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幽鬼のような足取りで歩き、すれ違う者を驚かせるのはテリウス・サトゥルノ第4王子だ。彼は覇気の欠片もない様子でフラフラと歩いていた。途中で見知った者が声を掛けたが反応が悪く、肩を竦めて「お大事に」と言われる始末だ。
そこへ空気の読めない女ヴァンナがやってきて「王子ぃ♪愛してるぅ」と絡んで来た。
「ねえテリーったら、こっちを向いてぇ、あのね私欲しいものがあるのぉ」
間延びした言い方をする彼女は極上の笑顔で誘惑してきた、いつもの王子だったなら『なんだい俺のハニー』などと言って鼻の下を伸ばしていた事だろう。だが、今は事情が違うのだ。
「はぁ、どうしたら良いんだ……だが、あそこでベットしなければ男ではない、一発勝負で……ブツブツ」
「はい?テリーったら何を言っているの?あのね私は欲しいドレスがあってね」
「うん、わかってる。黒の17いいや29だな、はははっ最高だ……」
「テリー?」
噛み合わない会話に呆れるヴァンナは「なによもう!」と膨れてその場を立ち去る。近頃は一緒にいても上の空のことが増えていると彼女はご機嫌斜めだった。
そこへ平民の女生徒が通りかかる、今年に入り一気に入学してきた一団の一人だ。たしか成績が優秀で特待生だとか。
「ちょっと、そこの平民!お待ちなさい」
「え……私ですか?」
オドオドする女生徒は気が弱いと見えて、下を向いてしまった。これは良いカモと見たヴァンナはニタリと嗤い貴族風を吹かせてきた。
「私はいま苛立っているの、何か面白いことをしてみなさいよ」
「え、いきなりそんな事を言われても……無茶です」
「は?なんですって!」
激高したヴァンナは手を振りかざして女生徒を叩こうとした。
「生意気なのよ!この愚民が!」
「ひぃ!」
しかし、咄嗟にヴァンナの手はパシンと跳ねのけられてしまう。痛みと衝撃で転倒してしまったのは彼女のほうだった。
「痛い!何をするのよ!酷いわ」
「酷いのはどちらですか、いきなり手を上げるなんて卑怯ですよ」
「んな!?なんですって……あ」
喰ってかかった人物見てたじろぐ、それはアリ―チャ・スカリオーネ侯爵令嬢そのひとだった。彼女はキリッとした目でヴァンナを睨みつけていた。
「な、なによ……この」
「あら、ごめんなさいも言えないの?それとも貴女に倣って貴族風にやり返せば良いのかしら?」
「ひい!わ、私はそんなつもりじゃ」
貴族風と言われたヴァンナはこれは拙いと思った、仮にも目上の立場にある侯爵令嬢相手に喧嘩を売ったのだから、しかも今はテリウスの七光りも通用しない。
「も、申し訳……ございませんでした……」
唇をギリリと噛み目線を下に落として謝る彼女は悔しそうに謝罪した。
「ふ、とても申し訳ないとは思っていないようだけど、まぁいいわここは許します。去りなさい」
「……く、失礼します」
肩を怒らせて去って行くさまは破落戸とようだとアリーチャは思うのだった。
「あ、ありがとうございます!生徒会長」
「あら、いいのよ。貴女も理不尽にされて怖かったでしょう」
アリーチャはなるべく穏便に済まそうと穏やかな笑みをたたえてそう言った。
「はいぃ、素敵です……会長様。ポッ」
ブツクサと文句を言いながらカフェに入って行くヴァンナはドスドスという擬音が良く似合う。それを見咎めたとある女生徒が「スカートが汚れてますわ」と注意をした。
「え!?あら、いけない私としたことが……」
「こちらをお使いになって、遠慮はいりませんわ」彼女は手巾を取り出して彼女に手渡す。
「……ありがとう、お名前は?」
「私はキンブリー。カロル・キンブリー、しがない伯爵家の娘です」
「あ、あらそうでしたの。失礼しましたわ」
またも目上の相手にドギマギする彼女は自己紹介する、たかが男爵令嬢では歯が立たない。
「あのぉ、良ければ何があったのか伺っても?そのように汚れるなんて可笑しいわ」
「っ!実はスカリオーネ令嬢に……」
ここぞという所で泣き落としをするヴァンナは脚色して事のあらましを語った。都合の悪い箇所は当然に消去して。
