27 / 62
25
しおりを挟む
季節は変わり夏になった。
期末試験の成績はやはり及第点を捥ぎ取ったヴァンナは心行くまでバカンスを楽しむ。
「こっちよテリー!ウーゴ!アハハハッ!」
水着を着た彼女は妖艶な肢体をこれでもかとひけらかす。待ってくれとだらしない顔をする二人の男はまっしぐらに彼女を追いかける。
「ふぅ、良い気持ちだわぁ最高!」
青い海をバックにポーズを取る彼女はとても絵になっている、地元の若者が「ぴゅー」と口笛を吹く。誰も彼女が腹黒い天使だとは知らない。
「どうです御嬢さん、あちらでジュースでも」
「あらぁ」
「いやいや、ボクとスイカ割りを」
「んふぅ」
やんややんやと次々とやってくる狼たちに甘い顔をする彼女は良い笑顔だ。
だが、それを良しとしないテリウスとウーゴは忽ち蹴散らし、二度と来るなと息巻いた。
「そんなに怒らないでテリー、ウーゴ、私が美しいのがいけないの」
そういうことじゃないと二人は思ったが、口には出さなかった。はぁ、とため息を漏らすテリウスはスイカジュースを一気に飲んだ。
気分良く浜辺のマーメイドよろしくやっていたヴァンナであったが、ひと際騒がしい一団が来たことに驚愕する。
「なに?なんなのよ、私を取り合う連中かしら?」
「いいや、そうじゃないよ」
渋い顔をするテリウスに「なによう」と文句を垂れるヴァンナである。
「綺麗ね、クリストフ。来て良かったわ」
「うん、そうだねガルネリには海がないからな」
そこにはサマードレスに身を包み微笑んでいる女神がいた。取り立てて妖艶な水着を着ているわけでもない。だが、そこにいるだけで見事なプロポーションだとわかる女性がいた。
アリーチャ・スカリオーネ侯爵令嬢そのひとだった。
彼女を取り巻くのはクリストフ始めやや軽装な護衛たちと、そして地元民の男女たちだった。彼らはデレデレとはしていないが態度が明かに「我らの女神様」と崇めていた。
「ねぇあちらに美味しそうなジュースが…」
「はい!ただいま持ってまいります!」
「私めが!」
「なにを!俺がもって来るぞ!」
と、やっていた、明らかに我こそが女神様の忠心だと謂わんばかりに先を争っていた。それを苦笑して「争わないで」とアリーチャは言っていた。
比較対象にもならないヴァンナはワナワナと震えて怒っていた。
「な、なによあれ……ばっかみたい!」
「で、ですよね、あははは…………美人だすごい美人をみてしまった」
そう思わず呟いてしまったウーゴはヴァンナの嫉妬の琴線に触れてしまい「ドカン!」と土煙に見舞われた。思い切り殴られて白目を剥いてしまった。
「ふん!護衛騎士を引き連れて良い気なもんだわ!ねぇテリウス!」
「え?ああそうだな」
端から興味が無いらしいテリウスを引っ張って「べ~だ!」とやっている。だが、アリーチャはヴァンナのことなど歯牙にもかけないのかゆったりとそこを通り過ぎていってしまった。
「きぃぃーーーなによ、もう!」
***
高級ホテルの一室でアリーチャは微笑んでいた。
「素敵なバカンスに乾杯」
「うん、乾杯」
シャンパンで乾杯するふたりは優雅な晩餐を囲んでいる。魚介がふんだんに使われた料理に舌鼓を打つ、特にアクアパッツァが素晴らしく、旨味がギュッと詰まった味わいはまさに絶品といえた。
「ん~とっても美味しいわ!魚介は苦手だったのだけどこれは病みつきになりそう」
「うん、ほんとうだね!我が国にも届けたい逸品だ」
すっかり堪能したふたりはもう一度乾杯して「もう一品たのもう」と笑い合う。
「な、なによこれ……ここが私達が泊まる場所なの!?」
そこはちゃんとホテルだった、ただ、やや傾きかけた場所だったのが誤算だ。外観は罅が入っており蔦が夥しく茂っていた。
「まぁまぁ、中身だよ。中は綺麗なはずだから」
「まぁ、いいけど……」
外観はともかく中はちゃんとしていた、煤けた室内灯が気にはなったがそこは御愛嬌だ。とにかく食事を摂ろうと食堂へ下りた。
「なにこれ……」
「なにって貝だよ、カキ貝。美味しいよ」
「……うう~ん?」
がらんがらんと貝を無造作に敷き詰めて、女将がこれまた大きな蓋をした。数分で焼き上がるというので待つことにした。
「さぁ、頂こうか」
テリウスが大きな蓋をあけた、もうもうと蒸気が噴き出す「きゃあ」と声をあげるヴァンナ。
「な、なに?」
「蒸しガキだよ、食べ放題だアチチッ」
「ええ……食べ放題って言われても」
ウーゴはどうしたらと良いのかわからない、取り合えずはカキの殻を悪戦苦闘して開いた。やっと食べたが美味いのかどうかわからない。
「ど、どう?ウーゴ?」
「うん、食べられなくはない……ただ、身がちっちゃい」
「そうか……取り合えず食べよう、ほらどんどん開けて」
数分後、どうにもならなくなったヴァンナは匙を投げた。熱いし身は小さいし食べ応えがないのだ。
「は~私はカキなら生がいいわ、こうレモンをキューっと絞ったやつ」
「ああ、あれかやってみる?」
再びやってきた女将に生ガキは食べられるか聞いてみる、出来なくはないらしい。
「わぁ、レモンが良い感じよ!どんどん食べましょう」
やっと想い通りの食事ができて彼女の機嫌が直った。
だが……
「お、お腹が痛い……タスケテ……ひいぃぃ」
「た、たすけてオェェェ」
「ぎゃー!トイレ!トイレ―!」
