12 / 13
10
しおりを挟む
不敬の罪でダニエルは鞭打ち100回の上、2週間の断食を強いられた。
打たれた体の激痛と空腹で、獄中で嘆き苦しみ大騒ぎを連日していた。
「反省の色がみえねぇな、大分軽い方だぞ。極刑を免れたのは貴族令嬢の温情だ有難く思え」
2週間ぶりの水と硬いパンを置いて看守が去って行く。
「なにが温情だ……俺は元公爵の息子なんだぞ!畜生!あの女調子に乗りやがって」
鞭で皮膚の表面を裂かれた背中がジリジリと痛む。
それが余計に彼を苛立たせて逆恨みの思いはつのるばかりだった。
農夫として更生の片鱗を見せたかと思えば、かつての妻を見た途端に湧きあがる怨嗟の念が止めらなかった。
ダニエルは何ひとつ変わっていない。
投獄されて1か月後、開放されたダニエルは痩せこけた体に鞭を打ち、愛しいレイチェルが留置された詰所へ急いだ。
面会で通された地下牢はダニエルが居た平民街のより清潔だった。
特別冷遇されたわけでもないと知り、ダニエルは少し安堵した。だが処刑待ちという立場は変わらない。
案内した看守は「面会は10分だ」とぶっきら棒に言って入口へ戻っていった。
地下1階の独房の一番奥にレイチェルがいた。だがそれは溺愛していた容姿とは大きくかけ離れていた。
「レ……イチェル?いや部屋が違うのか?」
独房の中にいた女はオーガのような容姿だった、人違いだと看守を呼ぼうとしたダニエル。
しかし彼を呼ぶ声に足を止めた。
「ダニー……ダニーよね?あぁごめんなさい、あの時はどうかしてたわ。逃げた私を許して」
聞き覚えがあるその声にダニエルは愕然とする。
猪豚の化け物のような女がレイチェルだなんて俄かに信じ難かった。
両腕で自身を抱きカタカタ震えるダニエル、「嘘だ、何かの間違いだ」とブツブツ呟く。
「ダニー?」
ごそごそと毛布から這い出てきたレイチェルが鉄格子近くへやってきた。
肥えた体から酸化した脂臭さが漂う、ダニーは顔を顰めて後ずさる。
「なによその態度!ほんのちょっと太っただけでしょ、恋人が苦しんでるのよ!すぐに減刑の申し立てしなさいよ!どうせお金もないんでしょ、ディアヌに媚びてなんとかしなさい!」
「ギャアギャアと醜く騒ぐこれが俺のレイチェルだと?」
そんなバカなとダニエルは叫び牢屋から飛び出した。後方から女がなにか叫んでいたが聞きたくないと耳を塞いだ。
「ディアヌに媚びれ?ふざけるな!物乞いのような真似誰がするものか!」
悪夢から覚めたような顔でダニエルは農場へ逃げ帰った。
しかし、ひと月も不在だった期間に投獄されていた事が露見して、あえなく農場をクビになった。
自棄を起こしたダニエルは亡き父親と同じに落ちていった。
やがて炭鉱で使役される奴隷にまで身を落とした、灰を患ってしまう仕事に従事する者は長く生きられない。
それが愚息ダニエルの運命だったのかもしれない。
打たれた体の激痛と空腹で、獄中で嘆き苦しみ大騒ぎを連日していた。
「反省の色がみえねぇな、大分軽い方だぞ。極刑を免れたのは貴族令嬢の温情だ有難く思え」
2週間ぶりの水と硬いパンを置いて看守が去って行く。
「なにが温情だ……俺は元公爵の息子なんだぞ!畜生!あの女調子に乗りやがって」
鞭で皮膚の表面を裂かれた背中がジリジリと痛む。
それが余計に彼を苛立たせて逆恨みの思いはつのるばかりだった。
農夫として更生の片鱗を見せたかと思えば、かつての妻を見た途端に湧きあがる怨嗟の念が止めらなかった。
ダニエルは何ひとつ変わっていない。
投獄されて1か月後、開放されたダニエルは痩せこけた体に鞭を打ち、愛しいレイチェルが留置された詰所へ急いだ。
面会で通された地下牢はダニエルが居た平民街のより清潔だった。
特別冷遇されたわけでもないと知り、ダニエルは少し安堵した。だが処刑待ちという立場は変わらない。
案内した看守は「面会は10分だ」とぶっきら棒に言って入口へ戻っていった。
地下1階の独房の一番奥にレイチェルがいた。だがそれは溺愛していた容姿とは大きくかけ離れていた。
「レ……イチェル?いや部屋が違うのか?」
独房の中にいた女はオーガのような容姿だった、人違いだと看守を呼ぼうとしたダニエル。
しかし彼を呼ぶ声に足を止めた。
「ダニー……ダニーよね?あぁごめんなさい、あの時はどうかしてたわ。逃げた私を許して」
聞き覚えがあるその声にダニエルは愕然とする。
猪豚の化け物のような女がレイチェルだなんて俄かに信じ難かった。
両腕で自身を抱きカタカタ震えるダニエル、「嘘だ、何かの間違いだ」とブツブツ呟く。
「ダニー?」
ごそごそと毛布から這い出てきたレイチェルが鉄格子近くへやってきた。
肥えた体から酸化した脂臭さが漂う、ダニーは顔を顰めて後ずさる。
「なによその態度!ほんのちょっと太っただけでしょ、恋人が苦しんでるのよ!すぐに減刑の申し立てしなさいよ!どうせお金もないんでしょ、ディアヌに媚びてなんとかしなさい!」
「ギャアギャアと醜く騒ぐこれが俺のレイチェルだと?」
そんなバカなとダニエルは叫び牢屋から飛び出した。後方から女がなにか叫んでいたが聞きたくないと耳を塞いだ。
「ディアヌに媚びれ?ふざけるな!物乞いのような真似誰がするものか!」
悪夢から覚めたような顔でダニエルは農場へ逃げ帰った。
しかし、ひと月も不在だった期間に投獄されていた事が露見して、あえなく農場をクビになった。
自棄を起こしたダニエルは亡き父親と同じに落ちていった。
やがて炭鉱で使役される奴隷にまで身を落とした、灰を患ってしまう仕事に従事する者は長く生きられない。
それが愚息ダニエルの運命だったのかもしれない。
266
お気に入りに追加
474
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

