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「赤14、次入ります」
悲喜交交な表情を浮かべる常連客たちはチップをベットし続ける。そんな中に目を血走らせている者がひとり、テリウス王子だ。彼は替えたばかりのチップを握りしめて、トントンとベットしていった。
「こい!黒だ黒……いいやファーストダズンとスプリットだ」
先ほど彼はオッドに賭けて大勝したばかりだ、今日は調子が良いと顔を高揚させていた。二度目は外したので悩ましい限りだ。そうこうしているうちにスプリットは見事に当たった。
「よし!いいぞ、この調子だ……ふふふっ」
調子の良い彼を横目にモノクルを掛けた紳士が一人割って入った、ちらりとディーラーと目線が交わされた。それは僅かな瞬間だったので回転盤に夢中なテリウスにはわからない。
「黒22」
「そんな!くっそ……次だ次!サードダズンとラインに賭けるぞ」
この様子で次々とベットしていくテリウスは大勝した分を丸ごと吸収されてガクリと肩を落とした。手持ちは少ないがここでカードに変更していった。
すると見兼ねた老紳士が「この辺で手を引いたほうが賢明ですぞ」と手ほどきをする。賭け事は引くときが肝心だとそう説くのだが、彼には届かない。
「煩いな、俺はポーカーで勝ちたいんだ!今日は調子がいいのだからな」
「調子が良い?まさかそんな戯言をいうとは、呆れました」
肩を竦めて退散した老紳士は「ではお先に」と言って帰宅して行った。それを見ながらテリウスは「ふん」と鼻で笑い飛ばして「気が弱いことだ」と小馬鹿にした。
最初は金儲けなど下らないことだと思っていた。
小遣い程度の安いチップを適当に置いた、するとどういうわけか36倍になって帰ってきた。ストレートアップというものらしかった。彼も連れのヴァンナも驚きを隠せない。
一気に賭け事にドハマりした、なんてことはない簡単で単純なルールだ。それなのにとても興奮した、賭ければ賭けるほど大当たりして向かう所敵なし状態になった。
だが、これはビギナーズラックというものだ。
所詮は賭け事だ、勝てるばかりではない。負けることも考慮して上手く立ち回るのが嗜みだ。だが、愚かにもハマった彼はやがて食い物にされた。
そう、先ほどのモノクルの紳士がディーラーと目線で交わしたように、勝ったとみせかけて後にがっつり吸収する。カジノでのルールは勝ち逃げは許されないのだ。
「調子はいかがかな、今宵は熱くなりそうだ」
「ああ、そうだな!負ける気がしない」
調子ずいているテリウスは豪語する、モノクルの紳士はにっこり微笑み、勝負を挑んで来た。
「なぜだ……どうして勝てない!」
3回に一回だけ勝たせてやれば後は落ちて行くのみ、勝手に身持ちを崩して去って行く。それでも諦めが悪い彼は何度でも挑んでくる。
「いい加減諦めたら如何か、もうチップはないのでしょう?」
「い、いやしかし……ここで止めては」
借金の事が頭を過って焦りを滲ませる、脂汗が滴る彼には余裕は一切ない。闇金の利息は十一である、待ってはくれない。
「ふむ、なにやら事情がおありのようだ。どうでしょう新しいゲームに挑戦してみませんか?」
「あ、新しいゲームだと?」
紳士はニタリと嗤ってこう言った。
「バカラですよ、なにルールは単純だ。数字の9に近ければ良い、プレイヤーとバンカーに別れて遊ぶのですよ」
「そ、それはどこで?どのように遊ぶのだ!」
乗り気な彼は前のめりになって聞いてきた。
「私どもは賭け事に熱いお客様を御招待しているのです、秘密のエリアにいらっしゃい」
愚かなテリウスはまんまと口車に乗せられて、まだ見ぬゲームへと誘われたのだ。本当の破滅はここからだ。
悲喜交交な表情を浮かべる常連客たちはチップをベットし続ける。そんな中に目を血走らせている者がひとり、テリウス王子だ。彼は替えたばかりのチップを握りしめて、トントンとベットしていった。
「こい!黒だ黒……いいやファーストダズンとスプリットだ」
先ほど彼はオッドに賭けて大勝したばかりだ、今日は調子が良いと顔を高揚させていた。二度目は外したので悩ましい限りだ。そうこうしているうちにスプリットは見事に当たった。
「よし!いいぞ、この調子だ……ふふふっ」
調子の良い彼を横目にモノクルを掛けた紳士が一人割って入った、ちらりとディーラーと目線が交わされた。それは僅かな瞬間だったので回転盤に夢中なテリウスにはわからない。
「黒22」
「そんな!くっそ……次だ次!サードダズンとラインに賭けるぞ」
この様子で次々とベットしていくテリウスは大勝した分を丸ごと吸収されてガクリと肩を落とした。手持ちは少ないがここでカードに変更していった。
すると見兼ねた老紳士が「この辺で手を引いたほうが賢明ですぞ」と手ほどきをする。賭け事は引くときが肝心だとそう説くのだが、彼には届かない。
「煩いな、俺はポーカーで勝ちたいんだ!今日は調子がいいのだからな」
「調子が良い?まさかそんな戯言をいうとは、呆れました」
肩を竦めて退散した老紳士は「ではお先に」と言って帰宅して行った。それを見ながらテリウスは「ふん」と鼻で笑い飛ばして「気が弱いことだ」と小馬鹿にした。
最初は金儲けなど下らないことだと思っていた。
小遣い程度の安いチップを適当に置いた、するとどういうわけか36倍になって帰ってきた。ストレートアップというものらしかった。彼も連れのヴァンナも驚きを隠せない。
一気に賭け事にドハマりした、なんてことはない簡単で単純なルールだ。それなのにとても興奮した、賭ければ賭けるほど大当たりして向かう所敵なし状態になった。
だが、これはビギナーズラックというものだ。
所詮は賭け事だ、勝てるばかりではない。負けることも考慮して上手く立ち回るのが嗜みだ。だが、愚かにもハマった彼はやがて食い物にされた。
そう、先ほどのモノクルの紳士がディーラーと目線で交わしたように、勝ったとみせかけて後にがっつり吸収する。カジノでのルールは勝ち逃げは許されないのだ。
「調子はいかがかな、今宵は熱くなりそうだ」
「ああ、そうだな!負ける気がしない」
調子ずいているテリウスは豪語する、モノクルの紳士はにっこり微笑み、勝負を挑んで来た。
「なぜだ……どうして勝てない!」
3回に一回だけ勝たせてやれば後は落ちて行くのみ、勝手に身持ちを崩して去って行く。それでも諦めが悪い彼は何度でも挑んでくる。
「いい加減諦めたら如何か、もうチップはないのでしょう?」
「い、いやしかし……ここで止めては」
借金の事が頭を過って焦りを滲ませる、脂汗が滴る彼には余裕は一切ない。闇金の利息は十一である、待ってはくれない。
「ふむ、なにやら事情がおありのようだ。どうでしょう新しいゲームに挑戦してみませんか?」
「あ、新しいゲームだと?」
紳士はニタリと嗤ってこう言った。
「バカラですよ、なにルールは単純だ。数字の9に近ければ良い、プレイヤーとバンカーに別れて遊ぶのですよ」
「そ、それはどこで?どのように遊ぶのだ!」
乗り気な彼は前のめりになって聞いてきた。
「私どもは賭け事に熱いお客様を御招待しているのです、秘密のエリアにいらっしゃい」
愚かなテリウスはまんまと口車に乗せられて、まだ見ぬゲームへと誘われたのだ。本当の破滅はここからだ。
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