33 / 62
31
しおりを挟む
「ご覧になって皆さま!彼女の悪行の一つです、私は怖くて仕方なかったのだわ……」
ヴァンナはそう言ってとある写真を出して来た、ご丁寧にも大きく拡大したものだ。それはあの噴水前でのことだとわかる、連写でもしたのか5枚も揃えている、アリーチャは「ああ」とため息を吐く。
それはテリウスが女装してヴァンナを突き落としている場面だ、よく見ればわかりそうなものだがゴツゴツとした男の背中に足は大股開きで写っている。それをアリーチャであると主張したいのだ。
「おわかりになりまして皆様、このように私は噴水の落とされたのです……とても寒かった」
唇を噛みしめて視線を横にしているヴァンナはポタポタと涙を垂れ流しにしていた。
ところが当のアリーチャは「捏造ご苦労様」と言って扇をパサリと閉じた、そしてドニを呼び記録魔道具を展開させた。そこにはガニマタでノシノシと歩いているテリウスが金髪のウイッグを被り『こんなもので周囲を謀れるものなのか?』と言っているのが写しだされた。
『ばっちりよテリー!上背があるあの女そのものに見えなくもないわ』
『……見えなくもないって不安しかないぞ』
『あ~れ~おやめになって』
『恨まないでくれよ、ヴァナ……ええい!』
『キャアアアアッ』
『酷いですわアリーチャ様』
そして、呆気に取られる衆人たちがバラバラとそこから離れていくのが見て取れたではないか。どうみても捏造している場面である、アリーチャはちらりとヴァンナの方を見やる。そこには明らかに動揺している彼女の姿があった。
どう繕って良いのかわからなくてパニックを起こしていた。
「嘘……こんなの嘘よぉ!はっ!そうだわこれは真実ではないのです!」
「嘘ですって?こんなにばっちりと貴女の所業が映っていますわよ」
「そ、それは……」
ガタガタと震える彼女はテリウスの方を見た、だが彼は明後日の方向を向いていて「今日は天気が良いな」と豪雨の天気を褒めていた。
止む無くアリーチャの方を見たヴァンナはキッと睨みつけてこう宣う。
「これは再現したのよ、貴女に噴水に落とされた時のことをね!ええ、そうですわ!」
すると正気を失っていたウーゴが「はっ」として動いた。
「そ、その通りです、再現するためにあのようなことをしたのです!ボクは写真を撮ったのだからね」
ここに来て再現したものだと言い始めた彼らに彼女は「ふむ」と言って歩き出す。
「では皆様の中に目撃者はおりますか?再現していた現場をね」
「な、ちょっと勝手なことを言わないで!」
焦りだすヴァンナは目撃者は確かにいたが、いまは拙いと思った。
「はい、私は見ていました。ザネッティ男爵令嬢がこそこそとやっているのを」
当時、一年生だった女生徒が名乗りを上げてくれた。アリーチャは鷹揚に頷いて証言を促す。
「その時、彼女はなんて話してました?」
「ええと、”上手くいった、アリーチャの腹黒さを見せつけてあげた”と誇らしげにしてました。他の方もいましたが巻き添えは御免だと逃げていきました」
「なるほど、ありがとう」
証拠に証人までも揃えたところでアリーチャは私からは以上ですとお辞儀をした。王は「よくわかった」と頷く。
だが、諦めの悪いヴァンナはなおも叫ぶ。
「だから再現したのだといったのだわ!どうしてわからないの!」
キィーキィー声で地団駄を踏みしめる姿は猿山の猿の如しだ、すかさずそれをアリーチャは指摘する。
「あらあら、儚げ美少女の仮面が崩れてますよ?」
「ぐ、ぬぬ……ごほん、では次は私が転ばされた時のお話をいたしますわ」
あくまで儚げなイメージでもって話をもっていくようだ、呆れたのはアリーチャだけではなかったはずだ。
「んん!では証人をここに……カロル・キンブリー伯爵令嬢お願いいたしますわ!」
疑心暗鬼に陥っているところに再びざわつき始めた会場である、証人がいるなどと言われたものだから仕方がない。今のところ、どっちつかずと言った感じだ。
名を呼ばれたカロル・キンブリーは厳しい目をしてそこに立っていた。
期待に満ちたヴァンナの顔をちらりと見て肩を竦める、彼女はあくまで真っ直ぐな人である。見たまま聞いたままを証言すると言った。
「私が知っているのは状況証拠だけです、あらかじめそう言わせていただきます」
「うむ、良かろう」
王は真面目そうな生徒を見て頷いた、頑固そうなその顔を悪くはないと印象づける。
ことのあらましはヴァンナがアリーチャに乱暴されたという事の証言だ。話しかけたら一方的に叩かれたというのだ。
「私が見たのは彼女、ヴァンナ・ザネッティがスカートを汚していた場面に出くわしました。たしか右半分が薄汚れていたと思います。私は彼女に手巾を手渡し拭うようにいいました」
そこまで言うとヴァンナがウルウルと瞳を潤していた、両の手を前に組み「ああ、ありがとう」と言っている。
「お待ちください、その件に関して私から意見がございます」
「な!?」