真実の愛かどうかの問題じゃない
ひおむし
恋愛
ある日、ソフィア・ウィルソン伯爵令嬢の元へ一組の男女が押しかけた。それは元婚約者と、その『真実の愛』の相手だった。婚約破棄も済んでもう縁が切れたはずの二人が押しかけてきた理由は「お前のせいで我々の婚約が認められないんだっ」……いや、何で?
よくある『真実の愛』からの『婚約破棄』の、その後のお話です。ざまぁと言えばざまぁなんですが、やったことの責任を果たせ、という話。「それはそれ。これはこれ」

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?
しゃーりん
恋愛
アヴリルは2年前、王太子殿下から婚約破棄を命じられた。
そして今日、第一王子殿下から離婚を命じられた。
第一王子殿下は、2年前に婚約破棄を命じた男でもある。そしてアヴリルの夫ではない。
周りは呆れて失笑。理由を聞いて爆笑。巻き込まれたアヴリルはため息といったお話です。

愛人がいる夫との政略結婚の行く末は?
しゃーりん
恋愛
子爵令嬢セピアは侯爵令息リースハルトと政略結婚した。
財政難に陥った侯爵家が資産家の子爵家を頼ったことによるもの。
初夜が終わった直後、『愛する人がいる』と告げたリースハルト。
まごうことなき政略結婚。教会で愛を誓ったけれども、もう無効なのね。
好きにしたらいいけど、愛人を囲うお金はあなたの交際費からだからね?
実家の爵位が下でも援助しているのはこちらだからお金を厳しく管理します。
侯爵家がどうなろうと構わないと思っていたけれど、将来の子供のために頑張るセピアのお話です。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛
Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。
全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる