんな所さ。それと婚姻のためかな、短髪の花嫁とはいかないから」
卒業と同時に結婚が決まっている彼女はあっさりと言う、それが済めばばっさりと切るのだ言った。カミラらしいとアボットは笑った。
「どうだろう、久しぶりに手合わせ願えないかな?」
「おお、良いぞ!近頃はなまってしまって」
ふたりは放課後に早速と闘技場のほうへ向かうと刃を潰した剣を取る。身が引き締まる思いだとカミラは思った。
「勝敗はどうする?」
「いいや、そういうのはナシで、ただのぶつけ合いが良い」
「了解」
ガシャンという剣同士のぶつかり合いが始まった。
どちらともなく打ち合いが始まって、互いに牽制し合う。カミラが踏み込めばそれを往なすようにアボットは剣を流す。
「ふん、相変わらず討ちにくいなぁ。手ごたえがない」
「まぁね、真正面から受けたら俺は力で負けちゃうからな」
戦い方を知っている彼は微笑む、少々癪に障ったカミラはまたも正面から切り込んだ。だが、やはり往なされてしまう。
十数分打ち込めばだいぶ息が荒くなった。
たかが数分とはいえ鉄剣を振り合うのだ、当然と言えるだろう。
「はぁはぁ……この間より強くなったね」
「ふぅふぅ、それほどでも婚約者殿」
「え?」
カミラは剣をザクリと地に落として瞠目した、アボット・ブルセンは仮の名で本当はアーノルド・ブルウェントという。
「なんと、キミが辺境伯の子息だったのか!これは面白い」
新しい玩具を見つけたように彼女の顔が輝いた。
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