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新学期を迎えて三カ月目、中間試験が行われた。
まずは小手調べという感じの試験である、ちゃんと授業を聞き受けているか調べるためだ。その結果次第では教師たちからダメ出しを食らう。
三学年目のアリーチャはいつも通りに良き成績を取っていた、遊学しているクリストフ・アズナブールも彼女の功績を素晴らしいと褒めたたえた。
「いやだ、褒めないでください……恥ずかしい」
「そんな当たり前じゃないか、良くやったよ」
「もう……」
三年目の彼女はさすがに生徒会から退いている、後輩にあとを任せたことで余裕が出て来た。だが、親睦会のほうはまだ二学期まで手伝うことが決まっていた。
「やれやれだわねぇ、立候補制にしたのはいいけど」
「まだ二年生には任せられないのかい?」
「うーん、まるきりというわけじゃないけど、候補生同士でいざこざがね」
やはり選抜式にしたほうが良いのではと彼女は言う、役員は選挙制にすべきという声が多くなっている。
「まあ、どちらにせよ後輩ちゃんたちで決めて欲しいわ」
「そうだね、いつもまでもキミに頼りっぱなしなのは良くない」
「そういうこと」
そんな二人が試験休みのことを話していた頃、ヴァンナは良い笑顔で成績表を見上げていた。
貼り出されていた紙には彼女の名が中間あたりにあったせいだ。
「ふふふ、やったわ!この調子でいけば余裕じゃない?」
「ああ、そうだね。ご苦労様」
早速と及第点をとったらしい彼女の成績はまずまずと言ったところだ。金をばら撒き成績を買っただけのことはある。鼻息荒い彼女は「もっと上位でも良いのに」と言った。
「なにを言ってるんだい、急にとびぬけた成績を取らせるわけにいかないよ」
「どうしてよぉ!」
「だって、キミは下の方にかかれる常連だっただろう?そんな急にあげたら不自然じゃないか」
「そっか、うん、そうだけど……」
いまいち納得できていない様子の彼女だ、だが成績は可もなく不可もなくな点数を捥ぎ取っている。いわゆる普通の成績なのだ。これ以上はいくら教師が不正をしたところで無理な話だ。
「及第点、それ以上は望んじゃいけない。わかるだろう?」
「……わかったわ」
まだ、ヴァンナは少々膨れているが、いつもの最底辺に比べればかなりマシな成績と言えた。
彼女と一旦離れたテリウスは例の「領収書」を握り締めて、アリーチャの元へ向かっていた。
生徒会室を使えなくなった彼女は新しい場所で待っていた。
それは温水プールだった、そこは授業で使われることもなく生徒が出入りするところではない。恰好の場所だった。
湯も落とされたそこはまるで古色蒼然としていた。
「早かったわね、それで証拠は集まったの?」
「ええ、この通りです」
数枚の紙きれを差し出した彼は肩を竦める、『願いは聞き届けた』と書かれた用紙を手渡す。
「ふぅん……願いは聞き届けたね、よく考えたじゃない!あらぁ、金貨15枚ですって数学の教師は業吐くのようね」
『願いは聞き届けた金貨15枚』と書かれた紙を開いて彼女は呆れていた。他に8枚、5枚と書かれた用紙を見る、それらを一纏めにしてファイルに閉じた。
「なかなかな情報だわ、ありがとう。それにしても教師の8割が買収されるだなんてね」
これは由々しき事態だと彼女は思う、これまでも卒業生の中には不正をした上で立派な社会人として旅立ったことになる。
「いずれにせよこの証拠は学園長の耳にもいれないとね」
「はい、そうですね……あの、ヴァナはこのままだと卒業できませんか?」
「そうねぇ、卒業は無理かな退学ということも念頭にいれて」
「そうですか……」
彼はガクリと肩を落として出て行った、成績だけが指標ではないが少なくとも貴族令嬢としては良いことではない。
