本編完結 堂々と浮気していますが、大丈夫ですか?

音爽(ネソウ)

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「ご覧になって皆さま!彼女の悪行の一つです、私は怖くて仕方なかったのだわ……」
ヴァンナはそう言ってとある写真を出して来た、ご丁寧にも大きく拡大したものだ。それはあの噴水前でのことだとわかる、連写でもしたのか5枚も揃えている、アリーチャは「ああ」とため息を吐く。

それはテリウスが女装してヴァンナを突き落としている場面だ、よく見ればわかりそうなものだがゴツゴツとした男の背中に足は大股開きで写っている。それをアリーチャであると主張したいのだ。
「おわかりになりまして皆様、このように私は噴水の落とされたのです……とても寒かった」
唇を噛みしめて視線を横にしているヴァンナはポタポタと涙を垂れ流しにしていた。

ところが当のアリーチャは「捏造ご苦労様」と言って扇をパサリと閉じた、そしてドニを呼び記録魔道具を展開させた。そこにはガニマタでノシノシと歩いているテリウスが金髪のウイッグを被り『こんなもので周囲を謀れるものなのか?』と言っているのが写しだされた。

『ばっちりよテリー!上背があるあの女そのものに見えなくもないわ』
『……見えなくもないって不安しかないぞ』

『あ~れ~おやめになって』
『恨まないでくれよ、ヴァナ……ええい!』
『キャアアアアッ』

『酷いですわアリーチャ様』
そして、呆気に取られる衆人たちがバラバラとそこから離れていくのが見て取れたではないか。どうみても捏造している場面である、アリーチャはちらりとヴァンナの方を見やる。そこには明らかに動揺している彼女の姿があった。
どう繕って良いのかわからなくてパニックを起こしていた。

「嘘……こんなの嘘よぉ!はっ!そうだわこれは真実ではないのです!」
「嘘ですって?こんなにばっちりと貴女の所業が映っていますわよ」
「そ、それは……」
ガタガタと震える彼女はテリウスの方を見た、だが彼は明後日の方向を向いていて「今日は天気が良いな」と豪雨の天気を褒めていた。

止む無くアリーチャの方を見たヴァンナはキッと睨みつけてこう宣う。
「これは再現したのよ、貴女に噴水に落とされた時のことをね!ええ、そうですわ!」
すると正気を失っていたウーゴが「はっ」として動いた。

「そ、その通りです、再現するためにあのようなことをしたのです!ボクは写真を撮ったのだからね」
ここに来て再現したものだと言い始めた彼らに彼女は「ふむ」と言って歩き出す。
「では皆様の中に目撃者はおりますか?再現していた現場をね」
「な、ちょっと勝手なことを言わないで!」
焦りだすヴァンナは目撃者は確かにいたが、いまは拙いと思った。

「はい、私は見ていました。ザネッティ男爵令嬢がこそこそとやっているのを」
当時、一年生だった女生徒が名乗りを上げてくれた。アリーチャは鷹揚に頷いて証言を促す。
「その時、彼女はなんて話してました?」
「ええと、”上手くいった、アリーチャの腹黒さを見せつけてあげた”と誇らしげにしてました。他の方もいましたが巻き添えは御免だと逃げていきました」
「なるほど、ありがとう」

証拠に証人までも揃えたところでアリーチャは私からは以上ですとお辞儀をした。王は「よくわかった」と頷く。
だが、諦めの悪いヴァンナはなおも叫ぶ。
「だから再現したのだといったのだわ!どうしてわからないの!」
キィーキィー声で地団駄を踏みしめる姿は猿山の猿の如しだ、すかさずそれをアリーチャは指摘する。
「あらあら、儚げ美少女の仮面が崩れてますよ?」

「ぐ、ぬぬ……ごほん、では次は私が転ばされた時のお話をいたしますわ」
あくまで儚げなイメージでもって話をもっていくようだ、呆れたのはアリーチャだけではなかったはずだ。

「んん!では証人をここに……カロル・キンブリー伯爵令嬢お願いいたしますわ!」
疑心暗鬼に陥っているところに再びざわつき始めた会場である、証人がいるなどと言われたものだから仕方がない。今のところ、どっちつかずと言った感じだ。

名を呼ばれたカロル・キンブリーは厳しい目をしてそこに立っていた。
期待に満ちたヴァンナの顔をちらりと見て肩を竦める、彼女はあくまで真っ直ぐな人である。見たまま聞いたままを証言すると言った。
「私が知っているのは状況証拠だけです、あらかじめそう言わせていただきます」
「うむ、良かろう」
王は真面目そうな生徒を見て頷いた、頑固そうなその顔を悪くはないと印象づける。

ことのあらましはヴァンナがアリーチャに乱暴されたという事の証言だ。話しかけたら一方的に叩かれたというのだ。

「私が見たのは彼女、ヴァンナ・ザネッティがスカートを汚していた場面に出くわしました。たしか右半分が薄汚れていたと思います。私は彼女に手巾を手渡し拭うようにいいました」
そこまで言うとヴァンナがウルウルと瞳を潤していた、両の手を前に組み「ああ、ありがとう」と言っている。

「お待ちください、その件に関して私から意見がございます」
「な!?」
そこには平民の女生徒が青い顔で佇んでいた。


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