彼らはカキに見事に当たってしまい、予定を大幅に狂わされたのだった。
期末試験の成績はやはり及第点を捥ぎ取ったヴァンナは心行くまでバカンスを楽しむ。
「こっちよテリー!ウーゴ!アハハハッ!」
水着を着た彼女は妖艶な肢体をこれでもかとひけらかす。待ってくれとだらしない顔をする二人の男はまっしぐらに彼女を追いかける。
「ふぅ、良い気持ちだわぁ最高!」
青い海をバックにポーズを取る彼女はとても絵になっている、地元の若者が「ぴゅー」と口笛を吹く。誰も彼女が腹黒い天使だとは知らない。
「どうです御嬢さん、あちらでジュースでも」
「あらぁ」
「いやいや、ボクとスイカ割りを」
「んふぅ」
やんややんやと次々とやってくる狼たちに甘い顔をする彼女は良い笑顔だ。
だが、それを良しとしないテリウスとウーゴは忽ち蹴散らし、二度と来るなと息巻いた。
「そんなに怒らないでテリー、ウーゴ、私が美しいのがいけないの」
そういうことじゃないと二人は思ったが、口には出さなかった。はぁ、とため息を漏らすテリウスはスイカジュースを一気に飲んだ。
気分良く浜辺のマーメイドよろしくやっていたヴァンナであったが、ひと際騒がしい一団が来たことに驚愕する。
「なに?なんなのよ、私を取り合う連中かしら?」
「いいや、そうじゃないよ」
渋い顔をするテリウスに「なによう」と文句を垂れるヴァンナである。
「綺麗ね、クリストフ。来て良かったわ」
「うん、そうだねガルネリには海がないからな」
そこにはサマードレスに身を包み微笑んでいる女神がいた。取り立てて妖艶な水着を着ているわけでもない。だが、そこにいるだけで見事なプロポーションだとわかる女性がいた。
アリーチャ・スカリオーネ侯爵令嬢そのひとだった。
彼女を取り巻くのはクリストフ始めやや軽装な護衛たちと、そして地元民の男女たちだった。彼らはデレデレとはしていないが態度が明かに「我らの女神様」と崇めていた。
「ねぇあちらに美味しそうなジュースが…」
「はい!ただいま持ってまいります!」
「私めが!」
「なにを!俺がもって来るぞ!」
と、やっていた、明らかに我こそが女神様の忠心だと謂わんばかりに先を争っていた。それを苦笑して「争わないで」とアリーチャは言っていた。
比較対象にもならないヴァンナはワナワナと震えて怒っていた。
「な、なによあれ……ばっかみたい!」
「で、ですよね、あははは…………美人だすごい美人をみてしまった」
そう思わず呟いてしまったウーゴはヴァンナの嫉妬の琴線に触れてしまい「ドカン!」と土煙に見舞われた。思い切り殴られて白目を剥いてしまった。
「ふん!護衛騎士を引き連れて良い気なもんだわ!ねぇテリウス!」
「え?ああそうだな」
端から興味が無いらしいテリウスを引っ張って「べ~だ!」とやっている。だが、アリーチャはヴァンナのことなど歯牙にもかけないのかゆったりとそこを通り過ぎていってしまった。
「きぃぃーーーなによ、もう!」
***
高級ホテルの一室でアリーチャは微笑んでいた。
「素敵なバカンスに乾杯」
「うん、乾杯」
シャンパンで乾杯するふたりは優雅な晩餐を囲んでいる。魚介がふんだんに使われた料理に舌鼓を打つ、特にアクアパッツァが素晴らしく、旨味がギュッと詰まった味わいはまさに絶品といえた。
「ん~とっても美味しいわ!魚介は苦手だったのだけどこれは病みつきになりそう」
「うん、ほんとうだね!我が国にも届けたい逸品だ」
すっかり堪能したふたりはもう一度乾杯して「もう一品たのもう」と笑い合う。
「な、なによこれ……ここが私達が泊まる場所なの!?」
そこはちゃんとホテルだった、ただ、やや傾きかけた場所だったのが誤算だ。外観は罅が入っており蔦が夥しく茂っていた。
「まぁまぁ、中身だよ。中は綺麗なはずだから」
「まぁ、いいけど……」
外観はともかく中はちゃんとしていた、煤けた室内灯が気にはなったがそこは御愛嬌だ。とにかく食事を摂ろうと食堂へ下りた。
「なにこれ……」
「なにって貝だよ、カキ貝。美味しいよ」
「……うう~ん?」
がらんがらんと貝を無造作に敷き詰めて、女将がこれまた大きな蓋をした。数分で焼き上がるというので待つことにした。
「さぁ、頂こうか」
テリウスが大きな蓋をあけた、もうもうと蒸気が噴き出す「きゃあ」と声をあげるヴァンナ。
「な、なに?」
「蒸しガキだよ、食べ放題だアチチッ」
「ええ……食べ放題って言われても」
ウーゴはどうしたらと良いのかわからない、取り合えずはカキの殻を悪戦苦闘して開いた。やっと食べたが美味いのかどうかわからない。
「ど、どう?ウーゴ?」
「うん、食べられなくはない……ただ、身がちっちゃい」
「そうか……取り合えず食べよう、ほらどんどん開けて」
数分後、どうにもならなくなったヴァンナは匙を投げた。熱いし身は小さいし食べ応えがないのだ。
「は~私はカキなら生がいいわ、こうレモンをキューっと絞ったやつ」
「ああ、あれかやってみる?」
再びやってきた女将に生ガキは食べられるか聞いてみる、出来なくはないらしい。
「わぁ、レモンが良い感じよ!どんどん食べましょう」
やっと想い通りの食事ができて彼女の機嫌が直った。
だが……
「お、お腹が痛い……タスケテ……ひいぃぃ」
「た、たすけてオェェェ」
「ぎゃー!トイレ!トイレ―!」