「彼も困った相手を愛したものだわ」
まずは小手調べという感じの試験である、ちゃんと授業を聞き受けているか調べるためだ。その結果次第では教師たちからダメ出しを食らう。
三学年目のアリーチャはいつも通りに良き成績を取っていた、遊学しているクリストフ・アズナブールも彼女の功績を素晴らしいと褒めたたえた。
「いやだ、褒めないでください……恥ずかしい」
「そんな当たり前じゃないか、良くやったよ」
「もう……」
三年目の彼女はさすがに生徒会から退いている、後輩にあとを任せたことで余裕が出て来た。だが、親睦会のほうはまだ二学期まで手伝うことが決まっていた。
「やれやれだわねぇ、立候補制にしたのはいいけど」
「まだ二年生には任せられないのかい?」
「うーん、まるきりというわけじゃないけど、候補生同士でいざこざがね」
やはり選抜式にしたほうが良いのではと彼女は言う、役員は選挙制にすべきという声が多くなっている。
「まあ、どちらにせよ後輩ちゃんたちで決めて欲しいわ」
「そうだね、いつもまでもキミに頼りっぱなしなのは良くない」
「そういうこと」
そんな二人が試験休みのことを話していた頃、ヴァンナは良い笑顔で成績表を見上げていた。
貼り出されていた紙には彼女の名が中間あたりにあったせいだ。
「ふふふ、やったわ!この調子でいけば余裕じゃない?」
「ああ、そうだね。ご苦労様」
早速と及第点をとったらしい彼女の成績はまずまずと言ったところだ。金をばら撒き成績を買っただけのことはある。鼻息荒い彼女は「もっと上位でも良いのに」と言った。
「なにを言ってるんだい、急にとびぬけた成績を取らせるわけにいかないよ」
「どうしてよぉ!」
「だって、キミは下の方にかかれる常連だっただろう?そんな急にあげたら不自然じゃないか」
「そっか、うん、そうだけど……」
いまいち納得できていない様子の彼女だ、だが成績は可もなく不可もなくな点数を捥ぎ取っている。いわゆる普通の成績なのだ。これ以上はいくら教師が不正をしたところで無理な話だ。
「及第点、それ以上は望んじゃいけない。わかるだろう?」
「……わかったわ」
まだ、ヴァンナは少々膨れているが、いつもの最底辺に比べればかなりマシな成績と言えた。
彼女と一旦離れたテリウスは例の「領収書」を握り締めて、アリーチャの元へ向かっていた。
生徒会室を使えなくなった彼女は新しい場所で待っていた。
それは温水プールだった、そこは授業で使われることもなく生徒が出入りするところではない。恰好の場所だった。
湯も落とされたそこはまるで古色蒼然としていた。
「早かったわね、それで証拠は集まったの?」
「ええ、この通りです」
数枚の紙きれを差し出した彼は肩を竦める、『願いは聞き届けた』と書かれた用紙を手渡す。
「ふぅん……願いは聞き届けたね、よく考えたじゃない!あらぁ、金貨15枚ですって数学の教師は業吐くのようね」
『願いは聞き届けた金貨15枚』と書かれた紙を開いて彼女は呆れていた。他に8枚、5枚と書かれた用紙を見る、それらを一纏めにしてファイルに閉じた。
「なかなかな情報だわ、ありがとう。それにしても教師の8割が買収されるだなんてね」
これは由々しき事態だと彼女は思う、これまでも卒業生の中には不正をした上で立派な社会人として旅立ったことになる。
「いずれにせよこの証拠は学園長の耳にもいれないとね」
「はい、そうですね……あの、ヴァナはこのままだと卒業できませんか?」
「そうねぇ、卒業は無理かな退学ということも念頭にいれて」
「そうですか……」
彼はガクリと肩を落として出て行った、成績だけが指標ではないが少なくとも貴族令嬢としては良いことではない。
「彼も困った相手を愛したものだわ」
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