そこには平民の女生徒が青い顔で佇んでいた。
ヴァンナはそう言ってとある写真を出して来た、ご丁寧にも大きく拡大したものだ。それはあの噴水前でのことだとわかる、連写でもしたのか5枚も揃えている、アリーチャは「ああ」とため息を吐く。
それはテリウスが女装してヴァンナを突き落としている場面だ、よく見ればわかりそうなものだがゴツゴツとした男の背中に足は大股開きで写っている。それをアリーチャであると主張したいのだ。
「おわかりになりまして皆様、このように私は噴水の落とされたのです……とても寒かった」
唇を噛みしめて視線を横にしているヴァンナはポタポタと涙を垂れ流しにしていた。
ところが当のアリーチャは「捏造ご苦労様」と言って扇をパサリと閉じた、そしてドニを呼び記録魔道具を展開させた。そこにはガニマタでノシノシと歩いているテリウスが金髪のウイッグを被り『こんなもので周囲を謀れるものなのか?』と言っているのが写しだされた。
『ばっちりよテリー!上背があるあの女そのものに見えなくもないわ』
『……見えなくもないって不安しかないぞ』
『あ~れ~おやめになって』
『恨まないでくれよ、ヴァナ……ええい!』
『キャアアアアッ』
『酷いですわアリーチャ様』
そして、呆気に取られる衆人たちがバラバラとそこから離れていくのが見て取れたではないか。どうみても捏造している場面である、アリーチャはちらりとヴァンナの方を見やる。そこには明らかに動揺している彼女の姿があった。
どう繕って良いのかわからなくてパニックを起こしていた。
「嘘……こんなの嘘よぉ!はっ!そうだわこれは真実ではないのです!」
「嘘ですって?こんなにばっちりと貴女の所業が映っていますわよ」
「そ、それは……」
ガタガタと震える彼女はテリウスの方を見た、だが彼は明後日の方向を向いていて「今日は天気が良いな」と豪雨の天気を褒めていた。
止む無くアリーチャの方を見たヴァンナはキッと睨みつけてこう宣う。
「これは再現したのよ、貴女に噴水に落とされた時のことをね!ええ、そうですわ!」
すると正気を失っていたウーゴが「はっ」として動いた。
「そ、その通りです、再現するためにあのようなことをしたのです!ボクは写真を撮ったのだからね」
ここに来て再現したものだと言い始めた彼らに彼女は「ふむ」と言って歩き出す。
「では皆様の中に目撃者はおりますか?再現していた現場をね」
「な、ちょっと勝手なことを言わないで!」
焦りだすヴァンナは目撃者は確かにいたが、いまは拙いと思った。
「はい、私は見ていました。ザネッティ男爵令嬢がこそこそとやっているのを」
当時、一年生だった女生徒が名乗りを上げてくれた。アリーチャは鷹揚に頷いて証言を促す。
「その時、彼女はなんて話してました?」
「ええと、”上手くいった、アリーチャの腹黒さを見せつけてあげた”と誇らしげにしてました。他の方もいましたが巻き添えは御免だと逃げていきました」
「なるほど、ありがとう」
証拠に証人までも揃えたところでアリーチャは私からは以上ですとお辞儀をした。王は「よくわかった」と頷く。
だが、諦めの悪いヴァンナはなおも叫ぶ。
「だから再現したのだといったのだわ!どうしてわからないの!」
キィーキィー声で地団駄を踏みしめる姿は猿山の猿の如しだ、すかさずそれをアリーチャは指摘する。
「あらあら、儚げ美少女の仮面が崩れてますよ?」
「ぐ、ぬぬ……ごほん、では次は私が転ばされた時のお話をいたしますわ」
あくまで儚げなイメージでもって話をもっていくようだ、呆れたのはアリーチャだけではなかったはずだ。
「んん!では証人をここに……カロル・キンブリー伯爵令嬢お願いいたしますわ!」
疑心暗鬼に陥っているところに再びざわつき始めた会場である、証人がいるなどと言われたものだから仕方がない。今のところ、どっちつかずと言った感じだ。
名を呼ばれたカロル・キンブリーは厳しい目をしてそこに立っていた。
期待に満ちたヴァンナの顔をちらりと見て肩を竦める、彼女はあくまで真っ直ぐな人である。見たまま聞いたままを証言すると言った。
「私が知っているのは状況証拠だけです、あらかじめそう言わせていただきます」
「うむ、良かろう」
王は真面目そうな生徒を見て頷いた、頑固そうなその顔を悪くはないと印象づける。
ことのあらましはヴァンナがアリーチャに乱暴されたという事の証言だ。話しかけたら一方的に叩かれたというのだ。
「私が見たのは彼女、ヴァンナ・ザネッティがスカートを汚していた場面に出くわしました。たしか右半分が薄汚れていたと思います。私は彼女に手巾を手渡し拭うようにいいました」
そこまで言うとヴァンナがウルウルと瞳を潤していた、両の手を前に組み「ああ、ありがとう」と言っている。
「お待ちください、その件に関して私から意見がございます」
「な!?」
そこには平民の女生徒が青い顔で佇んでいた。
40
お気に入りに追加
1,124
あなたにおすすめの小説

