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後日談
初恋1
しおりを挟む「お母様、私どうしたら……胸がドキドキして切ないのです」
「は?」
突然、娘が訳の分からないことを言いだして困惑するアリーチャである。なにか変なものを食べたのかと失礼なことを思った。
「ドキドキするんですぅ……はぁ」
「え、ああそう。主治医に見て貰いなさい」
最悪なことを想定して母はそう言ったのだ、万が一にも大病を患っていたらことだ。だが、娘はそういう事ではないと怒った。
「お母様!私は真剣なのです!これは恋!恋の予感です!」
「ああ、そう濃いね」
「違います!」
そして、母アリーチャははっきりと言った。「それは盛大な勘違いだ」と。
「んもう!お母様ったら!乙女の悩みをなんだと思ってて?」
サロンに一人入ったクリスティナはバリボリとクッキーの山を噛み砕く。そして豪快に茶を飲み干しゲップをした。
「はしたないです、王女様」
「わかってる~バリボリ」
侍女の苦言を右から左に受け流してクッキーを貪り食うのだ。
「ああもう!むしゃくしゃするわ!きっとこれが恋なのよ!」
「はぁ……」
明かに違うだろうと侍女は思いつつ茶を注ぐ、それをフーフーと冷ましクリスティナは飲むのだ。
***
「なにをそんなに苛立っていらっしゃるの?」
「ああ、聞いてよハンナ!」
学園の食堂でデザートの苺ケーキを食べていたクリスティナはダン!とテーブルを叩く。その様を見ていたハンナ・バレステ侯爵令嬢は目を瞬かせる。
「おかわりしよう!次はチーズケーキが良いわ、それからプリンも食べなくちゃ!」
「あらまぁ、ふふっ良くお食べになるわねぇ」
母がちっともわかってくれないのだと訴えてモリモリとケーキを貪り食う。それを「うんうん」と親身に聞いてくれるハンナは天使のようだ。
「わかるわぁ、大事なことだもの。私の母も恋など邪魔だと言うのよ」
「そうでしょー?まったくねぇ、プリンの苺のトッピングあげる!」
「あらまぁ」
「なんていうか切ないのよ!顔を見ただけで苦しくなって……」
「うんうん、わかるわぁ」
「それでいてこうなんていうの、お腹の中が熱くなって」
「そうよねぇ」
「ぶっとばしたくなるの!」
「はい?」
”ぶっとばしたい”などと物騒な事を言う王女に、尋常ではないものを感じ取るハンナは「それって恋かしら?」と疑問を呈した。
「そうよ!恋なのよ!」
「ええ~……絶対違うわ。まぁ落ち着いてくださいな」
よくよく聞けば最近なにかと張り合ってくる男子生徒のアルフォイ・ロッシーニ公爵令息のことらしい。確かに彼はツンと取り澄まし鼻持ちならない人物だ。
「ぎぃ~~~思い出しても腹の立つ!ムカムカする!」
「……絶対恋じゃないわ、確信」
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