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クルクルと回転する回転盤ルーレットに球が吸い込まれて行く、ガラガラと刻むような音が耳にこびり付き見守る者達が固唾を飲む。
ノアール8だ!」
「やったわ!三十六倍よ!やったやった!」
小躍りするヴァンナはチップを搔き集めてご満悦だ、ちらりとディーラーが気難しい顔をする。無作法だとでも言いたげだ。

「よしよし、いいぞ。俺には賭け事の才能があるんじゃないか?」
ホクホク顔のテリウス王子は次はどこに掛けるかワクワクしている、3回に一度は涙を呑んでいたが通算で考えれば負け越してはいない。
「よし、次はポーカーだ!負ける気がしないぞ」
「その調子よテリー!頑張って!」
宣言通りにストレートフラシュを出して、大儲けをしたテリーは調子ずく。その晩の彼らは向かう所敵なし状態であった。

「うまいことやりますなお若いの、次は負けませんよ?」
初老の紳士が人懐こい笑顔でチップコインを弾く、気が大きくなっていたテリウスは大法螺を吹き「次も勝ってみせるさ」とウインクした。

「ははははっ!カジノは初めてだがやってみると面白いものだな!掛ける金子は小遣い程度だし」
「ふふふ、言ったじゃないの!少々の刺激は必要だとね」
「ああ、本当だな!愉快愉快!」
この時の彼らは地に足が着いておらずフワフワとした浮遊感でいっぱいだった。そして、勝ち誇った王子はそのまま細かく仕切られた小部屋へとヴァンナを連れ込む。

そこは本来、遊戯に疲れた者達が仮眠をとる場所だ。
だが痴れ者の彼らは違う目的でその寝室を使うのだ、クラバットを崩した彼は彼女の豊満な膨らみに手をやった。
「いいだろう、ヴァナ。可愛がってやるよ」
「うふふ、イケナイ人……いいわ来て?」


***

記録魔道具を停止させて深くため息を漏らしたアリーチャは「なんということ」と呟く。
夜な夜な紳士倶楽部へ入り浸り賭け事に興じており、あまつさえ言葉にすることも憚れることをやらかしていることを見た。
「とっても不愉快なものを見たわ、あぁ腹立たしいこと。ねぇそう思わなくてドニ?」
彼女は左端の空間をじっと見つめて影が落ちてくるのを待った。

「はい、その通りでございます」
「え、そっち!?なんで右端から落ちてくるのよ!」
てっきり左端から出てくるとばかり思った主はプリプリと立腹して机をパシパシ叩いた。

「もう、いいわ。とにかく良い情報をありがとう。賭博場に出入りしているのは大問題だもの!きっと御父様も動いてくださるでしょう」
するとドニは訝しい顔をして「果たしてそうでしょうか」と宣う。まだ足りないのではというのだ。
「どうして?これほどの情報なのよ、剰えヴァンナを個室に連れ込んであんなことやそんなことを」

「いいえ、状況証拠ではありますが、紳士倶楽部は王侯貴族も出入りしております。もし事が露見しますと都合が悪い輩たくさん出て参ります。ちなみにスカリオーネ卿も過去何度か利用実績がございます」
「な!お父様までも!?」

賭博場の利用はしていないらしいが、歓談に訪れシガーを嗜む姿があったという。
「なんという不品行!不埒な!こんな弊害があるなんて」
愕然とするアリーチャであるが、隠密ドニは「今しばらくお待ちいただければ」と言う。

「どういう意味かしら?」
彼女は頬に手を当てて”?”を頭の上に浮かばせんが如く頭を捻る。したり顔のドニは「面白い結果がでますまでお待ちください」と言うだけだった。

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