するとどうだろうか、正義感に溢れる彼女は激高して「許せません!いきなり殴るなんて」と怒り出した。
これは良い味方を見つけたと判断したヴァンナはしたり顔をした。
そこへ空気の読めない女ヴァンナがやってきて「王子ぃ♪愛してるぅ」と絡んで来た。
「ねえテリーったら、こっちを向いてぇ、あのね私欲しいものがあるのぉ」
間延びした言い方をする彼女は極上の笑顔で誘惑してきた、いつもの王子だったなら『なんだい俺のハニー』などと言って鼻の下を伸ばしていた事だろう。だが、今は事情が違うのだ。
「はぁ、どうしたら良いんだ……だが、あそこでベットしなければ男ではない、一発勝負で……ブツブツ」
「はい?テリーったら何を言っているの?あのね私は欲しいドレスがあってね」
「うん、わかってる。黒の17いいや29だな、はははっ最高だ……」
「テリー?」
噛み合わない会話に呆れるヴァンナは「なによもう!」と膨れてその場を立ち去る。近頃は一緒にいても上の空のことが増えていると彼女はご機嫌斜めだった。
そこへ平民の女生徒が通りかかる、今年に入り一気に入学してきた一団の一人だ。たしか成績が優秀で特待生だとか。
「ちょっと、そこの平民!お待ちなさい」
「え……私ですか?」
オドオドする女生徒は気が弱いと見えて、下を向いてしまった。これは良いカモと見たヴァンナはニタリと嗤い貴族風を吹かせてきた。
「私はいま苛立っているの、何か面白いことをしてみなさいよ」
「え、いきなりそんな事を言われても……無茶です」
「は?なんですって!」
激高したヴァンナは手を振りかざして女生徒を叩こうとした。
「生意気なのよ!この愚民が!」
「ひぃ!」
しかし、咄嗟にヴァンナの手はパシンと跳ねのけられてしまう。痛みと衝撃で転倒してしまったのは彼女のほうだった。
「痛い!何をするのよ!酷いわ」
「酷いのはどちらですか、いきなり手を上げるなんて卑怯ですよ」
「んな!?なんですって……あ」
喰ってかかった人物見てたじろぐ、それはアリ―チャ・スカリオーネ侯爵令嬢そのひとだった。彼女はキリッとした目でヴァンナを睨みつけていた。
「な、なによ……この」
「あら、ごめんなさいも言えないの?それとも貴女に倣って貴族風にやり返せば良いのかしら?」
「ひい!わ、私はそんなつもりじゃ」
貴族風と言われたヴァンナはこれは拙いと思った、仮にも目上の立場にある侯爵令嬢相手に喧嘩を売ったのだから、しかも今はテリウスの七光りも通用しない。
「も、申し訳……ございませんでした……」
唇をギリリと噛み目線を下に落として謝る彼女は悔しそうに謝罪した。
「ふ、とても申し訳ないとは思っていないようだけど、まぁいいわここは許します。去りなさい」
「……く、失礼します」
肩を怒らせて去って行くさまは破落戸とようだとアリーチャは思うのだった。
「あ、ありがとうございます!生徒会長」
「あら、いいのよ。貴女も理不尽にされて怖かったでしょう」
アリーチャはなるべく穏便に済まそうと穏やかな笑みをたたえてそう言った。
「はいぃ、素敵です……会長様。ポッ」
ブツクサと文句を言いながらカフェに入って行くヴァンナはドスドスという擬音が良く似合う。それを見咎めたとある女生徒が「スカートが汚れてますわ」と注意をした。
「え!?あら、いけない私としたことが……」
「こちらをお使いになって、遠慮はいりませんわ」彼女は手巾を取り出して彼女に手渡す。
「……ありがとう、お名前は?」
「私はキンブリー。カロル・キンブリー、しがない伯爵家の娘です」
「あ、あらそうでしたの。失礼しましたわ」
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「っ!実はスカリオーネ令嬢に……」
ここぞという所で泣き落としをするヴァンナは脚色して事のあらましを語った。都合の悪い箇所は当然に消去して。
するとどうだろうか、正義感に溢れる彼女は激高して「許せません!いきなり殴るなんて」と怒り出した。
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