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後日談

決闘

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披露宴の途中でもある為、バカな親子は一旦幽閉となった。
その後、なにも無かったかのように振る舞って会場に戻ったアリーチャは気丈だったと言える。


「だいじょうぶかいチャチャ、あんな事があったが」
「ふふ、平気よ」
彼女は何でもないというように朝食を食べていた、さすがに初夜という気分ではなかったがそれはそれだ。一方、お預けを食らった形になったクリストフは悄気ていた。

「それもこれもあの親子のせいだ!」
ブツブツと文句を垂れる彼にアリーチャは『きっと同じ気持ちなのね』と少々斜め上を行く感想を持った。夫と妻の事情は違うようだ。
「クリス、私は大丈夫よ、あんな小娘に後れを取ることはないわ!」
「うん?そ、そうなんだ」
頼もしいと思う反面『ボクの初夜が』とメソメソしている。

もしゃもしゃとベーコンを飲み込み、明日に迫る決闘について「やるわよ!」と意気込みは十分だ。

その頃、幽閉先にいる愚かな親子は「この居室は仮の住まいできっと側室に召し抱えられる準備なのだ」ととんでもない勘違いをしていた。どこまで御花畑なのか「うふふぅ」と笑っていた。
「やったなエイダ!これでお前も側室だ!」
「そうよねぇそうなのだわぁ、そこの貴女紅茶のおかわりを」
メイドは呆れながらも安い茶葉で紅茶をたてる、味の違いなどわからないのか「さすが王宮のお茶」と褒めている。



そうしてやってきた決闘の日、やる気に満ちたアリーチャは騎士服に着替えており「シュシュ」とレイピアを往なしていた。血気盛んとはこのことなのだろう、誰にも彼女を止められない。
「チャチャ、頑張って!ボクはいつでも君の味方さ!」
「うふ、ありがとうクリス」

王宮の中庭に設置された決闘場には王族が勢ぞろいしていた、中でもアズナブール王は決闘と聞いてワクワクしていた。
「どちらが勝つだろうね?」
「まぁ、陛下ったら王子妃アリーチャが負ける訳がないでしょう?」
「がっはっは!それもそうか!」

大袈裟な会場を前にして一人怯えるのはエイダ・ポリネール男爵令嬢だ。訳も分からず騎士服を着せられて「え?え?」とやっていた。
「では僭越ですが総大将の私が立ち合います、よろしいか!」
「ええ、もちろんよ」
「え?ええ?」

「始め!」
大将が手を上げるとアリーチャが「やぁ!」と早速先手を取った、エイダは「きゃあ」と言って辛うじて逃げきった。だが、逃げた先にはすでにレイピアの切っ先が待ち構えていた。
「ぎゃああ!痛い!痛いわぁ!」
脇を掠めたレイピアが血を撒き散らした。
「当たり前です、何を言っているの?これは命を懸けた決闘ですのよ」
「え?そ、そんなバカな!こんなの聞いてない!」

「あら、間延びした喋り方はやめましたのね。でもその方がいいわ」
「なによ!貴女なんて!」
ようやく腹を決めたのかエイダは応戦してきた、それでも剣技はメチャクチャで見られたものではない。女性用に改良しているとはいえ、やはり重く限界は早くやってきた。

「たぁ!やぁ!」
「ひーひー!止めて!お願いよ!」
「何を甘い事を言っているのよ、剣を構えなさい!」
「いやぁ!いやよー!」
アリーチャが剣技を仕掛ける度に血飛沫が上がった、エイダはなんとか攻撃をかわそうとするのだが一向に上手くいかない。

やがてボロボロになったエイダはグリップを辛うじて持っているだけだった。戦意喪失という体である。顔には無数の傷が出来て哀れだ。
「はぁはぁ……悔しい……悔しいわ」
「終わりですわ、ポリネール嬢、最後に言い残すことは?」
「ひ……貴女なんか妃殿下に……相応しくない、女の子は可愛く…」
そこで会話は途切れた、アリーチャの剣が彼女の首に深々と刺さっていたからだ。

「あら、ごめんなさい。途中だったのね」
彼女が刺さったそれを引き抜くと飛沫が飛び散った、それはとても鮮烈であり目を引いた。彼女は坐ったままこと切れていた。

「とても美しいわ」
恍惚とした表情で血を浴びる彼女は少し恐ろしいと誰もが思う。
その後、打ち首を言い渡されたポリネール男爵は娘の後を追う形になった。


「見事だったよチャチャ、とても素晴らしかった」
「ありがとう、でも人を殺めるのはこれっきりにしたいものだわ」

情熱的な接吻を交わすふたりは漸く本当の夫婦になれた気がした。


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