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しおりを挟む最後の最後で取り返しのつかない事をやらかした令息に向かってその言葉を吐いた。
「どうしようもないわね、貴方……アメルデ子爵令息」
「え?」
「宜しいわ、捏造だろうが証拠とやらを見せていただこうかしら?」
威厳たっぷりでそう言った侯爵令嬢アリ―チャ・スカリオーネの目に迷いは無かった。それに引き換え威嚇された側のウーゴは「あぅあぅ」と海獣のような声をあげて委縮してしまった。これが貴族間にある位の違いなのだ。
「どうなさったの?見せて下さいな」
ずいっと目の前にきたアリーチャは堂々たる態度で挑む、逆に追い詰められたウーゴは一気に青褪めて尻込みをしてしまう。
「あ、あの証拠というのは間違いで」
「間違いですって?それはどういう事かしら」
「ああ、違う!違うんです!御免んなさい御免なさい!」
取り乱したウーゴは跪いて「違う違う」とやっていた、しかしそれを受け入れるヴァンナではなかった。なんとかして彼を叱咤して引き裂いた教科書を出さねばならない。彼女も必死なのだ、教科書を抱きしめて蹲る彼をドヤして無理矢理に証拠を取り戻した。
「ああ!なんてことを!」
「いーから、貴方は黙ってて頂戴!話が進まないわ」
ウーゴの嘆きを余所にヴァンナはズタボロの教科書を掲げて宣う。「もう駄目だ」と彼は叫んだ。
「私は動かぬ証拠としてまずはこの教科書を提示しますわ!」
「それが何か?」
動揺もせずに微笑むアリーチャに対して敵愾心を剥き出しにする彼女は「これを見なさい!」と大きな声で叫ぶ。
黄ばんだ手紙の紋章だった、それが証拠だと謂わんばかりに鬼の首を取ったように勝ち誇る笑い声をあげた。
だがしかし、アリーチャは微笑んだままそこにいた、まるで話にならないというように。
焦ったヴァンナは「これが証拠だと言っているでしょう」となおも叫ぶ。
「ええ、ですからそれが何だと言うの?」
「な、なによ!開き直るつもりなのね!これはね貴女の家の紋章なのよ!揺るぎ難い証拠でしょうが!」
するとアリーチャはパシリと扇を閉めて「やらかしたわね」と言った。
「何を余裕こいているのよ、これは貴女が私の教科書を破いたという証なのよ!陰湿だわ、性根が卑しいわ!この人でなし!」
「あらまぁ、ずいぶんな事をいって下さるのね」
それでも余裕な感じを崩さない彼女を見て、ヴァンナは狼狽した。何かが可笑しい、異様なまでの落ち着きぶりに彼女の中で警鐘が鳴りだした。
だが、もう遅い。
「貴女が持ち出した紋章ですけど、それは大分古い代物ですわ。よくご覧になって古すぎて黄ばんでますでしょう?しかもそれは改定された以前のもの、今は使われていないのですわ。ここまで言えばわかるでしょう、ねえアメルデ子爵令息?」
「ひぃ!ごめんさい!」
蹲って怯えているウーゴは「御免なさい、許して」と泣き喚いている。何もかも知られていると手の平で踊らされていると気づいたのだ。
「その切れ端の原本がここにありますわ、ドニ、持ってきて」
「はい、ここに」
子爵家から拝借してきた古い手紙をひけらかす、ドニは証拠品である切れ端をヴァンナから奪い取り合致させた。その証拠品は子爵家が同意したものと認めたようなものだ。
「ああ、もう駄目だ……我が子爵家は」
「なによ、なんなのよ!古い手紙の切れ端だからなんだと言うの!?」
未だに状況が把握できていないヴァンナはひとりで喚いていた、テリウスはずっと静観している。その様子を見たヴァンナはどうして彼は静かに見守っているのかと今更に気が付いた。
「て、テリー?貴方どうしてそんなに冷静でいるの?私たちの証拠を否定されたのよ!」
「ああ、そうだね」
テリウスは平静さを保ったまま中央に歩いて来た。そして、記録魔道具を持ち出して再生ボタンを押したのだ。
『なんだって?もう一度いい給え』
『我が家と取引している侯爵家の手紙を捏造に使いました。どうです?気に入りましたか?』
『ああ、そういう事か。良く分かったよアメルデくん』
ウーゴは得意顔で「ふんす」と鼻息が荒い様子までも写っていた、ここにきて全て把握されていたのだと漸く気が付いたヴァンナは愕然としていた。
「い、いつから、いつから私を騙していたの?ねぇいつからよ!テリーィィィ!テリウスゥゥ!」
無駄にしてしまった染みの付いたドレスを引き裂き彼女は慟哭した。
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