【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

【完結】愛人を作るのですか?!
紫崎 藍華
恋愛
マリエルはダスティンと婚約し愛され大切にされた。
それはまるで夢のような日々だった。
しかし夢は唐突に終わりを迎えた。
ダスティンが愛人を作ると宣言したのだ。

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

真実の愛かどうかの問題じゃない
ひおむし
恋愛
ある日、ソフィア・ウィルソン伯爵令嬢の元へ一組の男女が押しかけた。それは元婚約者と、その『真実の愛』の相手だった。婚約破棄も済んでもう縁が切れたはずの二人が押しかけてきた理由は「お前のせいで我々の婚約が認められないんだっ」……いや、何で?
よくある『真実の愛』からの『婚約破棄』の、その後のお話です。ざまぁと言えばざまぁなんですが、やったことの責任を果たせ、という話。「それはそれ。これはこれ」
どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?
石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。
ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。
彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。
八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より

貴方に必要とされたいとは望みましたが……
こことっと
恋愛
侯爵令嬢ラーレ・リンケは『侯爵家に相応しい人間になれ』との言葉に幼い頃から悩んでいた。
そんな私は、学園に入学しその意味を理解したのです。
ルドルフ殿下をお支えするのが私の生まれた意味。
そして私は努力し、ルドルフ殿下の婚約者となったのでした。
だけど、殿下の取り巻き女性の1人グレーテル・ベッカー男爵令嬢が私に囁きました。
「私はルドルフ殿下を愛しております。 そして殿下は私を受け入れ一夜を共にしてくださいました。 彼も私を愛してくれていたのです」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる