融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)

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ボヤ騒ぎから数日後、ディアヌは護衛達を付けて町に出ていた。
オレンジの芳香剤の試作品を詰める小瓶や箱を探すためだ、雑貨店をいろいろ回る予定だ。

2件目で良さそうな小さな小瓶を買い、上機嫌のディアヌである。
4件目を回った所でさすがに疲れたのでカフェに寄ることにした。

「振りまわしてごめんなさい、好きなもの頼んでいいわ」
「ありがとうございます、甘いもん食べたいです!」
「おい、はしゃぐな、みっともねぇ」
二人の騎士のやり取りにディアヌは微笑む。

とあるカフェの前で誰かとぶつかった、野菜を持った商人風の男性だ。
「すみません、ちょっとフラついてしまって」陽に焼けた体を縮こませて謝罪する男。

「いいえ、こちらこそ不注意でしたわ」
ディアヌは軽く会釈して去ろうとしたがグイっと腕を掴まれた。
「きゃぁ!?」

護衛が慌てて男を引きはがし、地面に叩き伏せた。
「貴様!お嬢様に気安く触れるな、貴族に無体など頭がおかしいのか?」
平民は即座に斬り捨てられても文句が言えない立場だ、護衛の対応は甘いくらいである。

ディアヌは、男の正体に気が付き動転した。
「あなた、ダニエル?」

体つきは大分違うが陽に焼けた顔は前夫に間違いなかった。
這い蹲りディアヌの顔を睨み上げるダニエル、相変わらず性根は腐っている様子。

「お前のせいでレイチェルが居なくなった!どうしてくれるのだ、私の最愛で真実の愛だったのだぞ!」
興奮して顔を赤くするダニエル、暴れようと藻掻くので騎士が背を踏みつける。

が逃げるなんておかしい話ではなくて?」
冷静な物言いでディアヌは男に冷徹な目を向けた。

「な、なにを!」
「そうそうレイチェルなら数日前に会いました、随分と逞しくなられてたわ」
嫌味たっぷりに聞かせてやればダニエルが目を見開いて喚いた。

「どこでだ!教えろ醜女!命令だ!」
貴族相手に平民が命令だと騒ぎたてるものだから、街行く人々が集まって野次りはじめる。

「おい、にいちゃん。貴族相手にバカか?」「死にたいのかしら」「阿呆だな」「頭いかれてる」
野次馬たちが好き勝手にダニエルを罵倒する。

「命令でなければ教えてあげますよ、おバカさん」
ディアヌの顔から表情が抜け落ちた、完全にご立腹の様子だ。破産して子爵位も無くして尚ダニエルは矜持だけは山より高いようだ。

「ぐぬ、おのれぇ」

「お嬢様、斬り捨てるか衛兵に引き渡しましょう」
護衛騎士が促すようにいう、時間の無駄だと肩を竦めた。

斬り捨てと聞いてダニエルは急に青くなった、プライドはあっても身分は底辺のことを今更思い出し後悔した。

「ま、待ってくれ。待ってください!レイチェルのことを聞きたいだけなんです」
急に殊勝になったダニエルに周囲が呆れた。興味が失せた野次馬達は方々に散っていった。

「教えて……ください。彼女がいないと俺は」無駄な抵抗を漸く止めたダニエルは懇願してきた。
なんて無様なのだろうとデイアヌは自分に置き換えて空恐ろしくなる。

「いいですわ、教えましょう。」
デイアヌの慈悲の言葉に微かに希望の光を見たダニエル、だが次の瞬間絶望に変わった。

「レイチェルは我がケリング家で火付け強盗を働きました、火付けは有無言わさず死刑です。貴族街の衛兵詰所の牢屋で処刑を待っているでしょう」

「それでは」とレイチェルはカフェへと優雅に去っていく。

ダニエルは地に頭をつけたまま動かなくなった、完全に思考が固まってしまったのだろう。
そして護衛のひとりに捕縛され衛兵へと引き渡された。
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