彼らはカキに見事に当たってしまい、予定を大幅に狂わされたのだった。
32
お気に入りに追加
1,124
あなたにおすすめの小説
私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】
青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。
そして気付いてしまったのです。
私が我慢する必要ありますか?
※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定!
コミックシーモア様にて12/25より配信されます。
コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。
リンク先
https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/
どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?
石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。
ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。
彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。
八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。
虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?
リオール
恋愛
両親に虐げられ
姉に虐げられ
妹に虐げられ
そして婚約者にも虐げられ
公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。
虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。
それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。
けれど彼らは知らない、誰も知らない。
彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を──
そして今日も、彼女はひっそりと。
ざまあするのです。
そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか?
=====
シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。
細かいことはあまり気にせずお読み下さい。
多分ハッピーエンド。
多分主人公だけはハッピーエンド。
あとは……
【完結】私は関係ないので関わらないでください
紫崎 藍華
恋愛
リンウッドはエルシーとの婚約を破棄し、マーニーとの未来に向かって一歩を踏み出そうと決意した。
それが破滅への第一歩だとは夢にも思わない。
非のない相手へ婚約破棄した結果、周囲がどう思うのか、全く考えていなかった。
【短編完結】婚約破棄なら私の呪いを解いてからにしてください
未知香
恋愛
婚約破棄を告げられたミレーナは、冷静にそれを受け入れた。
「ただ、正式な婚約破棄は呪いを解いてからにしてもらえますか」
婚約破棄から始まる自由と新たな恋の予感を手に入れる話。
全4話で短いお話です!
両親から溺愛されている妹に婚約者を奪われました。えっと、その婚約者には隠し事があるようなのですが、大丈夫でしょうか?
水上
恋愛
「悪いけど、君との婚約は破棄する。そして私は、君の妹であるキティと新たに婚約を結ぶことにした」
「え……」
子爵令嬢であるマリア・ブリガムは、子爵令息である婚約者のハンク・ワーナーに婚約破棄を言い渡された。
しかし、私たちは政略結婚のために婚約していたので、特に問題はなかった。
昔から私のものを何でも奪う妹が、まさか婚約者まで奪うとは思っていなかったので、多少驚いたという程度のことだった。
「残念だったわね、お姉さま。婚約者を奪われて悔しいでしょうけれど、これが現実よ」
いえいえ、べつに悔しくなんてありませんよ。
むしろ、政略結婚のために嫌々婚約していたので、お礼を言いたいくらいです。
そしてその後、私には新たな縁談の話が舞い込んできた。
妹は既に婚約しているので、私から新たに婚約者を奪うこともできない。
私は家族から解放され、新たな人生を歩みだそうとしていた。
一方で、私から婚約者を奪った妹は後に、婚約者には『とある隠し事』があることを知るのだった……。
婚約者にざまぁしない話(ざまぁ有り)
しぎ
恋愛
「ガブリエーレ・グラオ!前に出てこい!」
卒業パーティーでの王子の突然の暴挙。
集められる三人の令嬢と婚約破棄。
「えぇ、喜んで婚約破棄いたしますわ。」
「ずっとこの日を待っていました。」
そして、最後に一人の令嬢は・・・
基本隔日更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる